樽造りの美学・3 【世界最大の製樽業者 前半/全2回】

January 4, 2014

世界の樽職人に学ぶ樽造りシリーズ第三弾。前回までの個人経営のクーパレッジから一転して、世界最大規模の樽工場をレポートする。

2.世界最大の製樽業者

インディペンデント・ステイヴ・カンパニー(以下ISC)に到着した途端、私の鼻は慣れ親しんだ香りを嗅ぎつけた。バニラ、焙ったマシュマロ、そしてカラメルの芳香が辺りに漂い、ケンタッキーを思い出させる―出来たてのスピリッツが新たにチャーしたオーク樽に詰められ、数年の間にその樽から赤みがかった黄金色と風味を得る、バーボンの故郷を。このクーパレッジは天国のような香りがする。

だが、ここはケンタッキーではない。私はおそらく世界で最も重要なウイスキーの町のひとつ、ミズーリ州レバノンの真ん中に立っている。ISCはウイスキーをつくっていないし、販売もしていない。「私たちは樽を造っているだけです」とISCの社長でボズウェル家4代目のブラッド・ボズウェルは言う。

1912年創立の家族会社ISCは、フォアローゼズヘブンヒルジムビームバッファロートレースそれに他のバーボンブランドほぼすべてのためにウイスキー樽を造っている − ひとつを除いて。ブラウンフォーマン社は独自のクーパレッジを持っているから、ISCはオールドフォレスター、ウッドフォード・リザーブ、ジャックダニエルの樽は造っていない。

世界中に6ヵ所の樽板工場と5ヵ所のクーパレッジを持ち、1,000人の従業員を抱えるISCは、見事なほど効率的だ。世界中のワイン、バーボン、ラム、テキーラ、 その他のアルコール飲料をつくる顧客のために木材を切り、曲げ、トーストあるいはチャーする。そのための機械に関して、何十もの特許を所有・申請している。ISCは世界最大のウイスキークーパレッジであり、またおそらくは最も重要なワインクーパレッジで、あらゆる種類のオークを使用し様々なサイズの樽を毎年何百個も生産している。そのすべての起点が、ミズーリ州レバノンの、材木置き場と工業複合設備が合体したようなこの施設だ。
かつてはアメリカ中西部、フランス中部またはボージュの森のホワイトオークだった切りたての樽板が外に積み上げられている。トーストやチャーの前に「望ましくない風味」を乾燥によって取り除くためだ。
2年間空気乾燥すると、樽板の中にはカビが生えて黒くなるものもある。「それはワイン樽に使います」とボズウェルは言う。「 ワインはアルコール分が低いので、ウイスキーの場合より少し余計に樽板を分解しなければなりません」
バーボンメーカーの中には樽板の季枯らし(空気乾燥)を9カ月に指定するところもあれば、1年とするところもある。「もう誰も安い樽は欲しがりません。誰もが最高品質を望みます」と彼は言う。時間をかけることでコストが上がったとしても、それ以上に品質を重視するメーカーが増えた、という訳だ。

ボズウェルとその樽職人チームは、バッファロートレースのシングルオークプロジェクトをはじめ、特別な樽を使用した数々の商品開発において、陰の立役者である。
ISCはハンガリー、フランス、ルーマニア産のオーク樽を含め、公になることのなかった実験でも役立っている。チャーしたルーマニア産オークにバーボンを入れるのは合法なのだろうかとお考えなら、そう、合法だ。連邦規則は「チャーした新しいオーク樽にバーボンを保存せよ」と述べているだけで、種類は規定していない。
しかし、こういった独特の木を使ってみることで、なぜアメリカ産ホワイトオークが好まれるのかという理由に改めて気づかされる。やはり、バーボンにはふさわしい種類の木があるのだ。

「皆さんが思いつく限りのすべての木材から樽を造りましたよ」とボズウェルは言う。「しかし、ホワイトオークが本当に最高なのです。浸出せず、他のものより良い味になります。他の種類の木材の多くは樹脂の風味が付いてしまいます。松ヤニの味がするウイスキーなど、誰が欲しがるでしょう?」

ISCの施設はシミひとつなく、床はレストランより清潔だ。落としたピーナッツバターとジャムのサンドイッチを食べても差し支えなさそうなほどだ。「従業員にはいつも、お姑さんが来ても大丈夫な状態にしておくようにと言っています」とボズウェルは言う。

【後半に続く】

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