山崎蒸溜所 新蒸溜釜発表会
山崎蒸溜所に新たに設置された4基のポットスチルのお披露目・説明会をレポート
本年7月山崎蒸溜所に新しいポットスチルが導入されたのはご報告の通りだが、9月13日(金)ついにそのスチルが公開された。
山崎蒸溜所工場長 藤井敬久氏からその新スチルについて説明を受ける。
同蒸溜所は1923年に建設着手、24年竣工を迎えた当時は初溜釜・再溜釜各1基(1対2基)であった。それ以来、58年に1対2基増設(計4基)、63年には倍増して4対8基となった。68年にさらに2対増設し6対12基となって、その後大改修(直火釜の再導入)等や定期的な入れ替え(銅製の釜は蒸溜による反応で摩耗するため、20~30年に一度入れ替えが必要であり、その際に形状や大きさの見直しをしていた)を行っていた。
その結果、2003年にはISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)で、シングルモルトウイスキー「山崎12年」のジャパニーズウイスキー初の金賞受賞に結びつき、ジャパニーズウイスキーが世界で評価されるきっかけとなったことは、同社のウイスキーづくりにおける、こうしたたゆまぬ研究と革新の成果といえるだろう。
その大改修後には長らくスチル増設はされていなかった。2007年までウイスキーの消費量は右肩下がりに落ち込んでおり、厳しい時代が続いていたのである。しかし08年のハイボールブームを機に市場は拡大に転じ、伸び続けている。そして今後もさらに国内外で高まっていくであろう需要に対応するため、今回45年ぶりにスチル増設が決定した。ウイスキーづくり90周年の今年、このような前向きな投資が行われるということは、ウイスキー愛好家にも非常に喜ばしく、明るいニュースではないだろうか。
この新設された4基は、もともと別の設備があった建物を改修してつくった蒸溜室に設置されている。工事は搬入だけで3日間を要する大掛かりなもので、現在の蒸溜所スタッフには初めてのことであるため、ひとつひとつの作業が緊張と不安の連続だったようだ(詳細はこちら)。無事設置され試運転を行った今は第一段階終了というところだが、実際に本格的にスピリッツをつくり始め、そして熟成の工程を経て製品になるまでの将来にわたり、品質向上への取組みがずっと続くのだろう。
総工費約10億円という大規模な増設であるが、これにより同蒸溜所の生産量は4割増となる。今後も安定したウイスキーを供給できるだけでなく、さらにタイプの異なる原酒をつくり分けることができる。世界でも珍しい「単一蒸溜所で多彩な原酒をつくり分ける」山崎蒸溜所でつくられる原酒のタイプが、このスチルの登場によってさらに幅が広がっていくことは想像に難くない。
新蒸溜室は残念ながら一般公開はされないようなので、ぜひこちらの記事の画像をじっくりとご覧いただきたい。
画像手前が7号機、奥が8号機のペア(ともに左側が初溜)。水のみでの試運転を行ったため、まだ下部は熱が残っており、赤味がかっているのがお分かりいただけるだろうか? スチルの形状は、蒸溜所操業開始当時に使用していたもの(トップ画像参照)を参考に設計されたという。あらためて原点を振り返るだけでなく、当時のスタイルと現在の技術や90年で培った経験を踏まえて、より高品質で多彩な原酒づくりを目指す。
初溜釜はどちらも直火式でストレートヘッド(直径3.8m×高さ5.7m)、再溜釜では7号機はストレートヘッド(直径3.2m×高さ5.3m)、8号機はバルジ型(ネック部分に膨らみのある形状・直径3.2m×高さ6.1m)だ。
ちなみに同蒸溜所の初溜釜は1基(3号機・ストレートヘッド)を除いて全て直火式である。いったんは間接式(スチーム加熱)に切り替えられたが、「山崎」独特の個性を追求しながら品質を高めるためには、直火式のほうが適切であると判断されたため、再度直火式を採用したとのこと。
今後の抱負として、藤井工場長は「10年後に迎える100周年に向けて、この釜でつくられたウイスキーが製品に活かされるように努力したい。世界中のお客様に『美味しい』と愉しんでいただき、我々のウイスキーで心豊かになっていただけたらと思っています」と語る。
このスチルから流れ落ちるスピリッツには、90年分の歴史と想いが込められているだろう。それがウイスキーとして世に出るまでの数年間、焦らずにゆっくりと熟成して欲しい…待つこともウイスキーを愉しむ醍醐味なのだから。