代替穀物がウイスキーを変える【後半/全2回】

July 15, 2016


同時多発的なイノベーションが進行するアメリカのウイスキー業界。原料のバリエーションを増やすことで、新しいレシピが無限の可能性を垣間見せてくれる。大規模メーカーを巻き込んだ開発レースから目が離せない。

文:ライザ・ワイスタック

 

今まで見過ごされていた穀物や、擬似穀物といわれる原料までに注目する蒸溜所がある一方で、まったく別の着眼点からイノベーションを画策する蒸溜所もある。彼らが目をつけているのは、ビールの原料として広く使われている穀物だ。クラフトビールのブームを先導してきたシアトルで、ウエストランド蒸溜所を設立したマット・ホフマン氏はそのひとり。同蒸溜所では、スコットランド産の大麦とピートを原料にしたウイスキーもつくっている。

「ウイスキーの蒸溜に関するどんな文書を調べても、ビールづくりで使用されるモルトに関する記載はありませんでした。チョコレートや、皮革や、タバコのような素晴らしいフレーバーを持ったモルトがあるのなら、それでウイスキーをつくったらどうなるのだろうかと考えない訳にはいきません」

そんなアイデアを、ホフマン氏はウエストランド蒸溜所の主力シングルモルトに結実させた。ペールモルト70%、エクストラスペシャルモルト12%(非公開の斬新な製麦工程を施したもの)、ペールチョコレートモルト4%、ブラウンモルト4%、残りをミュンヘンで製麦したワシントン州産の大麦で構成したウイスキーである。

さらにホフマン氏が熱を上げているのは、ペールモルトからつくるウイスキーだ。このペールモルトは、ビールメーカーが好むローストを採用したモルトである。ウイスキー用のローストでつくられるモルトよりも、よりやわらかなニュアンスを得られるのが特徴だ。

「スコットランドでは、1種類の大麦だけでウイスキーをつくります。これは例えていうなら、メルローしか使用しないワインメーカーみたいな話ですよね。何種類もの大麦原料でつくるウイスキーは、私たちが開拓すべき広大な未踏地。大麦に関していえば、私たちはスコットランドよりも速く進化しています。700年の歴史がない代わりに、自分たちが考えるベストの選択肢を追求するだけです」

真に大胆で独創的なメーカーには、デザイナーグレーンという選択もある。これはタットヒルタウン・スピリッツのラルフ・エレンゾ氏が切り開いた分野だ。蒸溜所新設ブームが到来する3年ほど前にニューヨーク初の蒸溜所として開業した同社は、現在ウィリアム・グラント&サンズ傘下で「ハドソンウイスキー」のシリーズを生産している。これと平行して、彼らはたくさんの実験的なウイスキーづくりも試みてきた。そのひとつがライ麦と小麦を掛けあわせたライ小麦を原料とするウイスキーである。エレンゾ氏が語るところによると、これは市場の要請に応えた長年の経験のたまものであるという。

「開かれた市場のなかで、新参メーカーは実験的な製品を生産する余裕がありません。このような実験には時間がかかりますが、同時に市場は何か目新しいものに飢えています。私たちがコーン100%でつくったベビーバーボンはその好例でした。本当に目新しくて品質も優れていましたが、いま同じことをやっても良い結果が出るかはわかりません。今では750社以上のスタートアップ企業が、何か新しいものをつくろうと凌ぎを削っているのですから」

新しい原料や熟成方法の実験レースには、バッファロートレースのようなビッグブランドも参戦してる。


 

ビッグブランドも動き出した

 

このようなスタートアップ企業が革新的なウイスキーづくりへの期待を煽った結果、バーボンの有名ブランドも伝統から大きく逸脱した製品をつくるようになってきた。例えば「ホワイトウイスキー」は、もともと熟成期間中に売るものがない新参のメーカーが苦肉の策で販売した製品。これが注目を浴びたのを契機に、今ではジムビームが未熟成の「ジェイコブズゴースト」を、バッファロートレースが「ホワイトドッグ」シリーズを、メーカーズマークが「メーカーズホワイト」を、ヘブンヒルが未熟成の「トライボックス」シリーズを発売している。前述のダレク・ベル氏も、このような大規模メーカーの動向に驚いているという。

「小規模なメーカーがさまざまな実験を急ピッチで進めてブームが起こりました。その結果、大規模メーカーも予期せずして実験的な製品を生産せざるをえなくなったのです。巨大工場のMGPでイノベーションを主導しているマネージャーが、珍しい穀物の構成でマッシュビルをつくっている実情を教えてくれましたよ。聞いたときには驚きましたが、考えてみると恐ろしいことだと思いました」

だがこの潮流は、これから起こるさらに大きな変化の始まりに過ぎないだろう。バッファロートレースのマスターディスティラー、ハーレン・ウィートリー氏は語る。

「私たちにも穀物原料を変えるアイデアはたくさんあり、その多くはまだ実験の初期段階です。いくつかの成果は、うまくいけば近いうちにお披露目できるでしょう。最初におこなったいくつかの実験は、米とオート麦によるもの。どちらも皆さんに喜んでいただけるニュアンスが表現できた実例になっていますよ」

 

 

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