メーカーズマーク ― 「特別」の証【後半/全2回】
メーカーズマークには数々の変わらないこだわりがある。その中で生まれた新商品「メーカーズマーク46」…後半ではその誕生秘話を紹介する。
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もちろんこれは机上の理論にすぎない。蒸溜所の誰もが知っている。
季節もスタッフも変わるし、手に入る穀物や機材の質も変化する。ウイスキーづくりは決して正確な科学ではない。レシピは自然の恵みである穀物から成り、数量や温度はただの数字ではない。
だから、その規模を考えると実に驚くべき話だが、メーカーズマークは誇りを持って今もコンピューター化していないのだ。
このウイスキーはノウハウと技術によって、機械にはできないこと ―バーボンを感じ、理解し、味わうことを、スチルマンや熟成庫の作業員、社内のテイスターチームらが管理しているのである。
その本来の姿は、当然ながら、宣伝文や写真だけでは分からない。本と同じで、その表紙を開いて読み始めれば、じっくりと伝わってゆく。
例えば、同社が行う製樽業に比べれば10%に過ぎないのに、「敷地に積み上げられている木材の60%」をメーカーズマークの樽に使用しているなど、実に興味深いではないか。
さらに、「通常の34枚ではなく32枚の板で作った樽を使うこと」、「ケンタッキーでは唯一、貯蔵庫内で樽の位置を交換するシステムを採用していること」、「先駆的な溝形(さねはぎ)の樽鏡板を援助したこと」、「クルミ材の栓」、「変わらない味をつくり上げるため様々な貯蔵庫の中から150個の樽を選んでブレンドしていること」、等々。
まだある。メーカーズマークはあらゆる物事にユーモアを含ませた語り口で道を開いた。そのストーリーはあまりにも上手く語られ、名前を出さなくても「赤い封印」といえば誰もが分かるほど著名で自信に満ちたブランドになった。
例えば昨年話題になったが、需要に供給が追い付かないため、アルコール度数を落とす(つまりは販売量を増やす)と一旦は発表したが、愛好家からの反対があまりに強く、撤回した。
しかしそれすらもプラスイメージに結びつけたため、売上は44%急騰した。サミュエルズ ・ジュニアは言う。「当社は34年近く二桁の伸びを続けています」。そう、メーカーズマークは常に話題になっているのだ。
ここで改めて疑問が浮かぶ。素晴らしいストーリー、この上なく成功しているブランド − それなのに何故、「メーカーズマーク 46」が登場したのか?これは、あの掛け算に「2」や「3」を加える、恐るべき変革ではないのか?
「初めは冗談のつもりでした。ロブに後を譲ったはいいが私には残すものがない、という理由でね」。サミュエルズ・ジュニアは語る。
現在多くの人が、そんなサミュエルズ・ジュニアの思いを体現した商品の「メーカーズマーク46」を気に入っている。
「メーカーズマーク46」は“インナーステイブ”とよばれる焦がしたフレンチオークの板を、熟成した原酒の樽の中に10本沈め、冬季の10〜14週間に仕上げたものだ。この新商品は根本的にレッドトップとは別ものであり、そのため大変に注目に値する。プレミアムバーボン – 確かに、1本当たりの価格は高い。しかしワクワクする。フレンチオークの板10枚?! それは未来に向かう冒険だ。
メーカーズマークは過去も現在も特別だ。他のどれとも違うバーボンをつくることを目指して始まり、その後もたったひとつのウイスキーをつくるという独自の道を選んだ。それはバーボン界では明らかに特殊だ。
そして、製品自体の価値だけでなく、その背景にあるストーリーがまたウイスキーを引き立てる。このブランドが掛け算の結果をついに「1」ではなく「2」にした…それは全く思いもよらない形で現れた。
この『歳取ったハリネズミ』はこの上なくよく知られているくせに、全く目が離せない存在だ。