テキサスウイスキーの躍進【第1回/全3回】
文:ケビン・グレイ
テキサス州の雄大なイメージは、米国外でも広く知られている。現在のテキサスは人種も風景も多様な土地で、州内に点在する大都市を出ると昔ながらの牧場地が広がる。テキサス州の人口は増加の一途をたどっているが、飲料関係の調査団体によればウイスキーへの渇望も高まっているようだ。ウイスキーの消費量は、今や人口の多いカリフォルニア州に次ぐ全米第2位である。
テキサスにウイスキー蒸溜所が誕生したのは、1990年代半ばのこと。小規模なメーカーがスピリッツを蒸溜し始め、樽で熟成するようになった。だが2010年の時点で、テキサス州にあったウイスキー蒸溜所はたったの2軒。ヒルカントリー(丘陵地帯)のハイ町にあるギャリソン・ブラザーズと、ウェーコ市にあるバルコネズだ。
テキサス州の蒸溜所は、黎明期から苦しい競争を強いられてきた。ライバルのケンタッキー州やテネシー州には、アメリカンウイスキーの老舗ブランドがひしめいている。知名度や消費者の関心もまだ低く、テキサス州の暑い気候が蒸溜酒の熟成にどんな影響を及ぼすのかも未知数だった。多くの人々は、ただ静かに成り行きを守っている。そんな状態がしばらく続いた。
だが苦闘の時代もようやく終わったようだ。さまざまなデータが、テキサスの明らかな達成を物語っている。現在までに、州内で数十軒ものウイスキー蒸溜所が開業した。テキサス州内だけでなく、他の州の消費者もテキサス産のウイスキーを求め始めている。そして最も重要なのは、テキサスウイスキーが物量だけでなく品質にもこだわっているということ。真にテキサスらしい「穀物からグラスまで(グレーン・トゥ・グラス)」というモットーを掲げ、テキサスウイスキー協会はサステナブルなウイスキーづくりを推進している。
テキサスウイスキーは、古株のメーカーでもせいぜい創立から15年程度。さらに毎年多くのメーカーが市場参入を続けているため、生産地としてはまだまだ発展途上の段階にある。だが当の生産者たちは、この若さをむしろチャンスの宝庫と捉えている。消費者も大メーカーも、世界中の人々がテキサスで起きていることに注目し始めているからだ。
大手グループによる買収で成長
著書『テキサスウイスキー』で知られるウイスキーライターのニコ・マティーニは、このムーブメントの熱心な支持者だ。テキサスウイスキーに対する世界の関心が本物であることを力説する。
「蒸溜所の買収状況を見るだけで、変化の速さが実感できます。ディアジオやペルノ・リカールのような大企業が州内に入ってきて、蒸溜所を次々に買収しました。市場の大きさとメーカーの潜在力が、予想よりをはるかに上回るスケールだと気づいたのです」
海外からの参入が話題になる以前の2000年代半ばに、ギャリソン・ブラザーズとバルコネズは酒造免許を申請して蒸溜所の建設に着手した。バルコネズは2009年に5週間熟成のコーンウイスキー「ベイビー・ブルー」を市場に初投入。その後すぐ2010年にギャリソンが1年熟成のウイスキーを発売した。クラフトウイスキー界の寵児となった両メーカーは、数々のアワードに輝き、批評家たちから賞賛を浴びた。バルコネズは、2022年11月にディアジオに買収されることになった。
しかしテキサスウイスキーが初めから順風満帆だった訳ではない。バーボンといえばケンタッキー州という消費者の思い込みも強く、バーボンがアメリカ全土で生産できるという法律を知る者も少なかった。テキサス産のバーボンという存在が、お酒好きの人々に受け入れられるまでには時間がかかったのだ。
だがギャリソン・ブラザーズを創業したダン・ギャリソンは、この挑戦を受け入れた。伝統にとらわれることなく、自由なウイスキーづくりを実験できることが強みになると思い直したのだ。
「若くてフレッシュな存在であるテキサスウイスキーは、古いパターンにとらわれないのがアドバンテージ。毎日のように、前日よりも良いバーボンをつくるために努力を続けています。身軽だし、独創的だし、行動が早いのです」
ギャリソン・ブラザーズは、今や9種類のウイスキーを製造する90人規模の会社に成長した。米国40州と米国外の6カ国でウイスキーを販売している。フラッグシップ商品のバーボンは今でも少量生産だが、今ではバッチに入る原酒がすべて3年以上熟成されたスピリッツになった。ダブルエイジの「バルモレア」、ポート樽フィニッシュの「グアダルーペ」、加水も濾過もしていない「カウボーイバーボン」(2022年版の度数は67.4%)など、さまざまな数量限定のバーボンも発売されている。
ダン・ギャリソンは、そんなテキサス気質について次のように語ってくれた。
「僕たちは飽きっぽいんです。いつも新しいものを創造し続けようと考えています。変わった熟成樽でのフィニッシュ、通常とは異なる度数、ちょっと複雑な木樽の使い方などを試しています。このような実験から生まれるクラフトらしい香味に興味があるし、楽しみながらつくり続けるコツなんです」
(つづく)