ロニー・コックスの半生とスコッチ業界の舞台裏【第1回/全3回】

December 14, 2017


ウイスキーに初めてビンテージの概念を持ち込んだ改革者。ベリー・ブラザーズ&ラッドのロニー・コックス氏は、スコッチ業界を代表するアンバサダーの1人である。40年の軌跡を語るロングインタビューのスタート。

聞き手:ステファン・ヴァン・エイケン

 

ロニー・コックスさんは、7世代前からウイスキーづくりに関わっていた家系とうかがっています。一族の系譜について教えていただけますか?

 
私が知る限り、少なくとも1795年にはウイスキーの蒸溜に携わっていました。先祖はグラントという名の大地主(偶然ですがウイスキーとは無関係)から借地している農家です。このグラント家は、私たちが今日「スペイサイド」と呼んでいる地域の有力な地主だったのです。スコットランドのグランピアン州は当時「ストラススペイ」の名で知られており、今日もシングルモルトウイスキー蒸溜所の約半数が密集しています。
 
1795年にまで遡れたのは、当時の日付が記された賃貸契約書があったからです。ただし内容は金銭ではなく、物々交換による契約。当時のスコットランドのビジネスは物々交換が基本で、ウイスキーには高い価値が置かれていました。薬用にもなるし、寒い冬に体を温めてくれるからでしょう。余剰穀物を使って酒づくりを始めた先祖は、ビールよりも価値があるということで、アルコール度数の高いウイスキーをつくることに決めたのです。
 
その先祖がつくったウイスキーがどのようなものだったか、証明する資料は何も残されていません。それでも彼の息子が1813年に逮捕された記録は残っていました。1回目は違法なウイスキー蒸溜で、2回目は違法なウイスキー販売。自分の不注意から捕まったようです。罰金はとんでもない額でした。それぞれ当時の200ポンドと300ポンドですから、おそらく今の20,000ポンド(約300万円)に相当する大金です。刑務所に入ったかどうかは記録がないのでわかりませんが、当時の事情について調べてみました。イングランドの法によって裁かれる訳ですが、裁判官はスコットランド人だったので、人々の気晴らしとなる酒づくりに関しては大目に見てくれたのではないかと私は見ています。
 
面白いことに、先祖の歴史を辿ると、父系だけではなく母系にもウイスキーとの関連を見出だせます。母方のカミング家もウイスキーを蒸溜していました。もともとカミング家は12世紀頃にやってきたノルマン人の末裔。彼らは安寧の地を探していて、イングランド、スコットランド、フランスに土地を持っていました。
 
現在のカーデュ蒸溜所に、有名な2人の女性ディスティラーがいたのも興味深い話です。家族経営だったその蒸溜所は、新興の蒸溜所に古い小型のスチルを売りました。1890年代初頭のことで、その新興の蒸溜所というのがグレンフィディックです。グレンフィディックが2基の中古スチルをカーデュから買ったのは、当時カーデュの人気がうなぎのぼりで、生産量の拡大に迫られていたから。グレンフィディックにスチルを売ったのは、女性ディスティラーのエリザベス・カミングでした。
 
彼女たちには圧倒的な名声がありました。地域の銀行家として慈善活動をおこなっていたばかりでなく、病気の人々に金銭を含むさまざまな支援を提供して保険医療にも貢献していたのです。高品質のウイスキー生産が認められ、カーデュの評判も上々でした。そして1893年には、アレグザンダー・ウォーカーが「ジョニーウォーカーという名のブレンデッドウイスキーをつくったのだから、そろそろ蒸溜所を所有しなければならない」と発言しています。カーデュは、アレグザンダー・ウォーカーによる最初の蒸溜所買収だったと思います。

 

ロニーさんご自身も、一風変わった経緯でウイスキー業界と関わるようになったそうですね?

 

おっしゃる通りです。私はいわゆる王道を歩んだことが一度もありません。若い頃は権威に対する敬意が足りず、どこか反体制的な気質もありました。父は息子たちを母校のケンブリッジ大学に行かせたがっていましたが、私のことは早々に諦めて「世界のどこでも好きな場所に行くがいい。でも3年は帰ってくるな」と言いました。3年というのは、大学の学位を取得するのに必要な時間です。「世界のどこでも、行きたい場所へ片道切符を買ってやろう。お前のことだから、どうせタヒチにでも行きたいんだろう。だがあそこは泳いで帰るにはちょっと遠いからな。ロニー、お前はいったい何がやりたいんだ?」などと訊かれたので、「興味があるのは、スポーツと女性と遊びだよ。とことん自分の人生を極めたいんだ」と答えたものです。「酒や旅や女を追いかけ回すような仕事はないんだからな」と父の忠告を受けましたが、私は若い頃からそんな父の言葉が間違っていることを証明してやろうと決めていました。そこでまずドイツに行き、少しワインについて学んでから、ヘンケルトロッケンというワイン会社で働きました。最初の上司はアドルフ・ヒトラーの名付け子だった人です。1974~75年のことですが、当時はなかなか面白い時代でした。上司は素晴らしい人物で、一緒にテニスをしたりと楽しませてくれたものです。ヨーロッパを巡りながら愉快な時間を過ごし、たくさんのワインメーカーたちと親交を結びました。彼らのワインをドイツで流通させるのが仕事だったのです。
 
