アラン蒸溜所の現在

January 9, 2018


アラン島で150年以上ぶりにウイスキーづくりを復活させたアラン蒸溜所も創立20年を超え、ラッグでの新蒸溜所建設も順調に進んでいる。マスターディスティラーのジェームズ・マクタガートが、人生、ウイスキー、音楽について語ったインタビュー。

聞き手:クリストファー・コーツ

 

ジェームズ・マクタガートが、アイラ島のボウモア蒸溜所で事務職員に採用されたのは23歳のとき。当時のハリー・コックバーン社長によって、事務職から生産チームに異動させられたことで運命が動き出した。ウイスキー業界におけるジェームズのキャリアは、このとき始まったのである。

その先の10年は、ウイスキーづくりのあらゆるプロセスについて学ぶ日々。ピートの切り出し、フロアモルティング、マッシング、貯蔵など、ボウモアでの仕事はアイラで生まれ育ったジェームズにとって「完璧な体験」だった。そして2007年のある日、ゴードン・ミッチェルの引退に伴ってアラン蒸溜所が新しいリーダーを探しているというメッセージが届く。

断る理由などなかった。電話を受け、簡単なミーティングを終えると、すぐにジェームズはアラン蒸溜所の舵取りを任されることに。それからというもの、アイラ島の自宅から毎週アラン島のロックランザに通う日々が始まった。

2017年10月、ジェームズのマスターディスティラー就任10周年とウイスキー業界勤続40周年を記念した特別エディションのアランモルトが発売(日本での発売は2018年1月中旬)。この節目の年に、ジェームズがアラン蒸溜所での10年を振り返るインタビューに応じてくれた。

 

ロックランザで働き始めたとき、まずはどの分野に注力しようと思いましたか?

 

ここに来たばかりのときは、樽に関する戦略がまだ未完成の状態でした。アラン蒸溜所を創設した直後に、財政的な苦難の時期があった影響です。それでもアランが生産するスピリッツは一貫して素晴らしい品質でした。ちょうど私がボウモアに務め始めた頃と同じような状況だったので、何をすべきかはわかっていました。ボウモアでの最初の10〜15年は、まだアンドリュー・ランキンがやってくる前で、樽の品質は二の次の状態。当時のスコッチウイスキー業界が、おしなべてブレンデッドウイスキー主体だったことも理由のひとつです。ボウモア蒸溜所では、シングルモルトに本腰を入れる方針になってから樽の品質が重視され始めました。そんな経験もあって、アランにも確固たる樽熟成の戦略が必要であることはすぐにわかったのです。

 

ロックランザの緑に囲まれたアラン蒸溜所。ジェームズ・マクタガートは10年前から職場とアイラ島の自宅を行き来している。


 

熟成中の原酒も新しい樽に詰め替えたということですか?

 

古いストックの多くは詰め替えの必要がありました。でもワインとは異なり、スピリッツは詰め替えによって確実に品質を向上させられます。アランでは10年前からかなり樽の品質を改善してきたので、現在ボトリングしているウイスキーの品質には自信がありますよ。これも私が必要だと考えた投資に惜しみなくサポートを提供してくれたアラン経営陣のおかげです。

 

過去10年で変わったことは他にもありますか?

 

ここに来たばかりのときは、古い貯蔵庫が2棟、スチルが2基、ウォッシュバックが4槽という設備でした。でもアランはすべて私が望んだとおりの改修や設備投資を実行してくれました。現在の蒸溜所機能は、10年前の約2倍の規模にまで拡張されています。新しい事務室、ブレンディングルーム、VIPラウンジまで完備して、目に見えた成長に感謝と誇りを感じています。

 

アラン蒸溜所の生産規模は2倍になった。ジェームズ・マクタガートはラッグの新しい蒸溜所でもスチルの設計に関わっている。(写真は改修前の蒸溜所内)


 

アランは新しい蒸溜所をラッグに建設し、そこでピーテッドモルトを生産することを明らかにしています。これによって、ロックランザでは今後ピーテッドモルトの生産を終了することになるのですか?

 

アランでは2008年からピーテッドモルトを蒸溜するペースを上げ、ピートレベルも20ppmに高めました。2011年からは50ppmのスピリッツもつくっていますが、これは全生産量の15%だけ。来年からはラッグに役割を移すので、ここロックランザでは50ppmの生産を終了します。でも引き続きロックランザでは「マクリー・ムーア」のために20ppmのスピリッツを生産する予定です。

 

建設しているラッグ蒸溜所の進捗状況はいかがですか? この新しい蒸溜所にも深く関わっているのですか?

 

深く関わっています。新しいスチルの設計にも関わる予定です。スチルの形状についてはまだ完全に決めたわけではありませんが、マッシュタンは4トン、ウォッシュバックは20,000リッター、スチル2基という大枠は決まっています。スピリッツのスタイルをまだ議論中で、コンデンサーのタイプや熱回収の方式についてもこれから結論を出します。蛇管式のコンデンサーは熱回収が難しくなりますが、その一方でピーテッドモルトのスピリッツに土っぽい特徴を授けてくれます。多管式のコンデンサーは熱回収率が高くて、ビジターセンターの暖房にもなるので人気の方式。どちらにしようか思案しているところです。

 

新しいビジターセンターとテイスティングエリアはいつも盛況。モルトファンの訪問者も増えている。


 

蒸溜所を訪ねるベストシーズンはいつですか?

 

年中いつでもお待ちしていますよ。でも2018年6月30日の「モルト&ミュージックフェスティバル」はぜひお見逃しなく。セールス担当のアンディーと私も演奏するんです。共に別々のバンドでギター経験があったので、ユニットを組みました。ベースとドラムも加入しています。

 

それは楽しみですね。バンド名は?

 

「ジェームズ&ステーブズ」です!

 

 

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