嵐を乗り切れ【全2回・前半】

January 3, 2013

ファミリー経営の蒸溜所、グレンファークラスは派手でも華やかでもないが、活力にあふれている。古き良き時代の手法を守り、成功を続ける同蒸溜所を取材する

Report:ドミニク・ロスクロウ

不景気な状況下でのビジネスが嵐の中の航海に似ているとすれば、ウイスキーをつくって売るというビジネスは、強風の中で航海しつつ同時に将来の大航海に備えて船の改装を試みるようなものだ。

将来を見越した決断が必要だ。どれを選んでボトリングするか。この先10年、どのウイスキーを手元に残すか。10年後に高い需要が見込まれることを前提に計画を立てるとしたら、今週中にグレーンと樽の投資をしなければならない。それによって、天候が悪化して荒波が押し寄せようとも、その難局を乗り越えられるかどうかが決まる。新しい地平線を目指して船を進め、母港から離れつつも平常でいなければならない。

船上では、次から次へと問題が持ち上がる。シングルカスクのボトリングにすべきか? マネジャーズ・チョイスを次々と出すか。スーパープレミアムをリリースするか。年数表記のない商品を出すか。通常はピーティなウイスキーをつくらないが、あえてつくるか(またはその逆)。特別なウッドフィニッシュをシリーズ化するか。ロットはどうするか、など。ああああぁ、船長……。

景気という荒れ狂う海の中、我々消費者は、最高の「漁場」を探し求めるつくり手の方針に翻弄されているようだ。

ただし、注目すべき例外がいくつかある。たとえばグレンファークラスだ。船にたとえるならば、グレンファークラス号は、台風の目の真っ只中にいるのが分かるだろう。しかし、艦船グレンファークラスは、出発点からの水路をはっきりと残しながら、水平線という目的地点を見据えて着実に前進しているのだ。荒れ狂った大海においても揺るがない。

グレンファークラスはトレンドとは無縁だ。奇抜さをねらったり、流行を追ったりはしない。将来を予測しようともしない。それはまるで、5世代にわたって同蒸溜所を経営してきたグラント・ファミリーがはるか昔に最善の工程を考案して以来、ずっとその方法を守り続けているかのようだ。断固とした独立経営で、万が一の場合への備えにも抜かりがなく、同ファミリーのアプローチは時代遅れで無駄が多いとの業界オブザーバー、予言家、自称専門家たちによる意見にも耳を貸すことはない。

グレンファークラスには華やかさや派手さはない。蒸溜所も同様だ。クレイゲラヒからグレンファークラスに向かう途中、長く伸びた農場に沿って蒸溜所への行き方を記した標識がある。グレンファークラス蒸溜所は一見すると、特に蒸溜所らしいところは見当たらない。そして、車を停めた駐車場には時間を超越した感覚があった。すべてがゆったりと、飾り気もなく伝統的だ。

しかし、第一印象には裏切られることもある。ビジターセンターとかなり大きく広々としたオープンプランルームに立ち寄ると、この蒸溜所の規模が決して小さくないことが分かる。そして、カテゴリーとしては、道沿いのグレンリベット蒸溜所と同じタイプの蒸溜所ではなく、小規模生産の蒸溜所でもない。グレンファークラスの大型スティルは年300万リットルの年間生産力がある

案内をしてくれたジョージ・グラントによると、このところ売り上げが伸びているため、この規模のものが必要なのだという。世界的な不況も、グレンファークラスには問題ないようだ。

「ウイスキー業界は、この不景気からそれほど深刻な打撃は受けていないようです。グレンファークラスは全く影響ないですね」とジョージは言う。「2011年以降、英国の状況は相当厳しくなると思います。しかし、今のところ、私どもの製品の売れ行きが好調な新興市場はいくつかあります。それに米国とヨーロッパ全域で、スペインにおいても、景気回復の兆候がみえます」

「2010年の夏は天候が悪く、訪問者数は減りました。それでも全体の売り上げは非常に好調に伸びています」

 

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