稀有なテロワールと長大な時間が織りなすフレーバーの芸術。ハイランドパークが発売した54年熟成のウイスキーが日本にもやってくる。

文・WMJ

 

スコットランド本土の北に浮かぶオークニー諸島は、およそ70の島々で構成されている。そのうち人間が居住しているのは21島だ。荒々しい大自然のイメージも手伝って、英国では人気の観光地である。本土とはフェリーと飛行機で結ばれているが、飛行機は3便に1便が強風で欠航になるという。

そんなオークニーの隔絶された風土について誇らしげに語るのは、ハイランドパークのグローバルブランドアンバサダーを務めるマーティン・マークバードセン。ウイスキー業界で35年、ハイランドパークを担当して17年というベテランだ。単一のブランドをこれだけ長く担当するブランドアンバサダーは珍しい。その風格と穏やかな語り口は、歴史あるハイランドパークを人格化したような存在である。

ハイランドパークの歴史について熱弁するマーティン・マークバードセン(グローバルブランドアンバサダー)。彼もオークニーの風土に魅せられ、人生を捧げた一人だ。

「オークニーとハイランドパークには、離れがたい魅力があるんです」

ハイランドパーク蒸溜所の設立は1798年。今年で創業225年を数える世界最古の蒸溜所のひとつだ。創業者のマグナス・ユンソンは、いわくつきの男。精肉業を営みながら、夜は闇に紛れてウイスキーを密造する。日曜日には教会に通う信心深さも見せていたが、それは教会の一角にウイスキーを隠すためでもあったのだとマーティンは言う。

「ウイスキーは悪魔の水と呼ばれ、キリスト教徒からも疎まれていました。そんなものをわざわざ教会に隠すんですから、マグナスは神よりもウイスキーを信奉していたんです」

このマグナスの密造が発覚し、酒税の徴収が始まった1798年が公式なハイランドパーク蒸溜所の創設年となる。収監か追放の二択を迫られたマグナスは、1913年にオークニーを去った。だが現在に至るまで、ハイランドパークではマグナスの時代とあまり変わらない伝統的なウイスキーづくりを継承してきた。今では数少ないフロアモルティングを維持している蒸溜所のひとつでもある。

ハイランドパークのフレーバーで、鍵となるのはオークニー産のピートだ。強風のオークニーでは高い木が自生できず、地を這うようにヒースの低木が茂っている。このヒースの堆積によって形成されたピートが、ウイスキーに甘みのあるスモーク香を付与してくれるのだ。オークニー産のピートを使用する蒸溜所は、ハイランドパークの他にない。現在のスタッフは20人で、年間生産量は純アルコール換算で200〜250万リッター。樽入れ時の度数は70%で通常よりもかなり高いという。その理由をマーティンは説明する。

「寒いオークニーの気候にあわせた熟成の工夫です。オークニーの年間平均気温は8℃で、真夏でも20度になる日はめったにありません。同時に海洋気候でもあり、霜や雪もほとんどない土地なのです」
 

長期熟成で輝く北海のテロワール

 
そんなマーティンが日本に携えたのは、創業225年周年を記念した特別なボトルだ。ハイランドパーク史上、もっとも熟成期間が長く、もっとも販売点数が少ないウイスキー。その名も「ハイランドパーク54年」である。

エドリントンのゴードン・モーション(マスターウイスキーメーカー)が、このウイスキーの原酒を選定したのは2008年にまで遡る。当時で酒齢40年に達していたリフィル樽の原酒10本(スピリッツの蒸溜と樽詰は1968年)を厳選し、ヨーロピアンオークのシェリー樽(ファーストフィル)に移し替えた。さらに待つこと14年、熟成中のウイスキーは理想の風味と個性に到達する。創業225年を記念する225本のみがリリースされることになった。

ウイスキーの概念を超越した芸術品に、地球の神秘と卓越したクラフツマンシップが宿る。世界限定225本の「ハイランドパーク54年」に関するお問い合わせは、三陽物産まで。

グラスに注がれた液体から、静かに香りが立ち上がる。濃厚で甘く、どこまでも複雑な香りだ。ライチのようなトロピカルフルーツに、繊細なピートやシェリー樽のアロマが溶け合う。クミンやコリアンダーシードなどの柔らかなスパイスと、薔薇やジャスミンのフローラルな気高さ。蜂蜜漬けのキウイフルーツや、ピスタチオのビスコッティ。ピートの余韻はどこまでも穏やかだ。堂々たる複雑さに、長期熟成のまろやかさと洗練がある。

極上のウイスキーを味わいながらマーティンが語る。

「ウイスキーを熟成する54年。ハイランドパークがウイスキーをつくり続けてきた225年。どちらも長い時間ですが、このウイスキーは約4億年に及ぶオークニーの歴史も表現しています」

オークニー本島の西海岸にあるイエスナビー崖は、オークニーの自然と歴史を象徴する場所だ。吹き付ける強風は赤砂岩をえぐり、デボン紀にまで遡る複雑な地層を剥き出しにする。この崖や海などの絶景が、ウイスキーを入れるデキャンタと化粧箱のデザインになった。

デキャンタをデザインしたのは、ガラスデザイナーのマイケル・ルダック。オーク材の化粧箱は、グラスゴーで木工職人として活躍するジョン・ガルヴィンが手掛けた。初めてオークニーを訪れた2人は、大自然のコントラストに感銘を受けたのだという。

波をイメージした有機的なガラスのテクスチャーが、宝石のごとくウイスキーを抱きかかえている。そしてオークニーの地層を表現した見事なオーク材の木工技術。アーティストたちが、2つの素材でオークニーの自然と歴史と表現している。手作りなので225本それぞれに異なり、同じものは2つとない。もはやお酒の概念を超えた芸術品だ。

このウイスキーは、いったいどんな人たちの手に届けられるのか。世界を歴訪中のマーティンが語った。

「ハイエンドのスコッチウイスキーはアジア各国でも人気です。しかしそのなかでも、特にウイスキーの品質を深く理解してくれるのは日本のウイスキーファン。チャンスがあれば、ハイランドパークならではの個性をぜひお楽しみください。ハイランドパークには、長期熟成の素晴らしいウイスキーが他にもたくさんあります」

世界で225本、日本には5本が入荷予定。その1本ごとに、オークニーの魔法がかけられている。