スコットランド屈指の美しさで知られるグレンゴイン蒸溜所。クリーンで力強いノンピートの味わいは、ひときわ長時間の蒸溜工程によって生み出される。ガヴィン・スミスによる2回シリーズの前半。

文:ガヴィン・スミス

 

グラスゴーから北にわずか20km。都会からのアクセスも容易なグレンゴインの町だが、ダムゴインヒルという丘に抱かれた風景はのどかで美しい。蒸溜所の裏には、岩山を流れ落ちる滝まである。そんな環境も手伝って、ここでは都市の喧騒ははるか遠くに感じられる。

モルトウイスキーの世界で定義されるハイランド地域とローランド地域は、いわゆる「ハイランドライン」によって隔てられている。グレンゴインはこのライン上にあり、ちょうど両地域にまたがった蒸溜所としても有名だ。蒸溜所自体はハイランドにあるが、1970年代まではローランドシングルモルトとして分類されてきた。ニューメイクスピリッツを詰めた樽が、国道A81号線を越えてローランド地域内にある貯蔵庫に運ばれて熟成されているからだ。

グレンゴイン周辺は、歴史的に密造酒の温床として知られる地域である。それでも蒸溜所が最初に酒造免許を取得したのは1833年のことだ。ジョージ・コネルが蒸溜所を建設し、酒造免許はマクレラン家の人々によって長年にわたり維持された。

もともとはグレングインと名付けられていた蒸溜所だったが、やがてバーンフット蒸溜所に改名。1876年、グラスゴーでブレンダーおよびウイスキー商を営むラング・ブラザーズ社によって買収されると、再びグレングイン(GlenguinおよびGlen Guin)に戻された。現在のグレンゴイン(Glengoyne)の表記になったのは、1905年のことである。

その後、1965年にラング・ブラザーズ社がロバートソン&バクスター・グループ(エドリントン傘下)に買収されると、グレンゴインは設備の近代化と生産力拡大に向けて動き始める。1966~1967年の再整備計画で、3基めのポットスチルが加えられた。現在の変則的な蒸溜体制(初溜釜1基と再溜釜2基)は、この時に生まれたものである。サイズは初溜釜(1基)が13,000Lで、と再溜釜(2基)が各3,800Lである。

 

ノンピートの代表的銘柄として地位を確立

 

グレンゴインの仕込み水は、グレンゴイン・バーンと呼ばれる水脈から採水している。大麦モルトはコンチェルト種を使用。セミラウター式のマッシュタンは容量が3.84トンあり、毎週16回の糖化工程をこなす。オレゴンパイン材でできた容量18,000Lの発酵槽が6槽あり、発酵時間は最低でも56時間だ。

グレンゴインでつくられたモルト原酒は、そのほとんどが「ラングス・シュープリーム」などのブレンデッドウイスキーに使用されてきた。シングルモルトの定番品が発売されるようになったのは、1990年代になってからの話である。

グレンゴイン蒸溜所にはダンネージ式の貯蔵庫が2棟あり、4,800本の樽を収容可能。他にもラック式の貯蔵庫が3棟あり、バット2,400本とホグスヘッドやバレル6,000本を収容できる。

2003年4月には、エドリントンが蒸溜所設備、「グレンゴイン」と「ラングス」のブランド使用権、熟成中の原酒の多くを720マンポンドで売却する。新しいオーナーは、ブレンドとボトリングを長年にわたって手掛けてきたイアン・マクロード・ディスティラーズに変わった。

初めて蒸溜所を所有することになったイアン・マクロード・ディスティラーズは、グレンゴインの生産量を倍増させる計画に乗り出し、グレンゴインをシングルモルトウイスキーのブランドとして積極的にアピールし始めた。それでもゆっくりと時間をかけた蒸溜スタイルはグレンゴインの特徴のひとつとして温存され、ノンピートだけを使用するモルト原料にもこだわり続けた。

当時すでにグレンゴインはノンピートのスコッチを代表する銘柄として地位を確立していた。フェノールの影響をまったく受けていないモルト原料が、原料の魅力をピュアに輝かせたスピリッツに反映させていると評価されていたのである。グレンゴインの伝統であるシェリー樽熟成も引き続き重視された。

ロビー・ヒューズ蒸溜所長は次のように語っている。

「グレンゴインは蒸溜速度が際立って遅いスタイルなので、年中24時間稼働してもマッシュは週に16回が限界です。クリスマス休暇を返上すれば純アルコール換算で120万Lまでいけるかもしれませんが、現在のところ年間生産量は92万Lです。蒸溜ではもろみができる限り長時間にわたって銅と接触できるようにするのが理想。蒸溜釜への加熱もゆっくりで、じっくりと煮込むようなスタイルです。小型の再溜釜を2基使用しているのも、スピリッツと銅への接触時間を高く保つため。グレンゴインのフレーバーはフェノールで覆われたりしないので、フルーティーな酒質を得ることにこだわっているのです」
(つづく)