ポットスチルの形状が語ること【前半/全2回】

October 23, 2017

ポットスチルの形状やサイズには、さまざまなタイプがある。蒸溜所ごとの違いに注目しながら、イアン・ウィズニウスキがスチルの形状と風味の関連を解き明かす2回シリーズ。

文・イアン・ウィズニウスキ

 

ポットスチルの形状とサイズは、ニューメイクスピリッツの特徴を決める要因になる。それを念頭に置くと、ひとつの蒸溜所がまったく同じ形状のポットスチルをいくつも備えるのは理にかなっているといえるだろう。もちろん同じ特徴を持ったスピリッツをコンスタントに生産できるからだ。

しかしまったく同じ形状のスチルや似たような形状のポットスチルを揃えている蒸溜所がある一方で、よりバラエティ豊かなポットスチルの構成を選択している蒸溜所もある。このようなポットスチルの構成にはどんな理由があり、そこからどんな影響がもたらされるのだろうか。

スチルの形状のラインナップは、多くが蒸溜所の伝統に則ったものである。その伝統というのも、デザインではなく運用上の都合で決められた場合が多い。例えば新しいスチルを購入するより、閉鎖された蒸溜所から中古のスチルを入手するほうが安上がりだったという事情も関連している。

19世紀末、チャールズ・ドイグらによってさまざまな形状のスチルが実験的に製造された時期があった。ドイグはパゴダのようなキルン屋根でも知られている蒸溜所の設計者である。スチルを追加するのであれ、新しい蒸溜所を創設するのであれ、中古スチルの仕様に他の新しいスチルの仕様をぴったり合わせるのは極めて難しい。それでもウイスキーメーカーは、スチルの形状とスピリッツに風味についてさまざまなことを長年の経験から学んできた。ダルモア蒸溜所で蒸溜所長を務めるスチュアート・ロバートソン氏が語る。

「1900年代初頭でさえも、スチルのサイズや形状を既存モデルに倣って製造する蒸溜所は少なくありませんでした。つまり経験から、どんな形状のスチルがどんな特徴のスピリッツを生み出すのか、みんなわかっていたのです」

1980年代からの科学的研究が大きく進歩を遂げ、スチルの形状が及ぼす影響については、完璧ではないにせよある程度のメカニズムがわかるようになってきた。このような研究の成果を参考にして新設立される蒸溜所は、望ましいニューメイクスピリッツのスタイルに合わせてスチルの形状を選べるようになっている。

 

還流によって風味が変わるメカニズム

 

エレガントな酒質が欲しいのか。それともフルボディの酒質が欲しいのか。求めるウイスキーのタイプによって、スチルの形状は変わってくる。蒸溜設備の設計、製造、設置、保守を手がけるフォーサイス社のリチャード・フォーサイス会長は語る。

フローラルでフルーティな酒質をつくるグレンリベット蒸溜所のスチル。形状も同一な7基のスチルで厳密に一貫性を保っている。メイン写真はクライヌリッシュ蒸溜所のスチル群。

「お客様がフォーサイスに蒸溜所の設計を依頼するとき、スチルの形状に関する議論は30分で済むこともあれば丸1日かかることもあります。ボイルポット(スチルの底の部分)はこれから蒸溜される液体を入れておく容器のような場所で、基本的に最終的なスピリッツの品質に影響は与えません。スピリッツの特徴に影響を与えるのは、ネックやヘッドなど還流エリアの設計です」

還流は、蒸溜されて出来上がるスピリッツに含まれるフレーバー成分の比率を決める。フレーバー成分には、軽めのフレーバーをもたらすものと、よりリッチなフレーバーをもたらすものがある。

一般的に、ネックの背が高いほど、あるいはネックが太いほど内部でおこなわれる還流の量が増えて、その結果スピリッツ内の軽やかなフレーバー成分の割合が高くなる。一方、ネックが短く細いほど還流のレベルは下がり、よりフルボディなスピリッツができあがる。

スチル内部の体積も大きな影響を及ぼす。蒸気の温度がネックを上昇しながら徐々に低下するからだ。ネックが長く太いほど、温度の低下は大きくなる。蒸気中のリッチなフレーバー成分は軽やかなフレーバー成分よりも沸点が高いため、コンデンサーに到達するまで蒸気の状態を保つにはより高い温度が必要だ。このためスチル内の温度によって、スピリッツのフレーバーが大きく変わってくるのである。

つまり長くて太いネックの内部は温度が低いため、リッチなフレーバー成分の大部分が再び液化してしまい、ネックの内壁をつたってボイルポットに戻されてしまう。その一方、軽やかなフレーバー成分は、長くて太いネック内部の温度でも蒸気の状態を保ってコンデンサーまで到達できるというわけである。

(つづく)
 

 

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