復興中のローズバンク蒸溜所が「ローズバンク30年」(チャプター1)を世界一斉発売

October 21, 2020


復興計画が進むローズバンク蒸溜所から、限定商品「ローズバンク30年 チャプター1」が発売された。どこよりも早いテイスティングレビューと購入方法をウイスキーマガジンがお知らせ。

文:ステファン・ヴァン・エイケン

 

今はなき蒸溜所のウイスキーを現代に蘇らせる。そんなムーブメントがスコットランド中で起きているようだ。例えば、アイラ島のポートエレン。ハイランドのブローラ。そしてローランドならローズバンクだ。これらの蒸溜所が生産するウイスキーの品質は、すでに議論の余地がないほど素晴らしい。

だがウイスキーの復活は、蒸溜所そのものの再建とは違う。建物を造って設備を整えることはできるが、フレーバーの特性は完全に復元できるものなのだろうか。そんなことを考えていたら、ちょうど話題の新商品が発売された。「チャプター1(第1章)」と第されたローズバンク30年。「ローランドモルトのキング」と呼ばれた銘酒の復活に注目してみよう。

ローズバンク蒸溜所の歴史は、1840年にまで遡る。地元のワイン商だったジェームズ・ランキンが、フォース・クライド運河のそばにあったキャメロン蒸溜所のモルティング施設を買収したのが始まりである。1790年に開通したこの運河は、スコットランドの西岸と東岸をつないでいる。2大都市であるエディンバラとグラスゴーを行き交う水路も、この運河で結ばれているのだ。このような場所を選ぶのは、ビジネスの理にかなっている。蒸溜所名は、フォルカークの西に広がる原っぱの名前からとった。おそらく運河の堤(バンク)に、野生のバラがたくさん咲いていたので「ローズバンク」と呼ばれるようになったのだろう。

ローズバンク蒸溜所は、20世紀に大きな名声を誇った。ブレンダーたちがローズバンクのウイスキーをこぞって欲しがったのは、ブレンダー用語でいう「トップドレッシング」つまり華やかなトップノートを加えることができるからだ。だがウイスキー不況の1990年代に、ユナイテッド・ディスティラーズ(現ディアジオ)が蒸溜所の閉鎖を決断した。品質が不十分だったからではない。排水処理設備を改修するコストがかかりすぎ、陸路でのアクセスにも難があることから、やむなく下した経営上の判断である。この時点で、ローズバンクもまた歴史上の蒸溜所に仲間入りしたはずだった。

蒸溜所の建物は1993年から放棄され、2002年にブリティッシュ・ウォーターウェイズ(運河や河川の運行を管理する国営企業)に売却された。建物は荒廃し、2008年のクリスマスから翌年の正月にかけて、オリジナルのポットスチルやマッシュタンが窃盗団によって盗み出された。再興の望みは、これで完全に潰えたように思えた。

だが詩人アレキサンダー・ポープの「希望は人間の胸に永遠に湧きでる」という言葉通り、2017年10月にイアン・マクロード・ディスティラーズがローズバンク蒸溜所の復活に乗り出した。蒸溜所の建物を買い取り、別途でローズバンクのブランド使用権も取得。だが彼らが考えている「復活」は、単なるマーケティングの流行り言葉ではなかった。それはローズバンクが生産していたスピリッツを、そっくりそのままつくり直そうという挑戦だったのである。

そんな事業の中心にいたのが、イアン・マクロード・ディスティラーズの蒸溜総括部長を務めるロビー・ヒューズである。かつてローズバンクで働いた人たちは、もう近所にいない。レシピもなければ、生産工程の詳細な記録もない。ローズバンクの復活が困難であることはロビーにもわかっていた。

「難問だとは承知していましたが、なんとか成し遂げたかったんです。旧オーナーにかけあって、ニューメイクスピリッツがないか探し回りました。でもスピリッツは見つからず。具体的なレシピの記録もないので、白紙の本を読みながら計画を立てるようなものです。それでもローズバンクの名声を頼りに、希望を持ってプロジェクトをスタートしました」

 

復興の合間に90年代のヴィンテージ商品をリリース

 