そのワイン会社の販売代理店に、ゴンザレス・ビアスというシェリーの会社がありました。そこで私は1年ほどスペインに住んで、スペイン語をマスターしようと考えました。でもゴンザレス・ビアスの仕事は、自分にはとても務まらないことがわかってきました。仕事といっても、大挙してやってくるイギリス人たちの接待です。普段は朝10時に起きて、イギリスからバスに満載でやってくる人たちとシェリーを1杯飲んでからボデガ巡り。彼らと一緒に素晴らしいランチをとった後、午後6時くらいにシエスタ。そして午後8時から、まったく同じことを別のバスツアー相手にやるんです。そんな生活を約2カ月続けたあたりで、肝臓の具合が悪くなって自分がアル中予備軍であると自覚しました。そこでセールスマンになろうとマドリードに行きましたが、事態はさらに過酷になりました。朝はまず甘口タイプのアニス酒やスペイン産ブランデーを入れたコーヒー「ソル・イ・ソンブラ(太陽と影)」からスタート。これがとても危険な飲み物で、その後も得意先で午前2時まで酒浸りの仕事でした。あの頃は朝9時に起きて、午前2〜3時に寝る生活でした。そんなときに会社を訪問してきたウイスキーのセールスマンが「ウイスキー業界に入りたいか?」と聞いてくれたので、「もちろん」と二つ返事で答えたのです。
 
面接の場所は、当時ロンドンにあった皇太后の実家。そこがディスティラーズ・カンパニー(DCL)の本社でした。私は20人掛けのテーブルにひどく感動し、目の前には5脚のクリスタルグラスが置かれていたのを憶えています。ワイングラスが3つに、食前と食後のウイスキー用グラスがひとつずつ。そのランチが面接の本番で、大学を卒業したばかりの志望者たちと一緒でした。面白い会話を交わした2日後に、採用の手紙を受け取りました。その後の6ヶ月は、スコットランドでDCL傘下のさまざまな蒸溜所巡り。ポートエレン、カーデュ、グレンエルギン、グレンロッシー、それにスペイサイドにあるいくつかの蒸溜所です。
 

当時のDCLは経営が混乱していたという人もいます。そのような印象は持たれましたか?

 

いいえ、むしろその反対ですね。DCLの子会社であるスコッチ・モルト・ディスティラーズ(SMD)という会社がかなり独自の判断で経営しており、スコッチウイスキー業界にも相当の影響力を持っていました。面白かったのは、関係者同士がとてもオープンに付き合っていたことです。現在でも蒸溜所同士で顕著なことですが(販売者は違います)、非常にフレンドリーな関係を持続していました。ほとんどの蒸溜所が、互いにアイデアや技術を交換していましたが、それが業界全体の利益になっていたと思います。

 

1986年、DCLがギネスに売却されたときは会社に残られましたね。その数年後、どういったいきさつでベリー・ブラザーズ&ラッドに移籍したのですか?

 

当時の私はラテンアメリカ市場を専門にしており、いずれはラテンアメリカのどこかに住むことになるだろうと思っていました。でも13年間ラテンアメリカ市場に関わってきて、本当に住みたいほど気に入った国はほとんどなかったのです。とても美しい国々ですが、政治状況がかなり不安定でした。80年代はまだ中南米の90%の国が独裁体制で、ラテンアメリカで消費されるウイスキーの80%はまったく非課税だったのです。例えばブラジルでも、酒類はすべて地下経済で流通しているような状況。世の中でいちばん売れているのは、免税限度がある隣国パラグアイなどからの輸入酒でした。

(つづく)
 

今回の取材にご協力いただいた店舗様

 

Harry’s New York

  • 【営業時間】 月〜金18:00〜26:00/土18:00〜24:00
  • 【休日】日祝
  • 【住所】新宿区西新宿1ー4ー2 141ビルB1
  • 【電話番号】03-3342-1588

【お店の紹介】

新宿駅徒歩3分。地下にあり、隠れ家のようなお店ですが、天井は高く、中はとても広々としています。落ち着いた照明が空間をより大人な雰囲気に演出しています。夕食のあとの二軒目や、お仕事帰りに軽く一杯飲んで行ってはいかがですか?

【今月のおすすめウイスキー】

メーカーズ マーク カスクストレングス

 

 

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