Red Top × Green Bottle 【後半・全2回】

June 6, 2013

メーカーズマークのマスターディスティラー グレッグ・デイビス氏が初来日、サントリー白州蒸溜所を訪れた。
後半の今回はシングルモルトウイスキー白州にスポットを当てる。

Red Top × Green Bottle 【前半・全2回】

メーカーズマークに続いて、白州のアイテム5種の試飲に移る。

この日の蒸溜所見学では、白州蒸溜所工場長・前村久氏による丁寧な工程の説明を受けた。そこで強く感じたのは白州蒸溜所の徹底した“クリーンさの追求”である。
マッシュの段階ですでにその違いは明確だ。清澄麦汁へのこだわりである。仕込みの段階で、濁りのないクリアな麦汁へと“磨き上げる”。そのためオイリーさやナッティさの少ないエステル香豊かな原酒に仕上げられるのだ。
柔らかな南アルプスの水白州の森由来の乳酸菌のマジックが、同様に清澄麦汁にこだわっている「山崎」ともまた一味違う個性をもたらす。そして形状の違う直火蒸溜のポットスチルを経て白州独特の多種多様なモルト原酒が生まれ、澄んだ冷涼な森の空気の中で眠る(樽詰めのアルコール度数は、60%程度が樽材とバランスが良いらしい)。ここに白州の軽快かつ複雑な味と香りの秘密が詰まっているようだ。

テイスティングに際し、前村氏は「私はブレンダーではありませんので、つくり手として、いかに多彩な原酒をブレンダーに提供するかが私の使命だと思っています。繊細で、クリーンなウイスキー。それが基本です。そこから樽やピートによってバリエーションを広げています」と前置きする。つくり手とブレンダーの固い信頼関係、匠同士の絶妙なキャッチボールで行われる緻密なウイスキーづくりを垣間見た気がした。

最初はベースとなる12年熟成のホッグスヘッド樽原酒から。
バニラ香、フルーティさ。アフターテイストが長すぎず、切れの良い仕上がり。瑞々しい青リンゴ、セージの葉がほのかに感じられる。清涼感たっぷり。グレッグ氏も素晴らしいバランスのフィニッシュが気に入ったようだ。

次に白州の個性をつくり出す、ヘビリーピーテッドタイプ。スコットランドのピートを使用しているが、白州で熟成させることで独特の柔らかさが生じる。ピートの奥にバニラ。深いが、澄んでいるので底まで見通せる湖のよう。ふわりと漂う煙が心地よい。

続いてのシェリー樽原酒は、山崎のシェリー樽原酒に比べてスッキリとした仕上がりになっており、穏やかなアフターテイストが特長である。グレッグ氏は「こんなバランスの良いシェリーは味わったことがない。甘みと華やかさのバランスが見事。スピリッツがしっかりしているためですね」と感想を述べた。

そして「白州12年」のテイスティング。ホッグスヘッドのベースが活きている。バニラビーンズやミント、オーク、かすかにクローブ、レモンスカッシュの爽快さが感じられる。スコッチウイスキーにはほとんどないといっても過言ではない白州ならではの独特さ。森の空気をたっぷりと吸い込んだ「緑」を感じさせるウイスキーだ。

最後に「白州18年」。ほのかなスモーキーさが心地よい。また、まろやかさも同時に持ち合わせており、バランスがよい。12年の青々とした森林を想わせるフレーバーが、こちらでは初秋の散歩道のようなすこし淡い印象になっている。慎み深いピート香。アタックには色の濃い蜂蜜、紅茶の茶葉のような熟成感がありながら、白州特有の緑のハーブも存在している。アフターテイストでは、12年では瑞々しかったリンゴが熟したリンゴに変化。バニラ、かすかなスモーキーが感じられる。
前村氏は「白州のラインナップの中でもかなり完成度が高い」と自信を見せる。グレッグ氏は「12年の中にあるスモーキーとシェリーの表現が非常に魅力的。18年はそれがさらに高められている」と驚きを隠せない様子。「私たちにはこのフレーバーはありませんから新鮮です。個人的にはとても心が落ち着くような気がしますね」

一通り両蒸溜所のテイスティングを終えて、お互いの印象を伺う。
「原料、スチル、樽…あらゆるところに日本のウイスキーとバーボンの違いがあります。そしてスコッチとも全く違うことが分かりました。できることなら、ここにもっと長く滞在して、一緒にウイスキーづくりをしたいと思います。学ぶことが本当にたくさんありますね」とグレッグ氏。
「そして求めている最終目的が非常に近いと思います。そこに向かって進む― 国は違えど同志という感じですね。今度は私たちの蒸溜所をお見せしたい。前村さん、ぜひ来てくださいね!」を前村氏に熱く語りかけた。

前村氏は「樽材からの香りに重きを置いたバーボンが多い中で、メーカーズマークはウイスキーそのものの風味を大事にしたバーボンだなと感じました。私は工場の、つくる側の人間なのでその『つくりのこだわり』に共感しましたし、感銘を受けました」そして「工程は違ってもこれだけマイルドな、柔らかいウイスキーをつくる。その点においても驚きましたね」と話してくれた。

メーカーズマークは、バーボンではあるがWhiskyと綴る。スコットランドにルーツを持つ、サミュエル家のこだわりなのだそうだ(同社は家族経営ではあるが、グレッグ氏がマスターディスティラーを務めている)。
同じようにスコットランドの流れを汲みながら、スコッチとは異なるスタイルのウイスキーをつくる白州蒸溜所。スコットランドから巣立って2つの国でそれぞれに発展し、独自のウイスキーづくりを確立した、まるで違う環境で育ちながらもどこか似ている兄弟のようだ。
邂逅した2人のつくり手は固く握手を交わした。この先も変わらぬこだわりの姿勢を貫きながら、きっとお互いの姿を思い浮かべることだろう。

赤い封蝋と緑のボトル。それぞれのこだわりを持っていながらも、そこには同じスピリッツが宿っている。

 

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