フードペアリングの簡単な法則【前半/全2回】

March 2, 2016

お酒と食事は、互いの魅力を高めあうすばらしいカップルだ。しかしウイスキーにぴったりの食べ物にはまだ研究の余地がある。フードペアリングのスペシャリスト、セアニーン・サリバンが、とっておきの組み合わせをご紹介する2回シリーズ。前半はおつまみの王者「チーズ」をどうぞ。

文:セアニーン・サリバン

 

「火山灰を入れた黒海の塩は、ウイスキーのスモーク香といい勝負になるぞ」

 
ウォークインタイプの大型冷蔵庫の外で声がする。

 
「でもその香りは、豚肉の脂身を強調し過ぎるんじゃないか?」

 
私はそんな疑念を述べる。

 
「ポテトじゃダメだ。ブーケガル二の中にある正山小種茶で大麦を煮込んでみようか」

 
「シェリー樽の特徴に合わせて、イチジクの砂糖漬けはどうだい」

 
ウイスキーとフードの関係は果てしなく深い。特に主菜とウイスキーをペアリングするのは、綱渡りのようなバランス感覚が必要だ。料理とウイスキーの特徴を、それぞれベストの状態で引き出す必要がある。一方が他方を圧倒するような組み合わせなら簡単だ。しかし料理をウイスキーと一緒に楽しむ場合、双方の印象が変わることもある。組み合わせによって、主だった風味が鳴りを潜めたり、逆に強調されたりするのだ。舌で感じる味覚がたくさんありすぎると、風味が満員状態になって失敗する。ひとつの不用意な行程、ひとつの付け合せ、ひとつのソースの選択が、ペアリングを台無しにしてしまう。

私が好きなウイスキーのペアリングには重層的で複雑なものもあり、そのため長時間の試行錯誤を要する場合もある。だが一方で、複雑なウイスキーに単一の要素を組み合わせたシンプルで静かなペアリングも好む。これまでに経験したもっとも効果的なペアリングは、このシンプルで明快な組み合わせから生まれている。本来、食べ物はそれ自体で非常に幅広い風味を持っている。「お互いを強調する相乗効果があれば相性はOK」という原則に従えば、シンプルでも驚くほど素晴らしいペアリングが実現できるだろう。

 

チーズとウイスキーをペアリング

カゼインを多量に含むチーズに、相性の悪いウイスキーを挙げるほうが難しいかもしれない。ウイスキーと同様、チーズの熟成期間は風味の構成に大きな影響を与えることがある。1種類のチーズを用意して、同じ蒸留所から熟成年数の異なるウイスキーを順々に組み合わせると、相性が変化していく面白さがわかるだろう。ウイスキーにはチーズの脂肪分を突き抜けてクリーミーさを強調する働きがあるため、口の中で脂肪分とクリーム感の両方を美味しく感じさせてくれる。
 

 

1. アイリッシュモルトと山羊のチーズ

アイルランドには牧場生産のチーズがたくさんある。ミドルトン近郊で蒸留される「レッドブレスト12年」に、近所で産出されるチーズ「アードサラグ」(Ardsallagh)を合わせてみよう。マイルドな山羊チーズ独特の柔らかい風味が、ウイスキーのナッツ香を引き出す。そしてウイスキーのフルーティーなスパイスが、チーズの酸味を引き立てる。

 

2. ハイランドモルトとブリーチーズ

スコットランドのテインで生産される「モーレンジブリー」は、「グレンモーレンジィオリジナル」と相性がいい。ウイスキーの中にある柔らかいバニラとオレンジの香りが、ブリーチーズの塩気を強調してコントラストを際立たせてくれる。

 

3. スペイサイドとクロスバウンドチェダー

「グレンエルギン12年」とモンゴメリー社のチェダーチーズは伝統的な素晴らしい組み合わせだ。深みのあるチェダーチーズの風味が、ウイスキーの豊かなフルーティーさとよくマッチする。ウイスキーが、チーズの盛り合わせに付いてくるドライフルーツのように機能するのだ。チーズに含まれる草の匂いやナッツ香が、ウイスキーによって前面に押し出される。その一方で、ウイスキーに含まれるパンのような素晴らしいモルト香をチーズが強調してくれる。

 

 

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