ポットエールとスペントリース

January 5, 2018


蒸溜の後に残された廃液にはどんな成分が含まれていて、どのように再利用されているのだろうか。イアン・ウィズニウスキが、知られざるウイスキーづくりのトリビアを解剖する。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

蒸溜でできる廃液(残留物)には2種類がある。どちらも業務上は副産物として扱われ、初溜でできる廃液が「ポットエール」、再溜でできる廃液が「スペントリース」と呼ばれている。どちらも実態は大量の液体であり、生産プロセスにおいて付加的な役割を果たしながら時間と費用の節約に多くの貢献をしている。

ボイルポット(スチルの釜底)に残るポットエールの量は、チャージ(蒸溜される前のもろみ)全体の約3分の2になる。例えばグレンモーレンジィ蒸溜所で12,000リッターのチャージを蒸溜すると、そこから4,000リッターのローワインが取り出せて、8,000リッターのポットエールが残る。またグレンロセス蒸溜所では、12,500リッターのチャージを蒸溜すると約7,500リッターのポットエールが残る。

ポットエールは薄く黄色がかった金色の液体で、モルト、焦げたシリアル、酵母菌などのアロマがある。蒸溜の目的はアルコールを水から分けて取り出すことなので、当然のようにポットエールの主成分は水分である。初溜前のウォッシュ(糖液を発酵させたもろみ)はたいていアルコール度数が8〜10%程度で、残りの92〜90%が水分だ。ポットエールには、この他に使用済みの酵母や大麦由来のタンパク質(ドロリとした粥状)も含まれている。固形物といえば、マッシュタンから流入した大麦ハスクの破片くらいのものだが、もうひとつだけ顕著な内容物もある。グレンモーレンジィ蒸溜所長のアンディー・マクドナルド氏が語る。

「ポットエールには業界標準で約0.1%程度のアルコールが含まれています。この残存アルコールをさらに蒸溜して引き出すには燃料費がかかりすぎて、商業的に成立しなくという事情があります」

再溜の原液であるローワインはアルコール度数が約25%(つまり残りの水分は約75%)で、ここから蒸溜されてできるニューメイクスピリッツはアルコール度数が70%程度である。

ポットスチルに残ったスペントリースの量は、再溜前のチャージの約3分の1程度である。ローワインはウォッシュよりも水分の割合が少ないため、スペントリースはポットエールよりもかなり少ない分量になる。例えばグレンモーレンジィ蒸溜所では、7,500リッターのチャージから2,500リッターのスペントリースが残される。またグレンロセス蒸溜所では、15,100リッターのチャージから約6,380リッターのスペントリースが残る。

スペントリースはオイリーな濁った液体で、かすかにオイリーなアロマがある。ここでも主要な成分は水分だが、その他にも蒸溜中に生成されるオイリーな脂肪分が液状化されて混じり合っている。アルコール度数は約0.1%だ。

 

省エネに貢献してから牛の餌に

 

蒸溜工程の最後に、ポットエールとスペントリースは大事な仕事を請け負っている。それは98~99℃という高い温度を利用した役割だ。ポットスチルの底からポットエールやスペントリースを排出する際に、それぞれの液体をプレート式熱交換器へと誘導する。こうすることで次に蒸溜されるウォッシュやローワインの温度を高め、スチルを熱するのにかかる時間や燃料費を節約できるのだ。

熱交換器を出たポットエールとスペントリースは、それぞれ別のルートで蒸溜所を後にすることになる。それに加えて、ポットエールにはまだ別の役割がある。蒸発装置を通って濃縮されたポットエールシロップは、農家に売られて牛の餌になるのだ。グレンロセス蒸溜所長のアラスデア・アンダーソン氏が説明する。

「ポットエールには24トンの水分あたり対して1トンの固形物が含まれており、これが水分を蒸発させることによって1:1にまで凝縮されます。ここまで水分を飛ばせば、ポットエールシロップを農場に輸送するタンカーの台数も少なくて済むんです」

一方、スペントリースの行き先と再利用法は、ポットエールと異なったものになる。アンダーソン氏が語る。

「スペントリースも再利用法したいと願っています。たくさんの人が研究を重ねていますが、今のところ商業的に利用可能な方法は見出されていません。スペントリースは廃水処理工場に送られてからスコットランド環境保護庁(SEPA)が定める規則に従って自然環境へ返すことになっています」

 

廃液を利用した熱交換のメカニズム

 

温度の高い液体(ポットエールやスペントリース)から温度の低い液体(ウォッシュやローワイン)へと熱エネルギーを移すために、プレート式熱交換器が使用される。

プレート式熱交換器は一連の金属板で構成され、片側にポットエールを、もう片側にウォッシュを誘導することで効力を発揮する。同様にスペントリースの反対側にはローワインが流し込まれる。金属板での熱交換の働きによって、ポットエールとスペントリースの温度は徐々に下がり、ウォッシュとローワインは徐々に温度が高くなる。熱交換器に入るときのウォッシュの温度は約30℃程度で、ローワインは 15〜20℃程度。どちらも熱交換器を出るときには約70℃までに熱せられている。インバーハウスディスティラーズで蒸溜所のゼネラルマネージャーを務めるデレク・シンクレア氏が説明する。

「熱交換器がなければ、湯気が立ち始める78 ℃程度までスチルを熱するのに40〜45分はかかるでしょう。熱交換器があれば15分で済みます。燃料費の削減が大きな要素ですが、時間効率も重要です。この時間が積み重なって、週あたりの蒸溜回数が1回増えると、年間で大きな違いが生まれます。熱交換器の値段は、1カ月以内の燃料費の節約によって相殺できます」

 

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