ラガヴーリン蒸溜所 女性初マネージャー 「アイラの新星」ジョージー・クロフォード
長いラガヴーリンの歴史の中で、初の女性蒸溜所所長が登場。ジョージー・クロフォード氏はディアジオ社の期待を一身に受け、輝かしい地位を射止めた―しかしそこにはシンデレラガールとは言わせない経歴と確固たる信念があった。初来日で連日プロモーションに奔走するジョージーへのインタビュー。
ウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ) ご両親がポートエレンにあるパブを経営されていたということで、早くから英才教育をされていたような環境だったそうですが、お生まれはアイラ島ではないのですね?
ジョージー・クロフォード(以下GC) ええ、でもアイラ生まれのようなものです。父方の祖先は13世紀から島にいたそうです。
WMJ それは凄い!まさにアイラっ子ですね。その後様々なウイスキー業界での経験を経て20年ぶりにアイラ島へ戻ったと伺いました。ラガヴーリン蒸溜所初の女性蒸溜所所長として「故郷に錦を飾った」わけですが、そのときの心境はいかがでしたか?
GC そうですね…とてもナーバスでした。ラガヴーリンはアイラ島だけでなく、スコットランドの象徴的な蒸溜所のひとつです。幸運にも蒸溜所所長という大任をおおせつかって島に戻ったときは、身震いするような気持ちでした。今現在蒸溜所で働いている人だけでなく、ウイスキーに無関心な人たちでも何らかの形で蒸溜所に関わっているような小さな島ですから。
WMJ しかし喜びも大きかったでしょう?
GC ええ、とても誇らしく思いました。ラガヴーリンの長い歴史の新たなステップに名を残せるのは光栄なことです。でも一歩蒸溜所に足を踏み入れたら、そんな複雑な感情は消え去ってしまいました。とにかくウイスキーに向き合える喜びで一杯でした。
WKJ うなずけるお話です。よく訊かれることかと思いますが、女性初の蒸溜所所長となった感想を伺えますか?
GC 私にとって、女性であるということはたいした違いに思えません。もちろんこの業界は男性主体で、女性が進出することを喜ばない人もいるでしょう。それでも私自身は女性がウイスキーについて語ったり仕事にすることについては、もはや何の障害もないと考えています。
WMJ ディアジオ社では他にも女性蒸溜所所長がいらっしゃると聞きました。そういった意味ではもう特別なことではないのでしょうね。働く女性の期待を担っておられると思います。ラガヴーリンはスモーキーでやや男性的なウイスキーですが、これを機に女性ファンも増えるのではないでしょうか。
GC 直接の理由になるかは分かりませんが…そうなってほしいと思います。ラガヴーリンのスモーキーさは女性には敬遠されがちでした。しかし、その奥にある柔らかさや甘さ、フローラルな香りは、女性にも愛されるべきウイスキーだと思います。
WMJ 女性ならではの観点からも新しいアプローチが出来そうですね。さて日本のファンが気になるのは、やはりスペシャルボトルのリリースだと思いますが。
GC ええ、多彩なラインナップを揃えたいのは山々ですが…。幸いラガヴーリンは世界中で愛され、生産が需要に追いつかない状況が続いています。限定のスペシャルボトルをリリースするよりは、定番の16年を切らすことのないよう皆様にお届けすることが重要と考えています。熟成する時間だけは縮められませんから。
そんな状況下で限定商品の「12年カスクストレングス」をリリースできたことは非常に嬉しく思いますし、ペドロヒメネス熟成の「ディスティラーズ・エディション」も楽しんでいただいていることと思います。私はラガヴーリンの強烈な個性を発揮するには16年熟成が最適だと思っています。今は長期熟成モノを発売するよりスタンダードを守ることが第一だと考えています。
WMJ ウイスキーという時間を必要とするお酒には、売れすぎてしまうのも難しい問題ですね。
GC そうですね、どこの蒸溜所も同じ問題を抱えていると思います。またシングルカスク、シングルヴィンテージなどもとても魅力的ですが、ラガヴーリンの愛飲家はスーパーマーケットなどで購入して気軽にウイスキーを楽しみたい方々が多く、特殊な酒販店まで足を運んだり、予約をしたいわけではないのです。
WMJ なるほど。生産量が限られている以上は、顧客のニーズをマスで捉えるということが重要かもしれません。世界的に人気があるということは大変なことですね。
では最後にウイスキーマガジン・ジャパン読者の皆さんにメッセージをお願いします。
GC 今回の来日で、皆さんがラガヴーリンにどんな期待をされているかが分かりました。またこうしてアイラ島、蒸溜所、ウイスキーへの橋渡しができることを幸せに思います。一杯のラガヴーリンとともに、たとえば16年前に何があったかを思い起こしたり、アイラ島の風景を想像したりして、楽しんでいただければと思います。
限られた時間ではあったが、ジョージーのエネルギッシュなオーラに触れることができた。彼女が言う「幸運にも」「幸い」という言葉はそのままの意味ではない。もちろん多少の“運”はあったのかもしれないが、努力や経験が培われた結果である事が強く感じられた。まさに「選ばれし者の恍惚と不安、二つ我に在り」、彼女は自身でその扉を開き、今の場所へ辿り着いた。
「こうしてプロモーションに動き回るのもいいけど、早く蒸溜所に戻ってウイスキーに囲まれたい」という率直な言葉は、蒸溜所所長としてだけでなく彼女を今なお魅了してやまないウイスキーへの愛情を体現しているようだった。走り始めたジョージーの今後の活躍にご期待いただければと思う。
ジョージー・クロフォード 略歴
幼い頃、両親がポートエレンにあるパブ「アードビュー・イン」を購入したのをきっかけにアイラ島へ移住。20代からエディンバラでバーやレストランを経営し、2002年にスコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティが本部を置く「ザ・ヴォルツ」の副責任者となる。06年初めには「ウイスキーショップ・ダフタウン」の店長としてスピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバルやダフタウン・オータム・ウイスキー・フェスティバルの運営にも深く関わる。07年、タリスカー蒸溜所のブランドマネージャーに就任。その2年半の間に製造に携わることを決意、グレンオード蒸溜所実地研修を受ける。研修中ラガヴーリン蒸溜所所長の打診を受け、就任。20年ぶりにアイラ島に戻る。
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