嵐を乗り切れ【全2回・後半】

January 5, 2013

不景気の中でもぶれない経営方針で、成功を収めるグレンファークラス。その思想にドミニク・ロスクロウが迫る後半。
言うまでもなく、グレンファークラスはシェリー樽熟成のフルフレーバーのウイスキーで有名だ。そして、グラント・ファミリーが外部のアドバイスに一切耳をかさないという決断を正当化するものがあるとすれば、それは同社の財務体質の健全さだ。
その一方で同ファミリーは、英国内ではもはやニーズはないと一部で予測された自社のウイスキーのスタイルを少しずつ広めようとしている。エドリントンがマッカラン ファインオークを発売した際の反応は興味深い。エドリントンは、欧州ではビッグ、ダークそしてボールドな香りのウイスキーに対するニーズが減少し、代わりにライトなスピリッツへのニーズへの高まりがあり、そのニーズに対応するためとの認識を示した。

一方、ジョージ・グラントは、エドリントンによる論拠を公然と非難せず、なぜファインオークが発売されるにいたったのか、独自の解釈を示そうともしなかった。無作法だと感じたのだろう。ただ穏やかに、エドリントンの考えを否定しただけだった。

彼は言う。「現在の状況はとても奇妙な気がします。確かに、ライトなウイスキーを楽しむ人もいる。それはそれで良いことです。ただ、どっぷりとシェリー樽で熟成されたウイスキー対する根強い要望があることも確かなのです」

「グレンドロナックを見ると、かなりシェリーが強い。強すぎる場合もある。しかし、ウイスキーの飲み方は変わった。以前は自宅にボトルを1本キープしておいて、いつもそれをお決まりのスタイルで飲んでいた。でも今はいくつかのスタイルがあって、そこを行ったり来たりしているんだと思う。強くシェリー樽の影響があるウイスキーというのもそういうスタイルのひとつで、まだかなり需要がある」

グラントによると、ウイスキー愛飲家は常にクオリティの高いモルトに惹かれるという。このため、自らの信念を堅持していれば潜在的な顧客を開拓する必要はない。そこに、グレンファークラスが決してウッドフィニッシュを求めない理由がある。

「もし、別のスタイルの樽を使ってウイスキーをフィニッシュする必要があるなら、そのウイスキーは最初からうまくいってなかったんだと思います。ずっとそう思っています」

グレンファークラスは今のままであるべきで、他に必要なものはなにもないとも思っています。グレンモーレンジィに対してフェアな言い方をすれば、従来のものとはまったく違う斬新なことをしたのは確かだし、そのおかげで、ウイスキーを好む全く新しい世代が生まれました。しかし、いったん真似され始めると、実にひどい代物ができることもあるのです」

2007年、グラント・ファミリーはファミリーカスクシリーズをリリースした。1952年から1993年まで、連続した43年それぞれのシングルカスクによるコレクションだ。40年モノを発売したが、価格は大半の40年モノの3分の1に抑えた

ファミリーカスクシリーズは、驚くべき成功を収めています」とジョージは言う。「私は一般消費者にもっとウイスキーに注目し、もっと注意を払ってもらえるような何かをしたかったのですが、このシリーズがその役目を果たしてくれました。数多くのメディアに取り上げられ、反響も大きく大成功でした。我々にとっては素晴らしい成果だったというわけです」

40年モノについては、一般の方々にも買って、飲んでもらえるようなものにしたかったのです。これは、飲むためにデザインされていて、20年もコレクションして観賞するためのものではないのです。もちろん、キープしたければ、それはそれで良いでしょう。ただし、それは本来の目的とは違います」

「グレンファークラスは過去に、法外な値段のウイスキーを所有していたことがありますが、これはその類のものではありません。このモルトをラリックのボトルに詰めて、代理店が上乗せし、卸売業者がさらに上乗せする。そして、最後に小売業者がさらに上乗せすると、パッケージだけでも2千ポンドになります。私は、このような状況は避けたかった。また、これには高価なパッケージは付属しません。ですから結果的にはバーに最適なボトルだと思います。バーでは、パッケージは結局捨てることになりますからね」

「英国内だけでも、これを提供しているバーは20軒を越えると思います。それに、最近は、安いスピリッツをたくさん飲むより、本当に良いものをグラス1、2杯だけという飲み方に変わってきています」

バーに関する話題は、我々にとっては心強い兆候を教えてくれる。インターネットに熟練しコンピュータに詳しい20代そこそこの若者が、自分なりの方法でウイスキーを知り、シングルモルトを自慢として飲んでいるのだ。

「若者の間で関心が高まっているようです」とジョージは言う。

「この間、青年にグレンファークラスについて尋ねられました。彼は蒸溜所について、必要なことはすべて知っているように思えました」

「そこで、『素晴らしい。どうしてそんなにたくさん知っているんだい?』と訊いたのです。そうしたら彼は『僕の父はウォッカを飲むんです』と言いましたよ」

つまりそれは、父親がウイスキーを飲まない若い世代は、自分のやり方でウイスキーを知り、愛飲しているということなのだ。

しかし、ジョージにとって良いニュースばかりではない。彼は、旅行を少し減らそうとしている。だが、現状を考えると、それは仕方ないようだ。

「売上は非常に良い。だからこの蒸溜所が始まって以来の最良の年になると思う」と述べた。

といった事情で、ジョージは当分休息しない。しかし、グレンファークラス号は万事整然たるもので、将来も順風満帆だ。

 

←嵐を乗り切れ【全2回・前半】

カテゴリ: Archive, 蒸溜所