クラフトウイスキーのメーカーが急増している米国。アメリカンウイスキーの原料はコーンとライ麦が有名だが、注目を集めつつあるのがモルトウイスキーだ。マギー・キンバールによる2回のレポート。

文・写真:マギー・キンバール

 

禁酒法や各種規制が施行される以前の米国では、収穫されたどんな穀物からどんな種別のウイスキーをつくってもOKだった。ケンタッキー州ではコーンがよく育つので、この地方特有のスタイルでつくられたウイスキーは「バーボン」として有名になった。米国の北東部ではライ麦がよく育つので、この地域はライウイスキーの生産地として知られるようになった。

だからといって、これらの地域で他のスタイルのウイスキーをつくる人が皆無だった訳ではない。そんな少数派のスタイルには、モルトウイスキーも含まれる。モルトウイスキーといえば伝統的にスコットランドが本場だが、穀物をモルティングしてウイスキーの原料に使用する手法は、アメリカで蒸溜酒の生産が始まった時代からおこなわれてきた。

ウッドフォードリザーブは、スコットランド製のポットスチルで3回蒸溜が基本。もともとモルトウイスキーの生産に向いた設備だ。

そして今、主にクラフト蒸溜所を中心とした多くの蒸溜所が、再びモルト原料のウイスキーを生産し始めている。アメリカンウイスキーの愛好者に、目新しいものを提案したいという思いがモルトへの回帰を呼び起こしているのだ。

数年前にヘブンヒルが「パーカーズ・ヘリテージ・ストレート・モルト」を発売したのも記憶に新しい。だがほとんどの蒸溜所は、モルトに加えて複数の穀物を使用したウイスキーではなく、シングルモルトウイスキーをつくりたいと考えているようだ。

バーボンやライウイスキーと同様に、米国のストレートモルトウイスキーは原料の51%以上に大麦モルトを使用したウイスキーのことを指す。つまり残りの49%は他の穀物原料でもいい。ウッドフォードリザーブは、この忘れられたカテゴリーを活性化すべく、最近「ウッドフォードリザーブ ケンタッキーストレートモルトウイスキー」をリリースした。マッシュビルは大麦モルト51%、コーン47%、ライ2%という構成である。マスターディスティラーのクリス・モリスが説明する。

「ウッドフォードリザーブ ケンタッキーストレートモルトウイスキーは、アメリカンモルトウイスキーの世界に新しい切り口をもたらす存在です。3種類の穀物を原料にしたレシピはケンタッキー州でもクラシックなスタイル。モルト中心の構成にコーンとライも含まれており、チャーを施した新樽で5年以上熟成することによって、歴史上例を見ない複雑な風味でモルトウイスキーの潜在力を引き出しました。禁酒法以前のケンタッキーモルトウイスキーから受け継いだ過去のノウハウに現代的な解釈を加え、幅広い層の嗜好を間違いなく楽しませてくれるフレーバー構成になっています」

 

アメリカンモルトウイスキーを定義する動き

 

現在、アメリカンシングルモルトを明確に定義する規制はないが、アメリカンモルトウイスキーコミッションという団体が状況を変えようと画策しているようだ。サムソン&サリーで蒸溜部門の副長を務めるリサ・ウィッカーが語る。

「アメリカンモルトウイスキーコミッションが、この国のモルトウイスキーの定義を明確化してくれたらいいと思っています。生産者の一人としては、バーボンのような基本原則を持ちながら、基準内でのさまざまな実験も容認するような規制が望ましい。クラフトディスティラーにとって、この実験の余地を残すことがとても重要です」

1987年に廃止されたボトルド・イン・ボンド法を、リサ・ウィッカーは誤った規制であると考えているようだ。

「ボトルド・イン・ボンド法は、規制に消費者やマーケティングにとって定義を狭めすぎた例。あのような形には反対です。大麦モルトが原料であるのは当然として、クラフトの世界では『大麦の産地は?』『生産者は?』『モルティングの場所は?』『二条麦と六条麦のどちら?』などといった質問が飛んできます。糖化から蒸溜まで単一の蒸溜所でつくられることを基本として、700リットル以下のオーク樽という実質2項目の規制に留めることで、クリエイティブで独創的なフィニッシュが生まれてくる余地を残せる案を評価しています」

ウッドフォードリザーブが発売した「ケンタッキーストレートモルトウイスキー」。大麦モルト51%、コーン47%、ライ2%というマッシュビルで「モルトウイスキー」が名乗れるのは米国らしい定義である。

1900年代の初頭以来、ケンタッキーで初めて生産されたシングルモルトウイスキーが「ピアースライオンズリザーブ」だった。その後、多くのクラフト蒸溜所が独自のシングルモルト商品を発売している。イリノイ州のFEWスピリッツ、バージニア州のコッパーフォックス蒸溜所、テキサス州のバルコネス蒸溜所、オレゴン州のローグスピリッツなど、アメリカンシングルモルトウイスキーは全米のいたる場所でつくられるようになった。そんな一人であるキングスカウンティ蒸溜所創設者兼マスターディスティラーのコリン・スポールマンが語る。

「シングルモルトに興味を持ったのは、何よりもまず国際的に認知されたウイスキーのスタイルだから。アイリッシュウイスキーもスタイルとしては近く、ジャパニーズウイスキーに至ってはほとんど同一です。それにヨーロッパやオーストラリアなどで、新興のメーカーが生まれてシングルモルトをつくっています」

そのような状況を知りながら、挑戦を突きつけられているような感じがしていたのだとコリン・スポールマンは語る。

「この極めてクラシックなスタイルで、自分たちができることを試してみたい。モルト100%の原酒を古樽で熟成した新参のウイスキーが世界中でつくられていますが、ひょっとしたら自分たちがもっと良いものをつくれるのではないかという思いもありました。モルト原料のサプライヤーを通して、スコットランドで育ててモルティングしたピーテッドモルトも入手できました。まだ熟成年数が浅いうちは、どうしても若い原酒の特徴からピート香が突き抜けてくるような印象があります。それでも熟成が進んだウイスキー原酒が手に入るに従って、徐々に複雑なフレーバーが加わるようになり、アメリカンウイスキーならではのユニークな特性が表現できるようになるかもしれません」
(つづく)