有名バーボンブランドもクラフトメーカーも、あらゆる手を尽くして継続的な成長を目指している。ケンタッキーの現場から、マギー・キンバールが伝える最新レポートの第2回。

文・写真:マギー・キンバール

 

バーボン人気の急成長ぶりを物語る数字なら、いくつでも挙げられるだろう。バッファロートレース蒸溜所のマスターディスティラーを務めるハーレン・ウィートリーは、最近のプレスリリースの中で次のように述べていた。

「会社を創設した1995年には、年間1万2千本のバレルに樽詰めしていました。現在の成長はゆるやかに見えますが、創業当時を振り返ると隔世の感があります。何しろ今年だけでバレル20万本分のウイスキーを生産しているのですから」

バッファロートレースは消費者の需要に応えるため、今後数年間にわたって4ヶ月に1棟のペースで貯蔵庫を新設する予定だ。

クラフトウイスキーのバーズタウン・バーボン・カンパニーも増産を続けている。2016年9月には150万プルーフガロンだった生産量が、2017年7月には300万プルーフガロン、2018年7月には680万プルーフガロンと段階的に増加した。最初の2年でこの成長ペースは驚異的といえるだろう。

オールドフォレスター蒸溜所の発酵槽。生産工程に実験的なアプローチをとるクラフト蒸溜所も増えてきた。

同社は2017年に22種類の異なったマッシュビルを用いてウイスキーをつくり、2018年にはその数を24種類に増やして22社の顧客に供給している。ウイスキー業界から協力者を集めて、互いに学び合いながら新しい商品を創り出そうというコンセプトがユニークだ。社長兼CEOのデービッド・マンデルがその思いを語る。

「クラフトウイスキーづくりのコミュニティを称える存在でありたいと願っています。ウイスキーを愛する人々のコミュニティをひとつにつなげることが、私たちの蒸溜所の存在意義。ここでおこなわれる知識の交換によって、誰もがお互いから新しいことを学んでいけることが大切です。このようなイノベーションをひとつの場所で起こせるような環境は、今まで一度もありませんでしたから」

生産量を4倍にまで増やしながら、24種類の異なったマッシュビルを使用してウイスキーをつくるのは並大抵の事業ではない。デービッド・マンデルとエグゼクティブディレクターのジョン・ハーグローブは、バーズタウンで才能に溢れたウイスキー関係者を見出しながら、同社に成功をもたらす功労者に育ててきた。バーズタウン・バーボン・カンパニーの従業員は、平均でウイスキーづくりの経験が15年もある。

「人事採用も、生産工程も、すべて計画が肝心。数ヶ月前にスタッフの数を倍に増やしました。創立時からのメンバーと一緒に、みな協力し合いながら働いてくれています。ウイスキーづくりの休業期は、大事な研修期間に充てています。あらゆる工程のなかで、最も重要なのが計画段階。計画が適切におこなれていれば、生産はどこまでもスムーズに進行するからでます。ウイスキー生産の季節がやってきたら、経営陣が現場に出てオペレーターと付きっきりで計画を遂行します」

 

さらなる成長を見込んで生産を拡大

 

ケンタッキー州では、生産拡大中のウイスキーメーカーが他にもたくさんある。オールドフォレスターは、歴史あるルイビルのメインストリート(ウイスキーロウ)に蒸溜所とビジターセンターをオープンさせたばかり。ここは20世紀初頭からブラウン・フォーマンの事務所と貯蔵庫があった場所で、そのブラウン・フォーマンはさらに広い近代的な施設へと移転を済ませている。古い建物は煉瓦が崩れかけていたが、2007年にマリアン・ズィッカーが歴史地区を保護する「プリザベーション・ルイビル」を設立したことで、オールドフォレスター復活の道が拓けたのである。

クラフトウイスキーで知られるバーズタウン・バーボン・カンパニーの新しい社屋。急成長を続けるクラフト市場のシンボルだ。

ルイビルでもトレンディなニュールー地区では、ラビットホール・ディスティリングが「ダービーデイ」をオープンさせた。ミクターズはオールドフォレスターからメインストリートを少し下ったところにビジター体験施設「フォートネルソン」を開業予定だ。フォアローゼズは、これまで進めてきた大規模な生産量拡大計画を2018年秋に完了。ラックスロウも2018年1月にバーズタウンで真新しい1600平米の蒸溜所を建設してバーボンの生産を開始している。

ケンタッキーにあるほとんどの蒸溜所が設備を拡大するか、さもなくば設備投資を計画中である。今後ウイスキーへの関税が強化される懸念はあるものの、バーボン人気は世界で成長中。現地では将来への楽観ムードが漂っている。
(つづく)