ニューメイク、その新しい夜明け(下)

September 9, 2015

熟成を待たずにボトリングされる「ニューメイク」は、単なる未熟なウイスキーなのか。古来ウイスキーの原型である「ウスケバ」の再来や、新カテゴリー「モルトオードヴィー」の成立も予感させるさまざまなアプローチ。常識を覆す生産現場の声を聞く。

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文:テッド・ブルーニング

ストラスアーン蒸溜所のトニー・リーマン=クラークは「ウスケバ」の提唱者。カクテルベースとしての品質に自信を見せる。

ニューメイクをボトリングした製品のために、「未成熟なスピリッツ」というサブカテゴリーは成立可能なのだろうか。スピリッツ類の棚に、モルトオードヴィーという枠を設けられるのか。アビンジャラク蒸溜所のマーク・テイバーンとストラスアーン蒸溜所のトニー・リーマン=クラークは自作のスピリッツを「ウスケバ」と呼んでいるが、結局はこれほど適切な名称もないだろう。「モルトスピリッツ」では魅力に欠けるし、「モルトオードヴィー」はどうも語呂が悪くて言いにくい。

トニー・リーマン=クラークはストラスアーン蒸溜所の設立2周年を祝い、2年物のウスケバをこの10月に発売する予定だ。量は少いが、限定発売で話題性を狙う。彼はこのスピリッツがカクテルに革命を起こすと踏んでいるのだ。

「ジンの代わりに、ウスケバでつくったマティーニを想像してください。モルトと甘味とビスケットのような風味が、相当な深みをもたらしてくれるはずです」

マーク・テイバーンもまた、「スピリット・オブ・ルイス」の人気に驚いているという。

「10年もののモルトだと思ったお客様もいらっしゃいます。商品名のスピリット・オブ・ルイスで注文してくれるので、需要があるかぎりは供給し続けますよ」

アナンデール蒸溜所のデーヴィッド・トンプソンは、トレードショーにやってくるウイスキー専門家でさえ「ラスカリー・リカー」の複雑さに騙されるのだと語る。同蒸溜所はロンドンの人気デザイン事務所と手を組んでブランディングとパッケージのデザインに注力した。

アビンジャラク蒸溜所のマーク・テイバーンは、18~19世紀のヘブリディーズ諸島のウスケバを再現した「スピリット・オブ・ルイス」の人気に驚いている。

「蒸溜所のツアー参加者を対象にニューメイクを販売しました。お客様は品質に心から驚いて、その虜になっています。自社のウェブサイトでも紹介していますが、電話でのお問合せも多いのでウイスキー専門店に置いてもらう予定です」

そしてイングリッシュスピリットのジョン・ウォルターズも「イングリッシュ・モルト・スピリッツ」がポートフォリオのひとつとして確立されたことを喜んでいる。マイクロブリュワリーから入手するウォッシュを契約に従って蒸溜し、その数はどんどん増えているという。

「若々しさとフレッシュな特徴がプラスに転じるんです。12年も待たなければならない状況を、いったい誰が望むのでしょう?」

 

モルトオードヴィーの時代は来るか

コッツウォルド蒸溜所のダニエル・ツォーは、そこまで強気ではない。同蒸溜所は年間生産量60,000Lにも及ぶ大規模施設で、貯蔵庫でまどろむ何百ものオーク樽があくまで主役だ。それでも打ち明けるように、「ニューメイクがこれだけの出来なら、ウイスキーの品質が想像できるでしょう」と自信を覗かせる。

だがウイスキーマガジンのテイスティングコーナーでおなじみのクリス・グッドラムは、ブレンデッドやシングルモルトに並んでモルトオードヴィー(どんな名前で呼ぶにせよ)がすぐにメインストリームの商品になるとは考えていない。

ノッティンガムのワイン商「ゴーントリー」で、クリスは毎日たくさんのニューメイクを試飲しているが、とても骨の折れる仕事だという。

「グレングラッサのニューメイクは素晴らしい甘味とやわらかさがあって、本当に飲みやすいものでした。そのまま単体で飲んでもいいし、ウォッカの代用品にもなります。しかしその後でブルイックラディのニューメイクなどを試飲すると、あまりにもオイリーで刺激が強すぎ、他人に薦められるシロモノではありません」

それでもこの分野の発達には、興味深いものがあるとクリスは言う。ブルーモンキーやアドナムスなどのビール醸造所が、インペリアルスタウトやブロードサイドをベースにしたモルトオードヴィーを生産している。生産量やボトル数を制限して特別感を出せば、これが正統なカテゴリーになる可能性はあると見ている。

「メジャーな蒸溜所が興味を持つような分野ではありません。それでも希少なものを求めるコアなファンや洋酒通の人たちによる好奇心の連鎖は続くはず。ただし品質と価格が釣り合ったものでなければ、消費者は納得しませんけどね」

 

 

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