高品質でお手頃なシングルモルトとして、英国と米国で特に人気の高いスペイバーン。蒸溜所の設備も強化し、トラベルリテール市場でも世界規模の戦略を展開している。

文:ガヴィン・スミス

 

スペイバーンは、長らく米国で特に人気の高いシングルモルトとして知られてきた。これは主にインバーハウスの親会社だったパブリッカー・インダストリー社が販売に力を入れたおかげである。スペイバーンのグローバルブランドアンバサダー、ルーカス・ディノヴィアックはこう語る。

「スペイバーンが力を入れている市場は、英国、米国、そして世界中のトラベルリテール。実はつい最近になってトラベルリテール限定コレクションの発売を開始したばかりです。スペイバーンのユニークな味わいと品質の一貫性は、世界中のファンを獲得してきました。手に余るほどの素晴らしい賞もいただいています。スペイバーンは高品質のウイスキーですが、いつもお手頃な価格が設定されてきました。これが多くの消費者に愛される理由なのです」

ルーカス・ディノヴィアックは、さらに豊富なコレクションの内容についても教えてくれた。

「英国で販売している中核的なコレクションは、『ブラダン オラック』、『10年』、『15年』、それにいちばん新しく追加された『18年』です。『18年』はアメリカンオーク樽とスパニッシュオーク樽で熟成されました。世界のトラベルリテール市場では、『ホプキンス リザーブ』、『10年』、『16年』という顔ぶれになっています。米国で販売しているのは 『ブラダン オラック』、『10年』、『アランタ カスクス』、『コンパニオン カスク』、『15年』、『18年』です」

「ホプキンス リザーブ」は、蒸溜所の設立者であるジョン・ホプキンスを称えたボトル。スモーキーで柑橘風味があり、甘く長い余韻が特徴であるという。また「アランタ カスクス」はファーストフィルのバーボン樽のみで熟成され、「コンパニオン カスク」はバッファロートレース蒸溜所の樽で熟成されている。

 

大規模な投資で需要に応える

 

現在のスペイバーンで蒸溜所長を務めるのはボビー・アンダーソン。1980年代にミルトンダフでウイスキーづくりのキャリアを開始した人物だ。かつて祖父がミルトンダフで蒸溜所長を務めていたのだという。シーバスブラザーズが所有するグレントファースとグレンバーギでの勤務も経て、スペイバーンにやってきたのだと教えてくれた。

「ここ何年かの間に、蒸溜所では設備をかなり新調しました。大掛かりな投資によって、生産量は125%も増大しています。新しいマッシュタンやモルトビンを加え、スピリットスチル1基とスチール製のウォッシュバック数槽を追加しています。業界最先端のエネルギー回収システムも採用して、エネルギー使用量を約20%も削減しました」

設備の増強だけでなく、スペイバーンはスピリッツの特性に影響を与えそうな改革も大胆におこなっているようだ。

「蒸溜のサイクルを詰め込みすぎないように、発酵時間を伸ばしました。これによってウォッシュの一貫性がさらに均等に保たれるようになり、スピリッツの収率も最適化されています。ウイスキーの特性は以前とほぼ同じですが、エステル香が高まったという感想も聞こえてきますね」

原料の大麦は主にコンチェルト種。糖化はセミラウター式のマッシュタンを使用し、1回6.25トンのマッシュを週に27セット作る。発酵は容量各27,000Lのステンレス製ウォッシュバックが15槽で、同容量の木製のウォッシュバックも4槽ある。発酵時間は72時間だ。蒸溜設備は容量27,000Lのウォッシュスチルが1基と、容量12,500Lのスピリッツスチルが2基。コンデンサーは今や圧倒的な少数派となった蛇管型である。年間生産量は、純アルコール換算で約450万Lだ。

伝統的なフロアモルティングとは異なり、省スペースのドラムモルティングは蒸溜所の生産量拡大に寄与してきた。スペイバーンのように手狭な蒸溜所にあっては、生産力を上げるのに重要な意味を持つ。

スペイバーンにある6台のドラムは、濡れた穀物を入れるとマット状に絡みつかないうちにすぐに回転させる。同時に湿気を含んだ涼風をポンプでドラム内に送りながら、ちょうどよいレベルに大麦が発芽するまで待つ。スペイバーンのドラムからは毎週30~40トンの大麦モルトが生み出される。フロアモルティングとは異なり、年間の一貫性を重視するため慎重に温度を調整している。もともと製麦には蒸気を使っていたが、1940年代に電化された。

ドラムモルティングは1968年まで続いたが、ディスティラーズ・カンパニー社が当時最先鋭の大型製麦工場をバーグヘッドに建設した。バーグヘッドはエルギン北西のマレー湾沿いにある。この工場で、傘下の蒸溜所が使用するモルトが作られたのである。ドラムモルティングは現役で活躍しており、文化保護を目的とした政府機関「ヒストリック・スコットランド」の支援を受けている。ウイスキー蒸溜の生きた遺産だからだ。

そしてボビー・アンダーソンは最後にこんな逸話も教えてくれた。

「最近リリースした『スペイバーン18年』は、店舗で人気の商品となっています。もちろん通年商品で、英国と米国で展開するコレクションの中核に位置づけられる商品です。最初にボトリングしたタイミングが、たまたま私の蒸溜所での勤続18年のタイミングにあたりました。それでスペイバーンは、最初に瓶詰めされたボトルを私に譲ってくれたんですよ!」