バーで飲むハイボール【1】 スタア・バー・ギンザ
今では気軽にどこででも楽しめるハイボールも、やはりバーで飲むと一味違う。そのなかでも特にこだわりのハイボールを提供するバーへ、人気ブログ「酔っぱライター ドットコム」の江口まゆみが訪れる。
新連載の「バーで飲むハイボール」、第1回目は銀座の名店スタア・バー・ギンザへ。そこには知る人ぞ知る極上のハイボールが待っていた。
銀座のスタア・バーは、今年日本バーテンダー協会会長になった岸久さんのお店。岸さんがつくるスタンダードカクテルには定評があり、コアントローとグランマニエを使うサイドカーなど、独特のレシピにファンが多い。
この日岸さんは不在で、かわりに店をあずかっていたのは山崎剛さん。高知出身の山崎さんは、2005年に入店。以来岸さんについて腕を磨いてきた。将来は故郷に自分の店を持つのが夢だという。
ハイボールをたのむと、冷蔵庫から氷入りのグラスが出てきた。大きめのグラスにグラスいっぱいの氷がひとつドーンと入っている。氷を入れたまま冷蔵庫に入れておくのは、氷の霜を取るためと、お酒を入れたとき氷に亀裂が入らないなど、氷の温度管理をするためだ。
スタア・バーのこだわりのひとつが氷。透明度の高い純氷を大きなブロックで仕入れ、そこから削り出していろいろな大きさに加工している。硬い氷なので、ハードシェイクにも耐えられ、ステアしても水っぽくならない。
ベースになるウイスキーは、サントリーの白州12年。それを冷凍庫から取り出す。凍ってトロトロになったウイスキーに、圧が強い炭酸をそそぎ、大きい氷一個でぐるぐるっと混ぜることでしっかりとなじむ。粘度のあるウイスキーに炭酸を含ませることで、より香りや味わいが広がるという。たしかに華やかな香りがして口当たりは優しく、飲み込むと白州のスモーキーフレーバーがふわりと香る。なるほど、これはおいしいハイボールだ。
続いて山崎さんに、「なにかウイスキーベースのカクテルを」とオーダーしてみた。岸さんのつくるバーボンウイスキーベースのマンハッタンは有名だが、山崎さんは、あえてスコッチウイスキーベースのチャーチルをチョイスした。
まず、アンティカ・フォーミュラーというベルモットでシェイカーをリンス。次に冷凍したデュワーズ12年を多めに入れ、コアントローとライムジュースを同量。そこへスイートベルモットを足す。これをシェイクし、大ぶりの足つきグラスにそそぐと出来上がりだ。
ブラウン系のスピリッツの場合、氷片が入らないように、きれいに茶こしで漉して提供するのがスタア・バー流。氷片がないので、舌触りはなめらか。甘みと酸味のバランスが良く、サッパリとしていて飲みやすいカクテルだ。
「チャーチルは、カクテルレシピ集には必ず載っているスタンダードカクテルですが、知っている人が意外と少ない。でも飲んでみるとマニアックな味ではなく飲みやすい。バーに通い慣れている通の方にも喜んでいただけるカクテルではないかと思います」と山崎さんは言う。
低くファドの流れる中、居心地の良いカウンターには、さりげなくカドにふかふかの肘当てがついている。お水をかえるタイミングや、次のお酒をすすめる間も絶妙。そして、女性一人でも安心して飲めるように、お店全体で気を配ってくれているのがわかる。まさに大人の社交場だ。
「うちはフレッシュフルーツのカクテルにも力を入れています。今の季節は高知の小夏。もうすぐ桃が始まりますよ」という山崎さんに見送られて外へ出ると、夢から覚めたあとのように、銀座の雑踏が広がっていた。