世界最強のピート香を「オクトモア」で味わう

October 19, 2017


ピートから生まれるスモーキーフレーバーは、モルトマニアが偏愛する風味のひとつ。世界でもっともピート香の強いウイスキーが「オクトモア」だ。常識を打ち破ったウイスキーづくりの真価を探る。

文:WMJ

 

ウイスキーの世界を歩けば、誰でもいつかはスモーキーな風味と出会うことになる。これは原料のモルトをピートの煙で燻すときに備わる風味要素だ。苦手な人もいるが、熱狂的なピートマニアも少なくない。スモーキーなモルトウイスキーの産地として特に有名なのがアイラ島である。

そのアイラ島は、世界でもっともピート香が強いとされるシングルモルトウイスキー「オクトモア」の故郷である。生産するのはブルックラディ蒸溜所。従業員85人という大所帯で、あらゆる行程をほぼ島内で人力でおこなう異色のウイスキーメーカーだ(モルティングのみスコットランド本土で実施)。

土、水、火、風、海。スモーキーなウイスキーを楽しむとき、人は悠久の時間を想わずにいられない。

ブルックラディ蒸溜所では、現在3種類のシングルモルトウイスキーを生産している。ノンピーテッドの「ブルックラディ」、ヘビリー・ピーテッドの「ポートシャーロット」、そしてスーパー・ヘビリー・ピーテッドの「オクトモア」。同じ設備から3種類のシングルモルトブランドを生産する蒸溜所は、世界的にも極めて珍しい。

「オクトモア」というブランド名は、他の2ブランドと同じく地名に由来している。ポートシャーロットはブルックラディ村から海岸線を2kmほど南下した場所にある村の名前で、オクトモアはほぼその中間にある農場の名前だ。オクトモアとは、ゲール語で「偉大なる8番手(Big Eighth)」を意味する言葉である。

このオクトモア地区にも、かつては蒸溜所があった。ブルックラディ蒸溜所が創設されたのはビクトリア朝の時代1881年だが、オクトモアではそれ以前から地主のモンゴメリー家が蒸溜所を運営していた。もっとも盛んに蒸溜をおこなっていた1826~1827年には、年間65本のホグスヘッドに相当するスピリッツが蒸溜されていたという。ブルックラディ蒸溜所は、現在もこの地から湧き水を採取してウイスキーの加水に使用している。

 

ひょんな会話から生まれた大実験

 

ウイスキーのスモーキーさは、フェノール値(ppm)を指標にして計られる。オクトモアは、このフェノール値が世界一なのだ。ブルックラディのブランドアンバサダーを務めるマレー・キャンベルが、ブランド誕生のいきさつを教えてくれた。

「最初のきっかけは、ヘビリー・ピーテッドのポートシャーロットです。フェノール値がぴったり40ppmのピーテッドモルトを納入してくれるインバネスにあるベアーズ社に、どうやってフェノール値を均一に保っているのかと興味本位で訊ねました。すると、80ppmくらいのモルトを、0ppmのノンピーテッドモルトに混ぜて40ppmにしているのだという答えが返ってきたんです」

なるほどそういう訳だったのか。ならば80ppmのモルトも提供できるのではないかと打診する蒸溜所に、「そんなに上げたらピートが強すぎて美味しくない」とためらうモルト業者。だがブルックラディの関係者は、この思いつきからついに引き下がらなかった。

ブルックラディ蒸溜所のポットスチルは、背の高い細身のスタイルである。軽やかで、エレガントで、フルーティで、フローラルな個性を持つ蒸溜所が、極めてフェノール値の高いモルト原料を使用したらどんな味わいになるのだろう。そんな好奇心から、当時の最高責任者であるマーク・レイニアとマスターディスティラーのジム・マッキュワンが冒険的なプロジェクトを開始する。そして2002年の9月23日、フェノール値80.5ppmのモルトから最初の「オクトモア」が蒸溜された。

このバッチの出来栄えに満足した関係者は、さらに上を目指す。2年目のバッチで、フェノール値はついに100ppmを超えてしまった。

スーパーへビリーピーテッドのモルトは、温度を抑えながら、できるかぎり長時間ピートの煙で燻されることで作られる。原料や環境によって結果が異なるので、フェノール値はバッチごとにまちまちだ。そんなわけで定番品という概念がないオクトモアは、エディションナンバーで管理されている。

