プレート式熱交換器のはたらき

July 3, 2017

ウイスキーづくりは、大量な熱エネルギーを必要とする。ポットスチルの熱効率を最適化し、ウイスキー蒸溜で重要な役割を果たすのがプレート式熱交換器。この脇役的な装置に、イアン・ウィズニウスキがスポットを当てる。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

石油であれガスであれ、ウイスキーの蒸溜には大量のエネルギーが必要となる。このエネルギー費用は、蒸溜所にとって主要な生産コストのひとつである。エネルギー価格は時に下落することもあるが、全体としては上昇傾向にあるため、エネルギー効率を最適化しておくことは経理上でも大きな意味を持つ。そして環境保全にも貢献することはいうまでもないだろう。

このエネルギー効率の向上に貢献できる重要な設備のひとつが熱交換器である。ウィリアム・グラント&サンズで技術部門を総括するジョン・ロス氏は語る。

「熱交換器の効率が急速に向上することで、熱交換の技術は大きく進歩してきました。この技術は、蒸溜所にとって必要不可欠なものです」

熱交換器は、例えばポットスチルに投入する前のチャージ(蒸溜される液体)を予熱するために用いられる。ここでまず重要なのは、チャージの温度が高ければ高いほど、蒸溜で必要となるエネルギーが少なくて済むということだ。ポットスチルを蒸気で熱するためのボイラーを稼働させるガスや石油の消費量が減少するからだ。

初溜を目前に控えたウォッシュ(もろみ)は、すでに30〜34℃の温度がある。これは麦汁に投入されたイースト菌が、液中の糖をアルコールに変化させるアルコール発酵から引き起こされる自然な発熱だ。その後、このウォッシュの温度はプレート式熱交換器と呼ばれる熱交換器の中を通ることでさらに高められる。このプレート式熱交換器は、金属製のプレートが連なった造りになっている。

伝統的な仕組みでは、ウォッシュをパイプでプレート式熱交換器の片側に送り込む。それと同時に、熱交換器の反対側にはポットエールがパイプで送り込まれる。ポットエールとは、ウォッシュスチルで初溜後にスチル内に残った液体のこと。ポットスチルから流れ出すポットエールは、98〜99℃と高温である。

熱交換器の金属製プレートは、両側の表面にひだがついている。これはそれぞれのプレートの表面に沿って液体を流すために細いパイプを巡らせたもので、液体はそれぞれ隣り合ったプレートへと送られていくことになる。ウォッシュが各プレートの片面を循環しているとき、ポットエールはそのプレートの反対面を循環している。ジョン・ロス氏が仕組みを解説する。

「そのときに、熱力学の法則によってプレートを介在しながら温度の高い液体から温度の低い液体に熱が移動します。プレートの素材は、熱伝導性の高いステンレススチールが一般的です」

プレートからプレートへと移動するに従い、ウォッシュの温度はどんどん高くなり、一方のポットエールは温度を下げながらプレート式熱交換器の反対側にある出口へとたどりつく。そのときウォッシュの温度は約70℃にまで達している。

 

初溜と再溜で熱効率をアシスト

 

現代のウイスキー蒸溜で使用されている熱交換器の一例。目立たない設備だが、効率的な生産に不可欠な役割を果たしている。

これと同様に、再溜前のローワイン(初溜で得られた蒸溜液)もプレート式熱交換器を通す。熱交換器に入る温度は約15〜20℃。それと同時に、熱交換器の反対側にスペントリース(スピリットスチルで2回目の蒸溜後にスチルに残った廃液)を送り込む。スペントリースの温度は99〜100℃もあるで、ローワインがプレート式熱交換器を出る頃には約70℃にまで熱せられている。ブルックラディの生産責任者であるアラン・ローガン氏が語る。

「ローワインへの熱伝導は、ウォッシュへの熱伝導よりも甚大になります。これは沈殿物やイースト菌の粒子を含んだウォッシュよりも、ローワインのほうが流れのよいサラサラした液体だからです」

温度が重要なのは、ポットスチルに入ったチャージが気化してスチルのネックを上昇するには、78℃以上にまで熱せられる必要があるからだ。温度は蒸溜中にそのまま上昇を続け、最終的に100℃にまで到達する。アラン・ローガン氏は語る。

「ウイスキーの蒸溜は、初溜に6時間、再溜に約7.5時間かかりますが、 熱交換器を使用することで、スチルを熱する時間を約25分ほど節約できます。この時間の節約によって生産工程を短くできるほか、燃料費も大きく節約できることになるのです」

そのような利便性を継続的に享受するには、熱交換器の効率を維持する定期的なメンテナンスも欠かせない。ジョン・ロス氏が語る。

「熱交換の効率を最大限にまで高めるには、熱交換器を週に一度は掃除する必要があります。そうしないと表面が汚れて効率が落ちていくからです。クリーニングを自動化したCIPシステムがあるので、熱交換器はいつも良好な状態に保たれています。これに加えて、2〜3カ月ごとにはプレート式熱交換器を開けて、人力で点検をする必要もあります」

 

熱交換器の導入

 

熱交換器を取り付けるには、まず蒸溜所の生産環境をまとめる必要がある。その手続きについて、ラフロイグ蒸溜所長のジョン・キャンベル氏が教えてくれた。

「熱交換器のメーカーには、あらかじめ必要な情報を伝えなければなりません。パイプのサイズ、熱交換器を通す液体の分量、ポットエールとスペントリースの温度、プレート式熱交換器から排出されるときの理想の温度などをメーカーと共有します。それに応じてメーカーは蒸溜所にぴったりのプレート式熱交換器が必要とするプレート数、サイズ、デザインなどを計算するのです」

この取付作業には、もうひとつ重要な側面もある。アラン・ローガン氏が語る。

「プレート式熱交換器は、蒸溜所内の一定のスペースにうまく収まるように設計できます。縦に長いものから幅広のものまで、形状はとても多様です。ブルックラディでは熱交換器が2基あり、それぞれウォッシュスチルとスピリットスチルに設置されています。サイズは高さが約1m、幅と奥行が各600mmです」

 

 

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