ゴードン&マクファイルの125年【後半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
ゴードン&マクファイルの社史には、さまざまな転換点がある。そのひとつは、エルギンから西に数十キロ離れたフォレスにあるベンロマック蒸溜所を傘下に入れて設備を改修したことだ。決断したのは、アーカート家の3代目。蒸溜所の買収は1993年で、操業が再開されたのはその5年後である。スティーブン・ランキンは語る。
「彼らが蒸溜所を購入したのは、ずっと第1次世界大戦前の夢を追っていたからです。実はジョン・アーカートも、戦前に蒸溜所を保有したいと考えていました。チャンスを何十年もうかがっていましたが、ちょうどいい時期に、ちょうどいい場所で売りに出されていたのがベンロマックだったという訳です」
ベンロマックを買収したのは、良質なウイスキーを常に確保したいという目的からだとスティーブン・ランキンは語る。
「蒸溜所を所有することで、ウイスキーづくりの最後のワンピースが揃うと考えていました。樽を選定してスピリッツを入れ、熟成して瓶詰めしたものを販売する。そんな伝統の事業に、ようやくスピリッツの蒸溜が加わったのです。ベンロマックの買収で、事業の命運を自分たちでコントロールできる余地が広がりました」
現在のゴードン&マクファイルは、アーカート家の4代目にあたるニール・アーカートが会長を務めている。そして双子のスチュアート・アーカートとリチャード・アーカートがいて、スティーブン・ランキンも中核的な存在だ。彼らは グランタウン・オン・スペイの近くにあるキャロン村に新しい蒸溜所を建設し、さらに生産力をアップする計画を進めている。
この蒸溜所建設について、スティーブン・ランキンが内情を教えてくれた。
「新しい蒸溜所が必要だと真剣に考え始めたのは2015年くらいのこと。ゴードン&マクファイルにとっても、大きな決断でした。世界的に景気が思わしくないなかで、ハイランドに蒸溜所を新設して雇用を創出しようという意気込みも要因のひとつです。この場所のポテンシャルは高く、蒸溜所や働く人々に投資する価値は十分。ケアンゴームズ国立公園内で初めての蒸溜所ですから」
蒸溜所新設で広がるユニークなポートフォリオ
「ベンロマックを運営してきたことで、スピリッツの蒸溜に関する知識は蓄積されています。でも新しい蒸溜所はかなりモダンな設備なので、ベンロマックとはかなり趣きが異なってくるはず。ポットスチルは、ウォッシュスチル(初溜釜)が1基で、スピリットスチル(再溜釜)が2基という構成。生産するスピリッツのすべてをシングルモルト商品として販売します。うまくいけば、2021年末までに稼働できる見込みです」
創業以来、ゴードン&マクファイルは世界でも有数の高貴なウイスキーをつくることが自分たちの責務であると考えてきた。2010年3月11日には、ウイスキー史に輝く「ジェネレーションズ モートラック75年」を発売。これは発売当時の段階で、ボトル入りのシングルモルトスコッチウイスキーとしては世界最古の逸品であったとスティーブン・ランキンは振り返る。
「ブランドの自信をはっきりと表現したかったのです。私たちの仕事の本質は、根気強さなのですから」
2018年、ゴードン&マクファイルは既存のウイスキー商品を大幅に変更した。全体の商品構成をわかりやすく再編し、パッケージの魅力も強化するというプロジェクトなのだとスティーブン・ランキンが語る。
「それまでは中身の品質にこだわるあまり、ウイスキーの概要や特徴についてパッケージで説明することを二の次にしていました。でもせっかく素晴らしい品質のウイスキーをつくっているのだから、お客様にも詳しい情報を伝えるべきだと考えたのです。新しい商品構成とパッケージを導入して以来、その品質やデザインには大きな好評をいただきました。特に『コニサーズ・チョイス』は大きな成功を収めています」
ゴードン&マクファイルは、事業全体で160人を雇用している。発売する商品の数は、年間200品以上にのぼるとスティーブン・ランキンは言う。
「さまざまな市場に向けて、限定品のシングルカスク商品も用意しています。直営店には100軒以上の蒸溜所でつくられたストックがあり、その約25%はもう廃業してしまった『ロスト・ディスティラリー』です」
過去の経験をもとにして、慎重に未来を計画すること。それがゴードン&マクファイルの哲学だとスティーブン・ランキンは語る。
「創業125年を迎えられたことを誇りに思っています。この125年は、前向きに将来のことを考えてきた歴史の積み重ねでした。私たちの世代でも新しい蒸溜所を建設しますが、すでに新しい商品レンジも創出し、ベンロマック蒸溜所の「レッドドアジン」を世に送り出しました。ポートフォリオには、非常に希少なウイスキーがずらりと並んでいます」
これから125年後も、ゴードン&マクファイルはきっと最高品質のスコッチウイスキーをつくりつづけているだろう。そこにはアーカート家の8代目か9代目にあたる当主がいるかもしれない。歴史が証明したゴードン&マクファイルの力を知るほど、そんな光景はたやすく想像できるのだ。