クラフト・ブレンディング【前半/全2回】
スコッチウイスキーの歴史をたどるとき、蒸溜所よりもブレンド業者が登場することが多い。しかし今ではブレンドのみを行う専門業者は少なくなってしまった。少量生産のブレンデッドウイスキーをつくる「クラフトブレンダー」に注目する連載、前半をお届けする。
スコッチウイスキーの成功物語は、幾多の苦労と努力に加えて技術、そこに少々の幸運が「ブレンド」された結果であると言えよう。
今の私たちは、はるか昔…蒸溜が公に認められる前にルーツを持つシングルモルトに囲まれている。農夫たちが収入を得るひとつの方法として、スピリッツをつくっていた時代―ブランド形成やマーケティング、ビジネスチャンスなど及びも付かない、生存、生計、そして保存というシンプルな目的のためのウイスキーづくりだ。
このような農夫たちがつくった「強くて透明なスピリッツ」は、オーク樽で寝かせると風味が良くなることが徐々に知られていった。さらにはフランス産ブランデーかスペイン産シェリーが入っていた樽であればなお良くなることが発見されて、「農産物」から「贅沢品」へ移行した。この時点から、ウイスキーは人々に珍重されるものになった(参考:ジョージ四世は1822年にスコットランドを訪れたとき、グレンリベットのウイスキーを所望した)。
しかし、「酒の熟成」を計画的に行うようになった頃から今日に至るまで、ウイスキーをつくる者は同じ難題を抱えている…「一定の、安定した品質のものを提供すること」だ。
1800年代のウイスキー業者たちは、紅茶やスパイスのブレンドで得た経験をウイスキーのヴァッティングに生かして、この難題を乗り越えた。そして連続式蒸溜機の登場とグレーンウイスキーの誕生により、現在ブレンデッドウイスキーと呼ばれるものが誕生した。
ブレンデッドスコッチウイスキーの誕生と発展には、当時の食料品小売店オーナーらが大きく寄与した。アレクサンダー・ウォーカーやジョン・デュワーといった人々が、自分の食料品店の常連客のために特別なブレンドを始めたのだ。それは当時人気を集めた各食料品店オリジナルブレンドの紅茶やスパイスと同様、多くの客を引きつけた。
このような19世紀のブレンダーたちは、一般的には「ロバートソン」や「バクスター」などの大手の仲介業者から、まれに蒸溜所から直接ウイスキーを購入していた。その後、一定の製品をつくるには、原酒の在庫を管理する必要があると考え始めた。思うように原酒が手に入らないことも多々あるからだ。そしてブレンド専業から蒸溜事業にも手を広げていったのである。
1886年にジョン・ウォーカー&サンズ社がカードゥ蒸溜所を買収し、1896年にはデュワーズ社がアバフェルディ 蒸溜所を、さらに1930年にはベルズ社がブレア・アソール蒸溜所を手に入れた。
つまり現在広く知られているこれらのブランドは、ウイスキーをブレンドして販売する小売店として始まり、最終的に蒸溜所を有するウイスキーメーカーとなったのである。今日スコットランドの有名な蒸溜所の多くは大手メーカーに属し、ブレンド用ウイスキーの生産に重点を置いている。
昨今スコットランドからアメリカまで、誰もが蒸溜所を建設したがっているほどウイスキーづくりは人気のある仕事なのに、ブレンディングだけを専門にしたいと望む者は少ない。蒸溜所を持たずブレンディングのみに注力する「ブレンディング専門業者」は失われた業種のように見える。 クラフトブレンダーたちはどこへ行ってしまったのだろう?
現代の例を挙げるとしてもほんの一握りだが(間違いなく新しいクラフト蒸溜所ほど多くない)、そんなクラフトブレンダーたちをご紹介しよう。
ブレンディング専門業者としては、ロンドンを基盤とする「コンパスボックス」がおそらく最も有名だろう。同社を所有するジョン・グレイザーは「私たちはただ1800年代にさかのぼる伝統的な仕事を続けているだけです」と語る。
スコットランドでは、蒸溜所を所有しない最古のブレンドハウスのひとつが「ダグラス・レイン」だ。素晴らしいシングルカスクウイスキーをリリースすることで知られているが、フレッド・レインは「シングルカスクの世界には遅れて参入しました」と言う。
「父は1940年代に事業を始めたときからブレンドに的を絞っていましたし、私たちはずっとそうしてきました。シングルカスクウイスキーをリリースし始めたのは1990年代に入ってからで、今でも新しいブレンドのラインに力を入れていますよ。『ビッグ・ピート』と『スカリーワグ』です」
とはいえ、ダグラス・レインのような会社の場合、ブレンディングの技術が発揮されるのは「一定した製品をつくるため」ではない。「個性」が全てなのだ。
「私たちのブレンドはスモールバッチです」とフレッドは言う。「『ビッグ・ピート』のリリースは毎回3,000本ほどですし、バッチナンバーが分かるようにしています。ヴァッティングごとに同じモルトを使っていますが、わずかな違いが出るものなので」
【後半に続く】