コロナ禍をものともせず、訪問者が増え続けるバーボン観光。愛好家たちの巡礼を出迎えながら、ウイスキー初心者には入門体験も提供する各社の取り組みをご紹介。

文:マギー・キンバール

 

ケンタッキー州におけるウイスキー観光の最新ニュースとしては、ケンタッキーバーボントレイルが10年来のスタンプ冊子に代わる新しいパスポートを発行したことにも注目したい。バッファロートレースは、コロナ禍にかかわらず2021年に34万人の訪問者を記録している。

その一方で、KDA蒸溜所は2021年の来客の総数が13%も減少した。これは主に閉鎖や入場制限が原因である。これとは対照的に、クラフト系の蒸溜所では2020年よりも170%増という復調を見せている。

バーボン初心者でも予約無しで立ち寄って、試飲が楽しめるジャスティンズ・ハウス・オブ・バーボンの外観。メイン写真は創設者のジャスティン・サルーンとジャスティントンプソン。

フォアローゼズは、従来よりも4倍以上広いビジターセンターを新たにオープンさせた。ディアジオはルイビル南部の名門スティッツェル・ウェラー蒸溜所にガーデン&ガンクラブをオープンし、ケンタッキーダービー前夜のイブパーティーを復活させている。

ケンタッキー州北部でコンベンションや観光サービスを提供するミートNKY(meetNKY)の社長兼CEOを務めるジュリー・カークパトリック氏は、次のように語った。

「ケンタッキー蒸溜酒製造者協会の友人たちが言うように、バーボン産業は州内、特にケンタッキー州北部の観光に大きな影響を与えています。何十万人ものバーボン巡礼者が、愛するバーボンの里へ向かうためにI−75号線やシンシナティ国際空港を利用します。ケンタッキー州北部のバーボンシーンは、州内各地へ向かう旅行者の皆さんに素晴らしい試飲体験を提供できます。スポーツや音楽などのイベントで地域を訪れる何百万人もの人々にとっても、バーボンが身近にあるケンタッキー州は大きな魅力があるのです」

バーボン業界は、過去10年間に大きく成長を遂げた。その原因のひとつに挙げられるのは、蒸溜所を探訪する観光ルートの盛り上がりだ。観光客たちが望みの品を見つけられるように、誰もが協力し合って受け入れ体制を整えてきた。ジャスティンズ・ハウス・オブ・バーボンのウィスキー歴史家、キャロライン・パウルス氏は語る。

「旅の予算やバーボンウイスキーの飲用体験に関係なく、ジャスティンズ・ハウス・オブ・バーボンは世界中から訪れる観光客にとって特別なスポットになってきました。ちょっとバーボンの世界を体験してみたいだけの人でも、蒸溜所見学のように事前の計画を立てて予約する必要はありません。ただふらりと立ち寄って、5ドルを払うだけで楽しい試飲ができるのですから。その一方で、約1週間かけて蒸溜所や銘柄ごとの歴史や違いをもっと深く知りたい、希少なボトルもいくつか持って帰りたい、という熱烈なバーボンファンもいます。そんな皆さんには、知識豊富なスタッフがバーでのテイスティングや常備している数百本のバーボンからお好みの品を見つけて販売します」

ジャスティンズでは膨大な種類のボトルを扱っているため、ここがケンタッキー州内のすべての蒸溜所を代表する存在と見なす人たちもいる。この店舗自体が、観光客の目的地となっているのは無理もない。

「お客さまが気に入ったボトルを見つけるお手伝いをするのは、とても楽しいことですから」
 

地域やマイノリティを支援する取り組み

 
バーボン業界は、昨年も地域貢献への取り組みに力を入れた。2021年末にケンタッキー州で竜巻による壊滅的な被害があり、バッファロートレースとKDAの両社は被災者のためのオークションを開催して総額500万ドルの寄付を集めている。

またバッファロートレースは、「フレディーズソーダ」の販売を通じてフランクフォートのグリーンヒル墓地の保全に充てる資金を寄付した。グリーンヒル墓地は、多くのアフリカ系アメリカ人たちが眠る歴史的な墓地である。

バブラフ・ブラザーズを創設したヴィクター、ブライソン、クリスチャンの3兄弟。白人男性が中心だったウイスキー界のプレーヤーも多様化に向けて動き出している。

そして昨夏は、ケンタッキー州で初めてアフリカ系アメリカ人が所有するブラフ・ブラザーズ蒸溜所がオープンした。またIXバーボンを立ち上げたブリタニー・ペニーは、ケンタッキー州のバーボンブランドで初の黒人女性CEOとなった。

ケンタッキー州でオリジナル・ブラック・バーボン・エンスージアスト(KOBBE)を創設したジャマー・マックは、ウイスキー業界における黒人コミュニティの重要性と将来的な拡大を象徴する人物。ウイスキーマガジンではマックの活動を紹介した記事を掲載し、マックは掲載号のウイスキーマガジンの表紙を飾った。

またバーボン界ではRTD(レディ・トゥ・ドリンク)カクテルの人気が再燃しており、次々と新たなカテゴリーが誕生している。ジムビーム、バッファロートレース、ヘブンヒル、ワイルドターキー、そしてブラウンフォーマンまでもがこぞってRTD商品を発売する状況だ。このRTD部門の好調は、ケンタッキーバーボンの業界があらゆる部門で成長している現状を象徴している。もちろん缶入りウイスキーのファンにとっても朗報である。
(つづく)