クライドサイド蒸溜所とグラスゴーの未来【後半/全2回】

April 2, 2018


クライドサイド蒸溜所は、グラスゴーのみならずスコッチウイスキーの歴史を学べる新拠点。過去と未来をむすぶ空間で、伝統のウイスキーづくりを復活させている。

 

文:クリストファー・コーツ

 

キンクレイス蒸溜所が廃業して以来、グラスゴーで初めて建設されるシングルモルト蒸溜所。そんな輝かしい肩書は、一足早く2014年にヒリントン地区で開業したグラスゴー蒸溜所(年間20万L生産)の手に渡ってしまった。

それでも2017年11月のクライドサイド蒸溜所の開業は、まさに快挙と呼ぶに相応しい出来事だった。蒸溜所開業の予算は1,050万ポンド。クイーンズドックにあった廃墟同然の古い建物が美しく改修された。

クライドサイド蒸溜所がクイーンズドック地区の工場を本拠地としたことは、ティム・モリソンがジョン・モリソンの孫であり、スタンレー・モリソンの息子であることを考えるといっそう意義深い。19世紀後半に祖父が建てた砂岩のポンプハウスを孫が保全し、ブランドの垣根を越えたスコッチウイスキーの中核的な研究拠点としてよみがえらせたのだ。

クライドサイド蒸溜所は、それ自体がウォーターサイドの名所のひとつとなっている。名高いリバーサイドミュージアムからも目と鼻の先で、グラスゴーの市内観光にスコッチウイスキーの蒸溜所見学を組み込みやすくなった。以前は町から車を30分走らせて、オーヘントッシャンやグレンゴインを訪ねる以外なかったことを考えると大きな変化である。

ビクトリア朝時代の古い建造物は、修復されてかつての威光を取り戻している。ここが蒸溜所のビジターセンターだ。かと思えば生産設備が収納されているのは目を見張るような現代建築である。新旧のエレガントな融合を表現した建物は、周囲の環境にも溶け合っている。

グラスゴーのウイスキー蒸溜の過去、現在、未来を称える輝かしいモニュメント。それが新しいクライドサイド蒸溜所のイメージである。うらぶれたカラオケ付きインド料理店が入っていた先日までの姿からは隔世の感がある。

 

ローランドの伝統に忠実な生産体制

 

フォーサイス社が製造した真新しいマッシュタンも、ローランドらしいウイスキーづくりの伝統をしっかりと受け継ぐ設計だ。

クライドサイドのビジター用ツアーは、さながらグラスゴーとスコッチウイスキー業界の歴史を一息で学べる短期集中コースである。冒頭のレクチャーでは、蒸溜を始めた外科医の逸話から、ブレンディングを始めた雑貨屋、モリソン&メイソン、モリソン・ボウモアに至る流れを解説。続いて生産設備のガイド付きツアーでは、典型的なローランド流のスピリッツづくりを実際に見学する。いつも品質に目を光らせているアリステア・マクドナルド蒸溜所長は、かつてオーヘントッシャンの蒸溜所長を務めていた人物だ。

ガラスのファサードで囲まれた蒸溜室は、いかにも現代的な雰囲気だ。でも外見に騙されてはいけない。ロセス村のフォーサイス社が納入した生産設備はいかにも真新しいが、ここから生み出されるスピリッツの説明には「伝統」という言葉が頻出するのだ。

生産工程の大部分が、あえて手作業でおこなわれている。スチルのスチームバルブやスピリットセーフの管理に至るまで人力である。比重を確かめたり、スピリッツをカットする行程も昔ながらの手法にこだわっている。

アリステア・マクドナルド蒸溜所長によると、スピリッツの蒸溜は非常にゆっくりとおこなわれる。これはあらゆる段階で液体と銅の接触を増やすためのアプローチだ。結果として、ニューメイクはフルーティーですっきりとフレッシュなタイプに仕上がる。クライドサイド蒸溜所は、まさにそのような味わいによってファンにアピールしたいと考えているのだ。

モルトはシンプソンズ社が供給するコンチェルト種。1.5トンのマッシュを72時間発酵させてクリアなワートをつくる。ウォッシュスチルで2回蒸溜(各5時間)して必要量のローワインをつくり、スピリットスチルで1回蒸溜(8時間)。ハートカットで850Lのスピリッツ(度数71%)を取り出す。蒸溜所には年間最大で純アルコール換算500,000Lの生産能力があるが、初年度は同280,000Lの生産に留める計画だ。

蒸溜所の採水地がクライド川ではなく、約65km離れたカトリーン湖だと聞けば驚く人も多いだろう。19世紀半ば以来、カトリーン湖の水はいくつもの導水路網を通ってグラスゴー市内や周辺地域に供給されている。

都会の蒸溜所ということもあって、ここではウイスキーの貯蔵をおこなわない方針だ。現在、樽詰めは蒸溜所でおこなわれているものの、いずれスピリッツをタンカーで他処の貯蔵庫に移動させてから樽詰と熟成をおこなう計画である。ウイスキーを貯蔵する樽はバラエティ豊富で、ファーストフィルのバーボンバレル、ファーストフィルおよびリフィルのホグスヘッド、シェリーのシーズニングを施したホグスヘッドなどが使用されている。

初年度に仕込んだスピリッツが出荷できそうな熟成年に達するのは2020年以降。具体的な発売予定などは、まだ何も公表されていない。それまでの間、ビジターはここで近隣のシングルモルトをテイスティングしながらスコッチウイスキーの知識を深めることができる。

クライドサイド蒸溜所の見学ツアーは、出発地と同じウイスキーショップで解散する。このショップは幅広いスコッチウイスキーのブランドを常備しており、品揃えもかなり豊富。併設されているカフェでは、コーヒータイムや軽いランチに利用できる。

先人たちが築いた礎を守り、未来への道筋をつくりあげたクライドサイド蒸溜所。モリソン家ゆかりの場所であるクイーンズドックから、再びグラスゴー産のウイスキーが世界へと旅立つ夢を叶えてくれたのである。

 

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