「カフェ式蒸溜機」を知る【前半/全2回】

July 7, 2015

ウイスキー界に大変革を起こした連続式蒸溜機。今回は「カフェグレーン」で使用されているカフェ式連続式蒸溜機について取り上げる。


宮城峡蒸溜所の第二の心臓、カフェ式連続式蒸溜機。この設備が稼働している蒸溜所は、今や世界でもごく少数という。

連続式蒸溜機の誕生は1826年。スコットランドでロバート・スタインが発明した。そして1830年、アイルランドのイーニアス・カフェが連続式蒸溜機を改良し特許を取得。それ以降、連続式蒸溜機はカフェスチル、あるいはパテント(特許)スチルと呼ばれるようになった。
連続式蒸溜機とは、ポットスチル(単式蒸溜器)のように1回ずつ発酵液を沸騰させて蒸溜液を得る方式ではなく、連続的に発酵液を流し入れ、気化と凝縮をひとつの蒸溜機の中で連続的に行うことで、高いアルコール度数の蒸溜液を得られるという蒸溜システムのことだ。蒸溜の場合、加熱した水そのものを使う訳ではなく「蒸気」のみを抽出するのでモノは全く異なるが、「やかん」とガスや電気式の「湯沸かし器」の違いを考えていただければイメージは分かりやすいかと思う。詳しい仕組みのことは追って説明しよう。

この連続式蒸溜機の誕生により、当時のウイスキー界には大変革が起こった。高いアルコール度数のスピリッツの大量生産が可能になったため、トウモロコシや小麦、ライ麦などの原料(穀物=グレーン)を使用してグレーンウイスキーづくりが本格化した。グレーンウイスキーはシングルモルトに比べてライトで個性が強くないので、モルト原酒とグレーン原酒をブレンドしてバランスを取ったブレンデッドウイスキーが生まれた。これによりウイスキーは飲みやすくなり、人々に愛されるようになっていった。単なる「スコットランドの地酒」から洗練された世界の銘酒へと飛躍的に変化したのである。

日本に初めてこのカフェ式蒸溜機がやってきたのは1963年。兵庫県西宮の、朝日酒造西宮工場に設置された。当時ニッカは資金繰りに困難を極めていたこともあり、朝日麦酒(現アサヒビール)の子会社である朝日酒造がカフェ式連続式蒸溜機を稼働しグレーンウイスキーを製造、それをニッカウヰスキーが購入するという形をとっていたのである。
朝日酒造は1966年に朝日シードル社と合併したのち、1969年にはニッカウヰスキーが吸収合併した。

このように日本で稼働を始めたカフェ式蒸溜機であるが、その導入当時でもスコットランドではすでに「最新設備」とは呼ばれなくなっていた。次々と新しい連続式蒸溜機が開発されていたのである。しかし1962年、竹鶴氏は30余年ぶりに英国の地を踏んだ際、グラスゴーのブレア・キャンベル・マクリーン社にこのスチルを発注した。竹鶴氏はあえてこの「カフェ式」にこだわったのである。
というのも、1919年 竹鶴氏がスコットランドでウイスキーづくりを学んでいた際に、研修を行ったボーネス蒸溜所で採用されていたのが、このカフェ式蒸溜機だった。竹鶴氏はこの蒸溜機でつくられるグレーンウイスキーの風味を「ニッカのグレーン」として再現したいと思っていたのである。
カフェ式蒸溜機でつくられたグレーンウイスキーは、クリーンになりすぎず、グレーン由来の風味が残る。ほのかに甘く香ばしさも感じられるニューメイクが、熟成を経てニッカのブレンディングの要となるグレーンウイスキーへと成長していくのである。

後半では、宮城峡蒸溜所のカフェ式蒸溜機の蒸溜棟を見学した際の詳細なレポートをお届けする。

【後半に続く】

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