静かな自信 ― ラガヴーリン蒸溜所 【後半/全2回】

July 10, 2013

ラガヴーリン蒸溜所の自信の源は、ほかならぬウイスキーの品質にある。豊かに展開するラガヴーリンの世界―シーニーン・サリバンの蒸溜所レポート後半。

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ラガヴーリン蒸溜所のマネージャー、ジョージー・クロフォードと話しているうちに、まさにこの気持ちを再確認した。
私は蒸溜所の技術面について話そうと目論んで彼女に接し、発酵時間や製造能力、カスクの出所などを散りばめた質問を準備し武装していた。ラガヴーリンと同じくジョージーもアイラ島に属し、このウイスキーと生産地であるアイラ島との親密な関係を明確に言葉にする。彼女はラガヴーリン蒸溜所について愛情と敬意を持って語るが、謎めかすことも大げさな謳い文句で飾ることもない。現実的なのだ。
ジョージーと話して、ひとつの事が明らかになった。フェノール値やカット幅、スチルの形状などはひとまず置いて、何が重要かというと「ラガヴーリンはラガヴーリンの味がする」ということだ。同語反復のようだが、そうではない。伝統が物を言う、ということだ。
アイラ島の「静かなる男」、出しゃばらないモルト。あなたが「飲みたい」と思う瞬間をわかっていて、あなたが手に取るのを待っているウイスキー。ラガヴーリンは世界市場における自分のポジションに自信を持っている。成熟したスピリッツであり、成熟したブランドだ。
ジョージーは穏やかながら確固としている。「問題なのは箱でも包装でもありません。常に中身の品質なのです」

ラガヴーリンのこの静かな自信は蒸溜所の至る所に存在する。
ディアジオ・クラシックモルトシリーズのひとつ、スタンダード・エクスプレッション(何という名前!)はオーク樽の中に16年寝かされているため、樽材とスピリットの会話は長く、深い。
しかしこのゆっくりした、慎重な取り組みはスピリッツが樽に触れる前に既に始まっている。55時間という発酵時間によりウォッシュの中で優雅なフローラルの風味が育まれるが、決して圧倒するほどにはならない。近くのポートエレンでモルティングされたモルトの、どっしりしつつも土っぽいスパイシーさでほどよく抑えられている(1974年以降ラガヴーリン蒸溜所ではフロア・モルティングを行っていない)。

スモークの香りに誘われてラガヴーリン蒸溜所のスチルハウスに入ると、ウォッシュ2基、スピリット2基の4基のスチルが部屋を支配している。前溜30分はアイラ島のとある蒸溜所ほど長くはないが、スピリッツの流れがゆっくりなため、スチルが風味を凝縮する時間がたっぷりあり、自信に満ちた大胆な風味のニューメイクスピリッツが得られる。

私たちはラガヴーリン蒸溜所で40年間貯蔵庫係を務めているイアン・マッカーサーと1号貯蔵庫で会った。彼は関税支払い済みの半ダースの樽の前に立ち、儀式も予告もなしに、ラガヴーリンがどのようにしてラガヴーリンになるのか見せてくれようとしている。
先ずはヘッディなニューメイク。炎がひと吹きのスモーク・シーソルトに屈服する。
8年モノの樽に進むと、シダのような柔らかさが展開し始め、樽の影響から生まれた優雅さがある。
次第にウイスキーのエッセンス、その核心に接近しつつあることが明らかになる。ひねりも、不意打ちもなく、ラガヴーリンが歩んできた道を、自慢のスピリッツによって、イアンが自信を持って私たちを導いてくれる。10年モノの樽に移ると甘さがさらに進み、次の14年モノではスモーキーな外套の下にオートミールと果物が現れ、着々と主力の16年モノに向かってゆく。
それぞれを試すたびに、ラガヴーリンの「風味の履歴書」が少しずつ明らかになり、そのDNAが展開してゆく。
テイスティングは驚異的な30年モノで終わる。私はコロンとして使いたいほどだ − ナッティで豊饒、甘美、そして最後にあのずっと存在するスモーキーさがからみついて愛撫してゆく。

私はこの蒸溜所の真髄を垣間見たような気がする。陽射しが薄れ始める時刻、いつまでも残る長い光が湾に鳴り響く鐘の音のように余韻を残し、貯蔵庫を後にする私にはラガヴーリンのエッセンスそのものと言えるスモークが巻き付いていた。

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