バーボンウイスキーの成長を後押しするため、ケンタッキー州政府も規制緩和に乗り出した。障壁となっていたのは、禁酒法時代を思い起こさせるアメリカならではの事情である。最新バーボン事情の完結編。

文・写真:マギー・キンバール

 

ケンタッキー州のウイスキー業界は、さまざまな古い法律や規制によって縛られてきた。禁酒法以降のアメリカでは、いわゆる「高貴な実験」と呼ばれる社会運動から道徳的に厳格な法律(通称ブルーロー)が次々と成立した経緯がある。女性をバーから遠ざける条例、よく冷えたビールの販売を規制する州法、一切の酒類販売を禁止する郡(ドライカウンティ)の存在など、ブルーローの例は現在もまだたくさんある。

ケンタッキーの蒸溜所は、2016年まで訪問者にお土産用のミニボトルを販売することができず、現地でカクテルを提供することも禁じられていた。ツアー中に提供できるお酒は、試飲用の1オンス限定という規制が敷かれていたからである。それが現在、ケンタッキーの蒸溜所は来客1人1日あたりに最大4.5Lのアルコール飲料を販売できるようになり、バーの営業許可を取得すれば蒸溜所内でドリンクも提供できるようになった。

バーボンの主原料であるイエローデントコーン。クラフトウイスキーのメーカーは、マッシュの多様性も重要視している。

ケンタッキーにある蒸溜所の多くが、この規制緩和の利益に与ろうと蒸溜所内にバーを併設した。ジムビームの「ジムビーム アーバンスチルハウス」では、毎週金曜日と土曜日の夜にクラフトカクテルを提供。メーカーズマーク蒸溜所内には、フルサービスのレストランバー「スターヒルプロビジョン」ができた。さらにコッパー&キングズは、ルイビルのブッチャータウンにある蒸溜所で屋上バー「ALEX&NDER(アレグザンダー)」を開業している。

そしてバーズタウン・バーボン・カンパニーでは、地元のフードムーブメントと提携してさらに一歩踏み込んだ展開が見られる。アルコール飲料をその場でドリンクとして提供するのはもちろん、最近成立した法律を追い風にビンテージスピリッツの販売も手がけているのだ。蒸溜所内に最近オープンした「ボトル&ボンド・キッチン」ではクラフトビール、ワイン、カクテルなどのフルメニューを提供し、評論家のフレッド・ミニックが厳選した多彩なビンテージバーボンのコレクションも楽しめる。

 

規制緩和でビンテージスピリッツ市場も拡大

 

州内で施行されたいわゆる「ビンテージスピリッツ法」の効果で、「ジャスティンズ・ハウス・オブ・バーボン」という名のユニークな施設も誕生した。ウイスキーの小売りをしながら、ビンテージスピリッツの博物館としても機能するケンタッキーの新名所だ。共同創立者のジャスティン・トンプソンが語る。

「来場者がどんな反応をしてくれるのか、実際に博物館を開業するまでまったく予想できませんでした。でも今はホッとしています。禁酒法以前のウイスキーから直近10年のクラフトバーボンまで、あらゆる年代の多彩なボトルを皆さんが熱心に見学しています。この博物館で語られるストーリーに、現在の商品を結びつけてもらえるのは大きな喜び。バーボンの歴史を視覚的に伝える素晴らしい形を提示することができました」

トンプソンによると、訪問客の3分の2は州外からやってくる。これもバーボンに関心の高い旅行者と自分たちの情熱を結びつけた成功の証しなのだとトンプソンは説明する。

「いつから開館していたの?とよく質問されます。おそらく5年から10年くらい前だろうと推測していた人たちが、2018年の2月に開館したばかりだと聞くとびっくりしますよ。そんなお客様には、観光を後押しする法律のおかげで開館に至った経緯を教えてあげます。生産を終了した古いウイスキーをその場でテイスティングしたり、自宅に持ち帰ったりできることは、究極のバーボン体験を完結させる最後のワンピースでした。それがこの場所でようやくできるようになったのです」

ケンタッキー州にあるほとんどの蒸溜所が、大型の設備投資で増産に踏み切っている。北米ではおなじみのヴァンドーム社のスチルが成長を支えている。

ケンタッキーの酒屋チェーン「リカーバーン」のブラッド・ウィリアムズも、「ビンテージスピリッツ法」による着せ緩和をより大規模な販売戦略に活用している。

「ケンタッキーでビンテージスピリッツ法が整備されたことは、バーボン業界にとっても大ニュースです。自分が保有しているビンテージボトルを売りたい消費者ががいれば、ビンテージスピリッツの試飲や特定ボトルの調達を依頼してくる消費者もいます。目下、店舗用のビンテージ戦略を立てている最中です」

ケンタッキー州で定められた3つ目の新法は、世界中のバーボン愛好家にさまざまな可能性を広げてくれる内容だ。2018年6月1日、ケンタッキー州知事は「国境なきバーボン法」と異名を取る下院法案400号に署名。この法令により、ケンタッキー州のウイスキーメーカーと酒屋のオーナーは、互恵協約を結んだ他州(現在7州)にバーボンを出荷し、その対象を外国にも広げることができる。ジャスティンズ・ハウス・オブ・バーボンのジャスティン・トンプソンが語る。

「この出荷法の強みを活かす方策はまだ具体的に始めていません。出荷対象も7州に限られているので、実際の行動に移すまで数年くらいかかると思っています。でもジャスティンズ・ハウス・オブ・バーボンは、ビンテージスピリッツを外国市場に出荷する最初の酒屋になりますよ。国境を越えて出荷できるようになった今、米国内よりもむしろ世界を視野に入れて販売しない手はありませんから」

リカーバーンの来店者にも朗報がある。互恵協約を結んでいる7州の居住者であれば、新しい「国境なきバーボン法」の恩恵に預かることができるのだ。ブラッド・ウィリアムズも新しいサービス提供を開始している。

「ウェブサイトで、Eコマースのプラットフォームも用意しました。協約を結んだ州内に居住するお客様なら、商品の発送を承ることができます。配送による販売は、今後のビジネスのあり方を大きく変えていくことになるでしょうね」

ケンタッキー州は、ウイスキー業界のさらなる隆盛に必要な策を講じている。ウイスキーメーカーに将来の計画を訊ねると、市場の成長について明るい見通しを語る人ばかりだ。ケンタッキー州のバーボン業界は何年も前から大きな波に乗っており、その勢いが弱まる兆候はまったく見られない。