大規模な増産計画も完了間近。今年は蒸溜所長の交代も予定されているアードベッグが、意欲的な新商品を次々と発売している。蒸溜所訪問シリーズの2回目。

文:ガヴィン・スミス

 

アイラモルトの中でも、ひときわ力強いピート香と華やかな風味で熱狂的なファンを獲得しているアードベッグ。2020年に発売した「ウィー・ビースティー」の熟成に使用しているのは、バーボン樽とオロロソシェリー樽だ。アードベッグのウイスキーづくりを統括するビル・ラムズデン博士は次のように語っている。

「この舌をくすぐるような味わいは、間違いなくアードベッグマニアの皆さんに喜んでいただけるはず。ストレートで楽しんだり、唾液を誘うような強いスモーク香のカクテルにしたり、そんな味わいかたを想定しながら樽の構成を考えました」

アードベッグ蒸溜所長のミッキー・ヘッズも、この新商品の発売に大きな期待を込めている。

「コアレンジのなかに新しい通年商品を導入するプロジェクトは、蒸溜所にとっていつも一大事です。そのなかでも、この『ウィー・ビースティー』は特別なウイスキーでした。熟成年数が若いウイスキー(5年)であるということは、それだけポットスチルに近いウイスキーであるということ。つまりスピリッツの特性をかつてないほどに表現できる商品なのです。ちょっと一口飲んだだけで、獰猛なまでの魅力が満喫できますよ」

アードベッグが史上初めてのビールをリリースしたのは、今年の8月だった。限定発売の「ザ・ショーティー・スモーキー・ポーター」は、アードベッグのマスコットであるジャック・ラッセルにちなんだ商品名。ウィリアムズ・ブラザーズ・ブリューイング・カンパニーおよびブリューグッダーとの提携で生産し、利益はすべてマラウイの人々に清浄な水を届ける慈善事業へ寄付される。アードベッグ蒸溜所長のミッキー・ヘッズは次のように説明する。

「大きな社会的意義はもちろんのこと、蒸溜所として初めてのビール『ザ・ショーティー・スモーキー・ポーター』のプロジェクトはワクワクする体験でした。アードベッグがビールづくり?と意外に思われるかもしれませんが、生粋のウイスキーマニアの皆さんなら、ビールとウイスキーが同じ大麦モルトのDNAを共有していることをご存じだと思います」
 

蒸溜所長の交代

 
ミッキー・ヘッズは、2007年からアードベッグの蒸溜所長を務めている。生まれも育ちもアイラ島で、1979年のラフロイグ入社以来、ジュラ蒸溜所の蒸溜所長を経てずっとウイスキー業界一筋に働いてきた。だがこの秋には、アードベッグ蒸溜所の生産部門長から退く予定だという。

アイラモルトの中でも、特に明確なピート香が華やかな酒質に溶け合うアードベッグ。世界中に新しいファンを拡大中だ。

「アードベッグで13年間もスピリッツの生産を統括できたのは本当に光栄なことです。 ここでつくっているウイスキーの品質は素晴らしく、チームの一員として働くのは無上の喜びでした。アードベッグには長い歴史があるので、自分はその伝統を守って次の世代に伝えていく役割を負っているのだと心に言い聞かせてきました。常に最善を尽くし、ありったけの情熱を注ぎ込むに値する仕事です」

アードベッグのオーナーであるグレンモーレンジィ・カンパニーCEOのトーマス・モラドプールは、この実直な蒸溜所長について次のように語っている。

「ミッキー・ヘッズは、シングルモルトウイスキーの世界で大きな尊敬を集めてきました。彼が一線を退くことで、世界中のアードベッグファンの皆さんも寂しさを感じていらっしゃることでしょう。ミッキーのように知識が豊富で、底知れぬ情熱があり、ホスピタリティ精神にあふれた蒸溜所長はそんなにいません。後任者はかなりのプレッシャーを感じてしまうでしょうね」

その後任者となるのは、お隣のラガヴーリン蒸溜所長を務めてきたコリン・ゴードンだ。ラガヴーリンの前は、ポートエレン・モルティングズで生産部長を務めていた。新しい役割を前に、次のようなコメントを述べている。

「アードベッグは、ウイスキーの世界でも特に有名な銘柄であり、品質にも極めて高い定評があります。経験豊富なチームの一員として、あの素晴らしいウイスキーがつくれることを心から喜んでいます。これまでアードベッグは、ミッキー・ヘッズのリーダーシップのもとで卓越したウイスキーづくりの名声を築いてきました。彼の任務を引き継ぐのは、並大抵の仕事ではありません。このような重責を預かる人物として、選んでいただいたことを光栄に思います」
(つづく)