ウイスキークッキング・1 【スコティッシュ・グラブラックス】

March 3, 2014

新連載「ウイスキークッキング」では、ウイスキーを使った料理をご紹介していく。第1回はスコッチと相性抜群のサーモンを使い、「スコティッシュ・グラブラックス」を作る。

重量、サイズ、温度、時間 ――ディスティラリーマネージャーと話せば、ウイスキーづくりは膨大な量の技術と知識に支えられていることが分かるだろう。それは一定した品質のスピリッツをつくり出すために欠かせないものだ。

料理でも同じく素材の重さや大きさ、調理する温度や時間は重要だ。最近では素晴らしい料理本を手軽に買うことができる 。時にはそこには、H・G・ウェルズやジュール・ベルヌの小説から抜け出したような複雑な料理が登場する。実際やってみるとうまくいかない調理法、どうすれば手に入れられるのかと思うような材料、キッチン用品専門店どころか科学研究所にあるのではないかと思われる機材が一杯に詰まっている。
料理の世界でここまで高度な集中力や技術を求められると、私たちのように化学の学位もなく、スモーキングガン やらロトバップ やらサーモミックス やらを持たない者はどうしても少しばかり怖じ気づいてしまう。

だが、怖れてはいけない! 料理は数学の試験ではない。重要なのは計算ではなく、結果だ。味は食べてみなければ分からない。同様に、熱狂的なウイスキー愛好家はボウモア蒸溜所で使う大麦のppm値やザ・マッカラン蒸溜所のマッシュタンの大きさ、スプリングバンク蒸溜所の蒸溜時間に心を奪われるかもしれないが、ウイスキーをたしなむ人々の大半にとって大切なことはそのような過程ではなく、結果であるウイスキーそのものだ。グラスの中の液体こそが、蒸溜所やブレンダーの真の成果と言える。
最近のニューリリースを見れば、シングルモルトが興味深いフィニッシュや熟成方法を試していることが分かる。こういった最新作の筆頭はタリスカー「ポートリー」アードベッグ「アードボッグ」で、いずれもそれぞれの蒸溜所としては異例のカスクを使って(前者はルビーポートウッド、後者はマンサニージャ・シェリーカスク)貪欲なファンたちに少し違ったものを提供している。

レストランの経営も同じようなものだ。面白いメニューは自然に出来るものではないし、有名シェフ(「セレブ」ほどではないにしても、名が知られていたり尊敬されたりしているシェフ)が文化を作る時代とあっては、何か新しいもの―「革新」が不可欠だ。
革新は常連客を喜ばせるだけでなく、料理人のモチベーション向上にも役立つ。一方では本やTV番組で紹介されて家庭の食生活を豊かにもしてくれる。

ヴィクトリア・グレアは、料理コンサルタントとして世界中で活躍し、レストランのメニューや料理本のための創作料理開発に携わっている。彼女は料理の重要な素材として、ウイスキーが様々なレシピに不可欠なアイテムとして使われている状況を目にしてきた。しかも、その傾向は強まっている。
新しい料理を創作する場合、ヴィクトリアは必ずウイスキーをレシピに加えるスコットランド育ちで小さい頃からウイスキーに囲まれていた彼女の代表的な創作料理のひとつが「ウイスキー漬けグラブラックス」だ。グラブラックスとは、サーモンを蒸溜酒、ハーブなどでマリネし、ジャガイモやパンなどとともに食する伝統的なスカンジナビアの魚料理だ。

「私はスカンジナビア料理が大好き。特にこれは保存も効くし、多めに仕込んでおくのにピッタリのレシピです。塩、砂糖、ディルを混ぜ合わせた美味しいマリネ液にサーモンを漬け込みます。快いカラメル風味が微かに付くので、白砂糖ではなくライトブラウンシュガーを好んで使います。ウイスキーはハイランドパーク12年が最適です。海岸に位置するこの蒸溜所がもたらす塩味が魚と良く合いますし、ヘザーハニーの気配がブラウンシュガーと素晴らしく調和して、料理にコクがありながらも繊細なスモーキーさをプラスしてくれます。蒸溜所が北欧に近いところもいいですね!」
「サーモンを漬けておくとパーティのときにいろんな料理にアレンジできますし、小分けにして冷凍しておけば、ちょっと贅沢な朝食や前菜、おつまみにと大活躍します。パスタやリゾットにもとてもよく合いますよ。手軽にできるから、ぜひ試してみてほしいわ!」

「スコティッシュ・グラブラックス」

レシピ<10~12人前>

材料:
・生のサーモン(スコットランド産であれば特に良い) 1㎏程度
※皮を残したまま骨だけ抜いておく
・粗塩(シーソルト) 100g
・ハイランドパーク12年 50ml
・ライトブラウンシュガー(三温糖) 150g
・ジュニパーベリー 10粒
・すりおろしたレモンの皮 1個分
※きれいに洗ってワックスを落とす
・ディル 1束
※粗く刻む

手順
①サーモンを皮のついた方を下にしてトレイに置く。指で表面を触って骨が残っていないか確かめる。残っているものは骨抜きで取る。
②すり鉢でジュニパーベリーをすり潰し、そこに塩、砂糖、ディル、レモンの皮を加える。良く混ぜたら、サーモンの上にまんべんなくかける。
③トレイごとラップをかけ、その上にまな板などで重しをして冷蔵庫で2~3日寝かせる。
④十分に漬けこんだらラップを外して、マリネ液からきれいにサーモンを取り出す。食べる直前に薄くスライスする。保存する場合はスライスせずに切り身にしてラップで包み、冷蔵庫で1週間以内なら保存可能。荒く砕いたブラックペッパー、レモンを添えて。

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