軽やかなのに風味が豊かなローズバンクを復活させる鍵は、ローランド流の3回蒸溜と蛇管式コンデンサーにあった。それが廃業前のローズバンクで実際におこなわれていたウイスキーづくりなのだとロビーが説明する。

「3回蒸溜から軽やかな特性のスピリッツが得られます。その一方で、蛇管式コンデンサーは重厚な特性を授けてくれる設備。この両者は、ともすれば矛盾しているような真逆の方針です。なぜこんなことをしていたのだろうと訝しがる人もいるでしょう。でもそこが本当にユニークな点なので、しっかり踏襲しようと決めました」

もともとあったポットスチルと蛇管式コンデンサーは、盗難にあったので新調しなければならない。だがかつての機器でまだ使えるものもひとつだけあった。それがポーテウス&ボビー社製の通称「ボビーミル」だ。これは1930年に閉鎖されたポートエレン蒸溜所の中古を譲り受けたもので、製造年は謎のままである。だが1936年からローズバンク蒸溜所でしっかりと稼働し続けていたのは間違いない。このミルが、復活した蒸溜所でも活躍することになる。それにしても、何と頑丈な機械なのだろう。

他のウイスキーでは、決して体験できない味わい。ロビー・ヒューズ(イアン・マクロード・ディスティラーズ)の言葉に誇張はなかった。「ローズバンク30年」は公式ウェブサイトで販売する(数量限定)。

イアン・マクロード・ディスティラーズが復活させようとしてるのはウイスキーだけに留まらない。ロースバンク蒸溜所は、長期にわたって地元経済の重要な担い手でもあった。そのような地位を再び確立するのも目標のひとつである。蒸溜所が稼働し始めたら、最低でもフルタイムで25人の雇用が必要になる。そしてフォルカークには年間で約50,000人の観光客が見込めると試算されている。建築計画が2019年1月に認可され、同年の11月に建設が始まった。エネルギー効率の良い蒸溜所にするため、最新式の設備も導入することになっている。運河沿いには真新しいビジターセンター、テイスティングルーム、ショップ、貯蔵庫も建設される。

ウイスキーブランド復活の手始めとして、イアン・マクロード・ディスティラーズは1993年以前のローズバンクを販売している。2020年2月には、1993年に蒸溜されたシングルカスク2種類のウイスキーをリリース。同3月にはトラベリテール(免税店)限定で「ローズバンク 1990 ヴィンテージ」を発売した。

そして2020年10月21日には、「ローズバンク30年 “チャプター1”」が発売された。ノンチルフィルターで、度数は48.6%。1990年のヴィンテージから原酒を選んでヴァッティングしたものであるとロビーは説明する。

「ローズバンク30年は、全世界に向けた最初の商品。これは蒸溜所にとっても、真に象徴的なボトルになります。シェリーバットの熟成原酒が62%、バーボンホグスヘッドの熟成原酒が38%。ともにリフィル樽で熟成した原酒をヴァッティングしています。何十年も熟成されたフレーバーには驚くべき複雑な階層があり、他のウイスキーでは決して体験できない味わいがお楽しみいただけます」

幸運なことに、この「ローズバンク30年」をさっそくテイスティングすることができた。ロビーの言葉に誇張はない。香りはこの上なくエレガントで、白いモモ、パイナップルタルト、八角、さらにフローラルな感触と生キャラメルのような印象もある。口当たりはやわらかさの中にしっかりとした核があり、洋ナシ味のハイチュウ、リンゴのソルベ、アガべシロップ、繊細なオーク由来のスパイスも味わえる。余韻はソフトで長い。砂糖漬けのショウガやオレンジの皮を思わせる後味が残る。

このウイスキーは、ローズバンク蒸溜所の公式ウェブサイトで直接販売する。全部で4,350本の限定商品だ。歴史的な背景のあるウイスキーなので、もちろんバーゲン価格は望めない。値段は1,600英ポンド(発売当日の為替レートで約22万円)。「チャプター1」(第1章)というからには、物語の続きもある。第2章は2021年に発売予定だという。それまでの間は、ローズバンク復活の成り行きに注目しよう。
 

カテゴリ: Archive, features, TOP, 最新記事, 蒸溜所