Small is Beautifull

February 4, 2013

ロンドンに誕生した小規模蒸溜所。設立までの軌跡と期待をイアン・バクストンが報告する。

バターシーのロンドン・ディスティラリー・カンパニー(LDC)にようこそ。以前はマスター・オブ・モルトに、またザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(ザ・ソサエティ)ロンドン支部に勤めていたダレン・ルークが設立した蒸溜所だ。

ダレンはここでアラン・パウエルに会い、図らずも英国の蒸溜方法の流れを変えることになった。

ダレンを知らなくても、ご心配なく。ただ彼に感謝しよう。彼こそが、「400ガロン」スチル規則を止めさせた男なのだから。少し前の話になるが、容量1,800リットル(400ガロンは1,818リットル)未満のスチルは英国内では絶対に歳入関税庁(その前は、関税消費税庁)の認可が下りないと考えられていた。この規則は1823年の消費税法にさかのぼり、違法な蒸溜を阻止するための方策だった。スチルがこの容量より小さいと、税金逃れのために簡単に移動できてしまうという理屈だ。

小規模な蒸溜ライセンスを申請しても無駄だと誰もが信じていたため、英国では職人技のクラフトディスティリング産業の可能性は初めから閉ざされていた。
資本コストを別にしても、400ガロン以上のスチルとなればスペースを要する(キルホーマンを考えてみよう)上、少なくとも年間10万リットルのスピリッツをつくることになり、欧州や米国の典型的なクラフトディスティラーが上手く市販できる量をはるかに超えてしまう。

しかし、大陸の同業者や米国の起業家の活躍にいつも欲求不満を募らせていたダレンは、歳入関税庁に以前努めていたアラン・パウエルにたまたまこの話をした。
パウエルは一般の思い込みとは正反対に、歳入関税庁の義務は「歳入の保護」のみであるから、申請の判断に際しては賢明に行動するに違いないと指摘した。言い換えると、適切な融資を受け、きちんとしたビジネス計画を持ち、犯罪歴がなければ、直ぐに申請しろということだ。

ダレンは、クラウドファンディング・サイトという、それ自体革新的な資金調達手段を利用し、用地を確保してドイツのクリスチャン・カールのスチル2基を設置するために必要な35万ポンドを集めた。スチルはジン用が160リットル、ウイスキー用が650リットルと容量が小さかった。スコットランドのドラムチョーク・ロッジや様々な研究所に設置されているものを別にすれば、このジン用スチルは現在英国で商業的に使われている中で最も小さい。

ウイスキーの蒸溜は、以前スプリングバンクやラフロイグ、バルヴェニーなどにいたジョン・マクドゥーガルの指揮でもう間もなく始まる予定だ。3年間の熟成後、ロンドンでは100年ぶり以上のイングリッシュ・ウイスキーがもうひとつ、セント・ジョージズアドナムズヒックス&ヒーリーと並んで棚に収まることになる。

LDCの熱意は伝染性らしく、スチルの大きさに関する規則が明確になった今、英国ではクラフトディスティリングの大きな復活を目にする可能性がある。

LDCのような会社は大手を悩ませることもなく、この分野に多様性、関心、そして興奮を付加する。愛好家たちは様々なクラフトディスティラー製品の長所と短所についてブログ界で意見を戦わせるだろうし、米国のクラフトディスティリングの成長から判断して、あらゆる境界を越え、あらゆる規則を破る革新的かつ実験的なスピリッツが実に大量に生み出されるかもしれない。

政府にはこの発展に前向きに対応して欲しいものだ。例えば、欧州の一部では小規模蒸溜所には税優遇措置があり、米国ではアメリカン・ディスティリング・インスティテュート(ADI)が、DISCUS(合衆国蒸留酒会議;大手企業のクラブ)の支援を受けて、小規模スピリッツメーカーへの適正な課税を求める強力なロビー活動を行っている。英国では、まだ政策こそ現れてはいないものの、ドミニク・ロスクロウをリーダーに新たに組織されたクラフト・ディスティラーズ・アライアンスが言いたいことが明らかにたくさんありそうだ。彼らはオンラインマガジンを利用して意見を広め、発生期にあるこの産業のためにロビー活動をすると思われる。

当然ながら難題も数多く、後退も失敗もあるだろう。利益が生まれ、そして損失もあるだろうが、この状況は見ていて確実に面白く、楽しい上に、多くの新しい製品を試すことができそうだ。

ザ・ソサエティのロンドンのラウンジで飲む1杯が、画期的な変化をもたらすことになるかもしれない。

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