「日本ウイスキーの誕生」発売
9月4日、小学館から発売となった書籍「日本ウイスキーの誕生」をご紹介する。
ジャパニーズウイスキーの歴史を紐解いた書籍は数多い。
しかしこの新刊は、日本におけるウイスキーの隆盛期からウイスキーづくりに関わってきた三鍋昌春氏の著書である。今月4日に全国発売となったので、もうお手に取られた方も多いことと思うが、改めてその内容と魅力をご紹介しよう。
三鍋氏は1980年サントリー入社。1989年~1993年、スコットランドにある国立ヘリオット・ワット大学国際醸造蒸溜研究所で博士号取得後、ボウモア蒸溜所、オーヘントッシャン蒸溜所にて実習。原酒生産部長、ブレンダー室部長兼シニアブレンダー、洋酒事業部生産部部長などを経て、現在、サントリー酒類株式会社スピリッツ事業部生産部シニアスペシャリストとして活躍している。
その三鍋氏がスコットランドへ渡り、醸造と蒸溜について学びながら、様々なアルコールの世界に魅せられていくところからストーリーは始まる。特に、エールからウイスキーという流れだけでなく、ワインとウイスキーの共通点について着目された点が興味深い。ワイン(ボルドーの赤ワイン)との関係性については歴史的な背景をふまえてじっくり語られており、多くの人が感じていながらも表現できなかった「ワインとウイスキーのつながり」を明確にしてくれる。
さらに、明治期の日本とスコットランドとの関係についても本書は掘り下げていく。歴史好きでなくとも聞いたことがあるであろう人物が実はスコットランド人だったことや、日本の技術革新のためにグラスゴー大学が深く関わっていたくだりは非常に興味深い。日本が近代化をはかるなかで発展したスコットランドとの関係、そこから日本のウイスキー文化へつながっていくという視点は斬新である。
そして、そこから「なぜ日本初の蒸溜所は大阪だったのか」という疑問にも新たな答えが見つかるのである。山崎の名水や鳥井信治郎氏の拠点であったことだけが理由ではなく、当時の大阪の繁栄も背景にあったといういまから90年前に山崎の地で、サントリーがウイスキーづくりの基盤を育み始めた頃の、今日の「ジャパニーズウイスキー」の名声につながる、厳しい挑戦のエピソードが記されている。
詳細は、実際に読んでいただければと思う。
ひとつ、記者の心に響いた言葉を引用させていただく―「ウイスキー業は営むものにとてつもない試練を投げかける」という一文である。
つくり手として、経営者として、数多くの困難を乗り越えながら、鳥井氏が全くのゼロから日本の地にウイスキーづくりを根付かせたおかげで、我々日本人は、「世界的に高い評価を得ているジャパニーズウイスキーを気軽に愉しめる」という今があるのだ。
ウイスキー愛好家であれば、単なるウイスキーの資料・歴史書以上の読了感を得られることは間違いない。ぜひ読んでいただきたい、おすすめの1冊である。