スウェーデンに続き、話題のウイスキー蒸溜所が誕生しているデンマークとノルウェーへ。テロワールにこだわった個性的なメーカーが北の大地に点在している。ノルディックウイスキーの現在を知るシリーズの第2回。

文:マーク・ジェニングス

 

 

デンマーク

 

デンマークで最初のウイスキー蒸溜所ではないものの、国際的にもっとも知名度の高いデンマークの蒸溜所といえばスタウニングであろう。スタウニング蒸溜所は、9人の仲間たちが集まって2005年に設立された。場所は都会から遠く離れた自然豊かなデンマーク西岸の田舎だ。

コペンハーゲンが誇るレストラン「ノーマ」でも重用されているスタウニングのウイスキー。多彩な樽熟成にも力を入れ、シングルモルトの他にライウイスキーでも個性を発揮している(メイン写真は外観)。

ウイスキーづくりには紆余曲折もあったが、「北欧らしいテロワールにこだわったウイスキー」というアプローチはずっと変わっていない。これは地元産のライ麦と大麦を使用し、フロアモルティングで製麦し、直火式の小型ポットスチル(その数なんと24基)で蒸留するというものだ。

2011年には、コペンハーゲンの誇る3つ星レストラン「ノーマ」が、スタウニングのために他のすべてのウイスキーをメニューから外した。初期には極めて少量生産だったため、現在発売されているウイスキーの熟成年はまだかなり短めだ。だがスタウニングは熟成年数よりもフレーバーを重視している。ピーテッドとノンピートのシングルモルトに加え、ライウイスキーも主力製品だ。また蒸溜所の製品レンジには、メスカル樽やベルモット樽でフィニッシュしたウイスキーも含まれている。

2015年に創設されたコペンハーゲン蒸溜所は、過去のウイスキーづくりの伝統に囚われていない。輸出部長のマーカス・クリステンソンは語る。

「スコッチウイスキーの二番煎じはやりたくありません。それは誰かがすでに確立したもので、私たちがやる必要はないからです。ここではダニッシュウイスキーをつくっています」

2015年創設のコペンハーゲン蒸溜所は、オーガニックでサステナブルなウイスキーづくりによってライフスタイルブランドを目指している。

コペンハーゲン蒸溜所は、地元製の肉用の燻製器で原料の穀物をスモークし、オーガニックでサステナブルなウイスキーづくりを希求してきた。動力をすべて風車でまかなったり、リサイクルのコルクで閉栓したりと環境保護への配慮を徹底している。

その一方で、北欧産のオーク材は長期熟成に適さないという理由から、ハンガリー産のオーク材で熟成している。メーカーとしての目標は、生産するスピリッツ以上の価値を提供すること。スピリッツや蒸溜所での体験をすべてミックスさせたライフスタイルブランドを目指している。巨大なバーやイベントスペースを運営しているのもそのためだ。

ブラウンスタイン蒸溜所は、小規模なビール醸造所から出発したメーカーらしく、独自の自然酵母を使用している。また非常に小規模なファリーロカン蒸溜所は、「スコットランドの伝統を北欧流に再現する」ことを目的として掲げている。ピートの代わりに、イラクサを燃料に使って製麦するのも特徴だ。小さな庭のワイン畑と名付けられた農場から不定期にスピリッツ製品をボトリングし、2008年には最初のダニッシュシングルモルトをリリースした。

そしてデンマークといえば、フェロー諸島にあるフェア・アイルズ蒸溜所も見逃せない。2020年に、22カ国のウイスキーファンたちによって設立された。所在地の水や気候の特異性が際立っているため、ノルディックウイスキーやワールドウイスキーのカテゴリーを賑わす存在になるだろう。蒸溜所のチームは、今年中にスピリッツの蒸溜を開始する予定だ。

 

ノルウェー

 

世界最北の蒸溜所という触れ込みから、すぐに品質のことはわからない。だがその所在地が、都会からはるか離れた場所にあることぐらいは想像できる。オーロラ蒸溜所の所在地は、本当に印象的だ。

世界最北の地に建つオーロラ蒸溜所。清らかな孤高のイメージが、ウイスキーファンの心をくすぐる。

創業者の努力にも、並々ならぬものがあったことだろう。販売目的のウイスキーは、2017年から生産を開始した。ウォッシュ(もろみ)は、親しいビール醸造所から調達している。商品名の「ビブロスト」は、北欧神話に登場する古代ノルウェーのアスゴルド王朝への悪路を意味する。そして古代スカンジナビア語でオーロラ(極光)を表す言葉でもある。

限定エディションのウイスキーは、北欧神話から引用した9つの言葉にちなんで名付けられている。この限定エディションは、定番品の発売が待ちきれない熱心なファンたちを手懐けるためのものだ。現地で蒸溜されたスピリッツが恒常的に発売されるようになるのは2025年と見られている。

オーロラ蒸溜所では、樽をNATOが所有していた陣地壕で貯蔵している。この陣地壕内部の温度変化が予想外に理想的で、水分とアルコールの揮発を意味する「天使の分け前」(オーロラ蒸溜所では北欧神話の最高神にちなんで「オーディンの分け前」と呼んでいる)も少なくて済む。蒸溜所の敷地と建物は、すべて第2次世界大戦中にこの地を占領していたドイツ軍によって建設された沿岸要塞だ。このような設備のひとつひとつが、極めてユニークである。

12人の有志が無報酬で設立したミケン蒸溜所。本土から船で1時間半、北極圏では世界初の蒸溜所だ。

そしてミケン島まで行けば、2013年に世界で初めて北極圏で建設された蒸溜所もある。北極圏の南端に位置し、本土からは船で1時間半というアクセスの難しさも特徴だ。蒸溜所は「ミケン・ダズン」と呼ばれる6組のカップルによって設立された。ノルウェーには大きな目標に向かって無償で力をあわせる「ドゥグナッド」という伝統があり、この蒸溜所の建設もノルウェー式の手弁当で完遂されたのだという。

生産量は年間わずか5000Lとたいへん少ないが、その割には驚くほど多彩なピーテッドおよびノンピートのモルトウイスキーを発売している。その量はノルウェーの国内市場をわずかに上回る程度なので、国外で入手するのはまだ難しい。共同創設者のロア・ラーセンは冗談めかして言う。

「あんまり輸出すると、ノルウェーのウイスキーファンに怒られますからね」

まずは英国などで発売される日を待ちたいところだ。
(つづく)