地元産の穀物を調達し、徹底的に品質を追求するのがテキサスウイスキーの流儀。新しいアメリカンウイスキーの潮流として、世界の注目を集めている。

文:ケビン・グレイ

 

ヒューストンのイエローローズ・ディスティリングから、オクラホマとの州境に近いテキサス州デニソンまで北上する。そこにあるのは、アイアンルート蒸溜所だ。1800年代後半に害虫「フィロキセラ」が欧州のワイン畑を襲った時、全滅の恐れもあったフランスのワインとコニャック産業を救ったのがこの地域に植えられた豊富なブドウの木だった。「アイアンルート」(鉄の根)は、当時の不屈の栽培家に敬意を表した名称である。

アイアンルート蒸溜所は、ロバート・リカリッシュとジョナサン・リカリッシュの兄弟によって2014年に設立された。当初より遺伝子を組み換えていない在来種トウモロコシを地元農家から調達し、すべての製造工程を敷地内で完結させている。現在では「ハービンジャーXC」「ハービンジャー115」「プロメテウス」といったバーボンの主力商品に加え、少数限定商品もリリースした。

アイアンルートが創業した当時、テキサス産のウイスキーは6~18カ月という短期間の樽熟成を経てリリースされるのが一般的だった。しかしロバート・リカリッシュによると、テキサス州全体で熟成年数をラベルに表記するのが主流になりつつある。

地元産のウイスキー人気が高まるにつれて、蒸溜所はなるべく熟成期間を延ばして「穀物からグラスまで」のサステナブルな方針を推進することが高評価につながるのではないかと考えるようになった。だがそこに全メーカーに共通の基準などはなく、それぞれが実験的な試みを通じてこれまでのテキサスウイスキーにまつわる固定観念を変えようとしているのだとロバート・リカリッシュは説明する。

「テキサスには世界中からさまざまな経歴を持つ蒸溜の専門家が集まってきます。そのため、テキサスでつくられていないウイスキーのスタイルを探すのが難しいほどです」

マッシュビル、スチルの種類、熟成工程などは蒸溜所ごとにユニークな方針が採用され、パンハンドル地方からガルフコースト地方までに広がる多様なテキサスの気候も利用できている。消費者は、テキサスのウイスキーがそれぞれ独自の個性を持っていることに気づいているのだとロバート・リカリッシュは言う。

「この10年で、テキサス州のウイスキー業界は大きく変化しました。ウイスキー生産地としてのテキサスの認知度は、私たちが始めた頃とは比べものにならないほど大きくなり、州内での投資も拡大しています。この地域で何ができるのか、その可能性の一端がようやく見え始めたばかりです」
 

個性派集団がひしめく期待のカテゴリー

 
テキサスウイスキーの先駆者たちに比べれば、スティル・オースティンはまだ新しいメーカーのひとつに数えられるだろう。オースティンの市街地で開業した蒸溜所の第1号で、蒸溜を始めてからまだ6年足らずだ。高さ約13メートルの特注コラムスチル(フォーサイス社製)を使って、テキサス産の穀物からバーボン、カスクストレングスバーボン、ストレートライなどの商品を生み出す。樽熟成の期間中に水を少しずつ加えて「天使の分け前」を調整し、ウイスキーの香味バランスを保つ特殊な熟成工程を採用しているのもユニークだ。

スティル・オースティンの製造部門を統括するブランドン・ジョルダースマは、小さな製法上のこだわりこそが重要であり、成長中のテキサスウイスキー生産者がブランドを差別化するのに役立つという。市場があらゆるタイプの製品を受け入れている一方で、消費者の知識は増えて本物志向になってきているのだとジョルダースマは分析する。

「テキサスには、地理的に意義のあるウイスキー産地となるチャンスがあります。他の州にはない、真に差別化されたウイスキーのジャンルです。穀物も他の気候で育ったものとは違うし、樽熟成の方法も明らかに違いますから」

スティル・オースティンから5kmほど離れた場所では、フィアス・ウィスカーズが本格的な市場参入の準備を進めている。2020年からスピリッツを樽詰めし始めた蒸溜所は、2023年6月に最初のストレートライウイスキーを発売する予定だ。そして来年の2024年にはストレートバーボンも登場するという。すでに100種類以上ある他のテキサスウイスキーと棚を争うことになるが、先人によって築かれた土台からの恩恵も受けられるだろう。

フィアス・ウィスカーズの共同設立者であるトゥリ・ヴォーは、テキサスウイスキーというカテゴリーを築き上げた先人たちの苦労に感謝し、テキサス独自のストーリーを世界に伝えられる立場を光栄に思っている。蒸溜所ではテイスティングルーム、ビジターがくつろげる屋外スペース、5階建てのリックハウス(貯蔵庫)が設置される予定だ。

テキサスウイスキーのカテゴリーは、新進のメーカーが次々に参入してにぎやかな状態だ。しかし当のメーカーたちは、まだテキサスウイスキーが世の中にすっかり認められたとは思っていない。それでもケンタッキー州という限られた地域の中に、蒸溜所がひしめく状況は壮観だ。イエローローズのマイケル・ランガン蒸溜所長は、「ここからどこまで大きくなれるか、可能性は無限ですよ」と言う。

テキサスウイスキーは、産地ブランドとして十分な実力を備えるに至った。次のステップは、テキサスウイスキーの定義を成文化することだ。テキサスウイスキー協会は会員制の団体で、テキサス州内の蒸溜所がテキサスウイスキーというカテゴリーを推進し、消費者を教育し、ラベル表示の真実性と透明性を奨励する目的で組織された。その使命の一環として、すでに認証シールが作られている。

テキサスウイスキーとして認証されるには、糖化、発酵、蒸溜、熟成、瓶詰めの工程がテキサス州内でおこなわれていなければならない。協会のメンバーによると、テキサスウイスキーの基準が法的に定められるまでは、この自主的な措置に従って他州産のウイスキーとテキサスウイスキーを分別することになる。

またテキサスウイスキー協会は、テキサス州内の蒸溜所を紹介する「テキサスウイスキートレイル」も提案している。北テキサス、南テキサス、ヒルカントリー、ガルフコーストの各地域にトレイルがある。

テキサスウイスキーには、バーボン、ライ、シングルモルトなど、さまざまなスタイルのウイスキーを製造する多様なウイスキーメーカーが名を連ねている。他のアメリカンウイスキーからも峻別される独立したカテゴリーとして、さらに差別化を図るための努力は続いている。

ウイスキーライターのニコ・マティーニも、テキサスウイスキーの未来に大きな期待を寄せているようだ。

「私たちにはたくさんの目玉があります。消費者のみなさんは、テキサスのウイスキーがケンタッキーのウイスキーとは一味違うことに気づいています。今後も他州のトレンドに追随することなく、独自の道を歩んでいくことになるでしょう」