新進蒸溜所の設計を見れば、ウイスキーの未来がわかる。オーガニック・ディスティラリーズ社の蒸溜所建築は、長期的な地域コミュニティの維持を目的としている。

文・ガヴィン・スミス

 

先進的な蒸溜所建築で注目されるスコットランドのオーガニック・ディスティラリーズ社は、英国をはじめ世界中のスピリッツメーカーに優れた建築設計とコンサルティング業務を提供している。創業者のガレス・ロバーツが目指すのは、エコの視点を基本にしながら地域コミュニティーの持続を支援する蒸溜所ビジネスの構築だ。

最初のプロジェクトであるアードナマーチャン蒸溜所を手がけて以来、同社はさまざまな蒸溜所の新規建築やリニューアルを手がけてきた。スコットランドでは、ドリムニン蒸溜所とリンドーズアビー蒸溜所が有名である。

ドリムニン蒸溜所は、アードナマーチャン蒸溜所よりもさらに辺鄙な場所にある。本土からではなく、マル島からアクセスしたほうが早いくらいだ。蒸溜所はかつて農場で使われていた建物を再利用したもので、これはファイフにあるリンドーズアビー蒸溜所も同様であるとガレス・ロバーツが語る。

「ドリムニン蒸溜所の動力も、アードナマーチャン蒸溜所と同じバイオマス燃料のボイラーです。ここもまた交通が不便な場所なので、灯油に頼るとコストがかさんできます。そしてまた、蒸溜所周辺の地域には木も多いのです」

夜のリンドーズアビー蒸溜所。窓際に設置したスチルが美しく見える。(メイン写真はコーンウォール公チャールズ王太子の領土に建設中されるプリンスタウン蒸溜所の予想図)

このような蒸溜所の建築を考える時、ロバーツが大切にしているのはテロワールだという。

「テロワールは最大の関心事のひとつです。ウイスキーが熟成される環境は、ウイスキーづくりにおいて極めて重要なこと。マイクロディスティラリーの人々は、私以上にテロワールについて考えているはずです。アードナマーチャン蒸溜所とドリムニン蒸溜所では、新設した貯蔵庫のスタイルに伝統的なダンネージ式を採用しました。リンドーズアビー蒸溜所でも、古い牛小屋をダンネージ式貯蔵庫に改装しています。温度の変化を最小限に留めるには、分厚くて重量のある壁が必要。でもやはりウイスキーが生産地特有の環境から品質に影響を受けるダンネージ式が好きなのです」

オーガニック・ディスティラリーズ社が手がけた最近の設計プロジェクトに、ダートムーアのプリンスタウン蒸溜所がある。蒸溜所の敷地は、コーンウォール公チャールズ王太子の領土なのだとロバーツが説明する。

「中庭を囲むいくつかの建物で構成された蒸溜所です。生産に関する機能は背後にまとめているので、正面からはすっきり整頓された外観ですよ。蒸溜棟から2階建ての貯蔵庫までは移動も簡単。建設は2018年初頭に始まっており、数年内に稼働できるでしょう。建設の各段階では、チャールズ王太子から承認をもらわなければなりません。王太子は芸術に造詣が深い方なので、最初の設計案を水彩画で提出しました。どうやらそれがうまくいって採用されたんです」

蒸溜所の建設は、落成して終わりという訳でもない。なぜならウイスキー業界を取り巻く状況が刻々と変化しているからだ。

「ビジネスパートナーの多くは、将来に設備を拡張できるスペースを確保したがっています。それは需要が増大したとき、ウォッシュバックやスチルを増設するための余分な空間が必要になるから。中庭付きの設計が多いのは、設備へのアクセスが便利な上に、簡単に拡張もできる構造だからです」

 

持続可能なトレンドでコミュニティの世紀を生き抜く

 

約10年前に創立されたオーガニック・ディスティラリーズ社は、ウイスキー業界の動きと一体化しながら成長してきた。スコットランド北部から、西部の島嶼地域、イングランド南部まで、英国一帯で起きている新しい流れをガレス・ロバーツはよく理解している。

「私たちの設計や管理思想は、クラフト蒸溜所のニューウェイブと深い関連があります。ビジネスは多角化し、生産するお酒のタイプも豊富になり、ボトリング施設や貯蔵庫などの建築設計にも新しい発想が求められるようになりました」

ウイスキーづくりに参入するベンチャー企業の新しいトレンドは環境への配慮だ。そのひとつが、化石燃料に代わる低炭素燃料の使用である。これはアードナマーチャン蒸溜所とドリムニン蒸溜所の例でも説明した通りだ。

「ウイスキーづくりに参入する新しい事業者は、蒸溜所の運営が長期間にわたる投資であることを理解しています。そのため化石燃料を大量に使用する事業が課税対象となって、設備が時代遅れになる将来のリスクも見込んでいるのです。さらに先見の明がある事業者たちは、環境にやさしい事業に徹することで企業の社会的責任を果たし、消費者の要望にも応えることができると知っています」

オーガニック・ディスティラリーズ社のガレス・ロバーツ。環境負荷が低く、地域コミュニティに貢献できるウイスキー蒸溜所のあり方を提案している。

さらにロバーツが意識しているもうひとつのトレンドは、地域コミュニティが深く関与する蒸溜所運営のあり方だ。

「地方の地権者の多くが、再生可能エネルギーによる事業から大きな収入を得ています。彼らはブラウンスピリッツの蒸溜所に大きな期待を寄せていますが、その理由はいくつかあります。まずスピリッツづくりが地図に載る事業であること。既存の有名な蒸溜所とのつながりを生まれると、ウイスキートレイルのようなビジターの通り道になります。また蒸溜所運営は、時に百年単位の長期的な利益を生み出す投資にもなりえます。地域コミュニティのビジネスが、自動化をあえて回避して、古風な昔ながらのスタイルで受け継がれることを好むのもポイントです。それは地域コミュニティを支える事業の目的が、まず持って雇用の創出であるからでしょう」

新しくウイスキーづくりに参入したベンチャー企業の多くは、地域コミュニティとのつながりを重視している。地方ではキャリアアップのために地元を離れてからUターンする者もいれば、生まれ育った故郷への愛着からずっと蒸溜所の仕事に携わりたいと考える者もいる。蒸溜所は比較的安定した職場となり、観光業などに好影響を波及させてより広いコミュニティに貢献することもできる。また蒸溜所ができることで、ある一定の季節に偏っていた観光客の数を分散することにもつながる。

ガレス・ロバーツは最後にこう語った。

「ウイスキー蒸溜所のビジネスは、社会にとてもポジティブな影響を生み出しています。遠く離れた地方では、ウイスキーづくりと同レベルの恩恵をもたらせるビジネスは他にほとんど見当たりませんから」