ウイスキー新勢力【1. フランス 前半/全2回】
5大ウイスキー以外にも、世界各地で続々ウイスキーづくりの波が起きている。その新勢力に注目して国ごとにレポートする新連載、第1回は美食大国・フランスを取り上げる。
ウイスキーの販売量では相当な年数にわたり優勢を誇ってきたフランスは、2012年にも2億2000万本を売り上げて相変わらず世界的にも上位を占めている。蒸溜所建設計画を進めずにはいられない数字だ。
フランスには現在、様々なスタイルのウイスキー蒸溜所が25ヵ所ある。
ごく少数の「ウイスキー専門」の蒸溜所を別にして、ウイスキー生産のほとんどは、フランスが誇るフルーツ・ブランデーを専門とする既存蒸溜所で行われている。 従って、そのような蒸溜所では既存のスチルが使われている。
多くの場合、フルーツ・ブランデーではホルスタイン型スチル(WMJ註:ドイツ製の単式蒸溜器、写真)を使用するので、その芳香がニューメイクの特徴として現れる。
また、マッシングや発酵の設備もめったになく、近くの醸造所からウォッシュを購入することが多い。
ほとんどのフレンチ・ウイスキーには、もうひとつ特徴がある…熟成だ。
かなりの数の蒸溜所がフレンチオーク、正確にはワインの古樽を用いることだ。一部ではフィニッシュに、大半は全熟成期間に使用している。
またいくつかの蒸溜所は地元産オークや、コニャックの樽に使われるリムーザンかトロンセのオークで、新しい樽を特別に作らせている。樽はコニャック地域にあるクーパレッジから購入する。
しかし、ある蒸溜所がニューメイクの熟成に選んだのは…なんと、栗の木! そのウイスキーは、問題が熟成にあったのか蒸溜にあったのか(あるいは両方)定かではないが、これまで私が味わったことのない味だった。試したのは数年前だが、まだ覚えているほどだ。ありがたいことに、フレンチ・ウイスキーにはいいものもかなり沢山ある…いや、いいものの方が断然多いと言わせてもらおう。
フランスでのウイスキーづくりがブルターニュ地方 で始まったということは、偶然ではない。
サー・ブルース・ロックハートが書いたように、「モルトウイスキーの歴史はケルト文化の朝靄の中に隠れている」のだから。ブルターニュ地方はケルト系ブルトン人(4〜6世紀にブリテン島から移住してきたブリトン人が祖先)の文化が強く残っている地域なのである。
現在、ブルターニュ地方には大手蒸溜所が3つあり、最初に設立されたのが コート・ダルモール県ラニオン近くのヴァレンギエム蒸溜所だ。1900年の設立で、アップル・ブランデーなどの様々なリキュールとスピリッツ、そしてビールを生産している。
所有者のジル・レイゾール氏(写真右)は1987年にウイスキーへの冒険に乗り出すことを決意した。 そして黒白のラベルを付けたブレンド、「WB」を発売。ブルターニュ地方の旗の色と「ブルターニュ・ウイスキー」の頭文字を採用した。それから間もなく、シングルモルトの「アルモリック」が続いた。
それから30年、今では46%ノンチルフィルタード「アルモリック」の興味深い製品ライン − 全てポットスチルによる2回蒸溜で、海外市場向けカスクストレングスと特別なフィニッシュ(シェリー、ブルターニュ・オーク)をリリースしている。 これらは最近、国際農業見本市のコンクール(Concours general of the Salon de l’Agriculture)で金賞を受賞した。
WWA2012においても、「アルモリック ダブル・マチュレーション」が「ベスト・シングルモルト/ニューワールド」部門の「12年以下」カテゴリーで受賞している。 2014年には、生産量が純アルコール換算7万リットルから10万リットルに増加する予定だ。
さらにヴァレンギエム蒸溜所から車で30分ほど走ると、1997年にジャン・ドネイ氏が「ケルトらしさ」の精神を凝縮して設立したグラン・アー・モー蒸溜所がある。
独立系ボトリング会社の ケルティック・ウイスキー社を創設したジャンと妻のマルティーヌには、直火焚きポットスチルで伝統的なシングルモルトをつくりたいという夢があった。ジャンはウイスキーづくりのために生まれてきたような人で、その優れた技術が絶えざる情熱を支えていた。
グラン・アー・モーは確かにスコッチシングルモルトに近いシングルモルトだ。所内で行っていない工程はモルティングだけ。しかし大麦は蒸溜所と海岸の間にある畑で栽培されたものを使用している。海岸と灯台の美しい光景が広がる最高の条件下で、塩辛い潮風の影響を受けて熟成するのだ。
ウイスキーの銘柄「グラン・アー・モー(ブルトン語で「海岸」)」はアンピーテッドモルト、「コルノグ(同「偏西風/西」)」はピーテッド(35〜40 ppm)だ。どちらも蒸溜所内で46%でボトリングされ、カスクストレングスの限定版もある。
ジャンはウイスキー・マガジンのレスト・オブ・ザ・ワールド部門ディスティラリー・マネージャー・オブ・ジ・イヤーを 受賞したばかりだが、前進を続ける実業家として、アイラ島のボウモアに近いガートブレックに、グラン・アー・モーをモデルにした蒸溜所を建設するという計画に挑戦している。新しくもあり原点回帰でもあり、今後が非常に楽しみだ。
【後半に続く】