アイラ島産やオクトモア農場産のモルトを使用したバッチも増加中。ブルックラディが推し進める手づくり志向は、オクトモアでもしっかりと表現されている。

2008年に発売された「オクトモア1.1」のフェノール値は131ppm。6000本すべてがバーボン樽熟成のものだった。翌年の「オクトモア2.1」は140ppm。2014年には実にフェノール値258ppmの「オクトモア6.3」が登場した。スモーキーな風味で知られるアイラ島の有名ブランドが40〜60ppm程度であることを踏まえると、これがいかに驚異的な数値であるかがわかるだろう。

オクトモアのエディションナンバーには、大まかなルールがある。1の位が同じ数字ならば、同じ年に発売されたもの。そして小数点以下が「X.1」ならバーボン樽100%である。これが「X.2」になるとワイン樽熟成の原酒がブレンドされ、「X.3」は希少なオクトモア農場産の大麦を使用したもので、まさに「オクトモアの中のオクトモア」だ。「X.4」はヴァージンオーク(新樽)で熟成した原酒を使用していることを示す。どんどんバージョンが増えて混乱しそうだが、蒸溜所はあえて細かく分類することで違いを楽しんで欲しいと考えている。

これまでに発売されたオクトモアの熟成年数は、ほとんどが5年熟成である。フェノールの表現がもっとも華やかなタイミングであるという理由の他に、ブルックラディらしい反骨精神も込められているのだマレー・キャンベルは明かす。

「ピートが強すぎる。度数が高すぎる。熟成年が若すぎる。そんなウイスキーがまろやかで美味しい訳がない。計画当初から、そんな声も聞こえてきました。だから彼らの予想を覆したかったんです。通常の何倍ものフェノール値を持ちながら、エレガントで複雑な5年熟成のウイスキーが可能であることを、オクトモアは証明できたと思います」

 

いよいよ待望のテイスティング

 

さて目の前には、「オクトモア6.1」(167ppm)と「オクトモア7.1」(208ppm)のグラスが用意されている。色はどちらも淡い琥珀色だ。ブルックラディの製品なので、もちろんチルフィルターや着色料は使用していない。

マレー・キャンベルはおもむろにウイスキーを掌に少し垂らし、手全体に伸ばしてみるように促した。

「乾いた後の手から、どんな匂いがしますか? きっと農場のような匂いがするはずです。ピート、スモーク、土や草が入り交じった有機的な牧場の匂い。これがオクトモアの本質的な特徴です」

伝統的なウイスキーづくりに、現代アートを思わせるボトルデザイン。こんなギャップも、既存の価値観に挑む反骨精神の象徴だ。

レミーコアントロー傘下でのリリース第1号となった「オクトモア6.1」のグラスを手に取る。鼻を近づけると、鮮やかなスモーク香。だがそれは決して声高な主張ではなく、軽やかなフルーツや花々の香りと溶け合っている。口に含むと甘味が広がり、パワフルなスモーク香がゆっくりと鼻へ抜けていく。スーパーへビリーピーテッドの特徴は、この壮大な余韻にあると言えるだろう。5年熟成という若さや、57%というアルコールの刺激は不思議なほどに感じられない。

フェノール値208ppm、度数>59.5%の「オクトモア7.1」も、全体を通して印象に残るのは素晴らしいバランスである。いっそう濃厚なスモーク香はただ空気のようにそこにあり、かといって他の風味要素を押しやる強引さはない。スモーク香があることによって、フルーティで軽やかなブルックラディらしさがひときわエレガントに際立つ印象だ。

オクトモアの特徴は、もちろん破格のピートレベルにある。だがいわゆるピートモンスターのように奇を衒ったウイスキーではない。スモーク香だけに偏ることなく、海、果実、花、バニラなどの風味が織りなすバランスに魅せられる。ピートマニアも、そうではない人も、この意外なほどの優雅さには驚かされるだろう。

すべての優れた古典芸術も、誕生時には異端だった。オクトモアもまた、単なる型破りを超えたクラシックな風格を感じさせるウイスキーなのである。

 

世界最高のピート香を放つ「オクトモア」など、手づくりのシングルモルトウイスキーにこだわるブルックラディの製品情報はこちらから。

 

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