小さな長濱蒸溜所の大きな夢【前半/全2回】

February 9, 2017

2016年11月、彗星のように現れた琵琶湖畔の長濱蒸溜所。日本でいちばん新しく、日本でいちばん小さな蒸溜所は、すでに本格的な稼働を開始している。設立の経緯から生産の詳細までを、ステファン・ヴァン・エイケンが現地からレポート。

文:ステファン・ヴァン・エイケン
 

2016年は、過去に前例がないほどたくさんのウイスキー蒸溜所が日本に誕生した年だった。少なくとも6カ所で、新しい蒸溜所が操業を開始している。そのなかでもっとも新しく日本のウイスキー地図に加わったのが長濱蒸溜所だ。滋賀県の琵琶湖に面した風光明媚な長浜市にあり、日本で最小規模の蒸溜所という触れ込みもある。だが長濱蒸溜所の特徴はサイズだけではない。雪の降る1月の朝、私はこの新しい蒸溜所へ向かった。最初のスピリッツを蒸溜した日から約2カ月。真新しい蒸溜所では、いったいどんなことがおこなわれているのだろうか。

ビール醸造所が蒸溜所機能を獲得するのにぴったりなアランビック型のスチル。清井崇社長がみずから調整する。

長濱蒸溜所に関して驚きだったのは、設立までのスピードであった。ほとんどの会社は、計画を練ってから蒸溜所設備を現地に導入し、ようやく生産開始に漕ぎ着けるまでに何年もかかる。だが長濱蒸溜所はこれをわずか7カ月強でやってのけた。スピード開業を可能にした要因のひとつは、この蒸溜所建設がゼロからのスタートではなかったということである。

実のところ、長濱蒸溜所は長濱浪漫ビールの醸造蔵を拡張してできた施設だ。この醸造蔵は1996年に開業したブリューパブ、すなわちビール醸造工場とレストランをコンパクトに一体化させた工場直営飲食店の一部にある。ウイスキーづくりの前半工程にあたる仕込み(糖化)と発酵は、ビールづくりの設備を使用する。後半工程にあたる蒸溜のために、小さな蒸溜室がバーカウンターの背後に設けられた。ガラスで仕切られているだけなので、レストランにいけば誰でも蒸溜所を見学できるのが嬉しい。

蒸溜設備を見て、長濱蒸溜所がスコットランドの蒸溜所をお手本にしていることを見抜ける人はあまり多くないだろう。だが確かにここはスコットランドをモデルとした蒸溜所なのである。モデルになったのは、スコットランドの伝統を象徴する有名な蒸溜所ではなく、ニューウェイブの小規模蒸溜所だ。

2015年11月、長濱浪漫ビールは少人数のチームをスコットランドに派遣している。視察先にはストラスアーンとエデンミルも含まれていたが、そもそもの目的は品質を確認して日本への輸入を検討することだった。チームは蒸溜所で目にした設備から強い印象を受けたが、すぐさま長濱蒸溜所の設立を思い立ったわけではない。同様の設備を日本でも導入し、自前のウイスキー蒸溜所を設立しようと考え始めたのは、2016年4月に再びスコットランドを訪ねたときのことだという。

 

モデルはスコットランドの小規模蒸溜所

 

ストラスアーン蒸溜所は2013年10月にウイスキーづくりを開始した。当時のスコットランドで最小の蒸溜所だった。その後、スコットランドではあまりにたくさんの小規模蒸溜所が雨後の筍のように誕生したので、今でも最小といえるのかどうかはわからない。

ストラスアーンで使用されているポットスチルは小さく(初溜釜が1,000Lで再溜釜が500L)、スコットランドで一般的に使用されているタイプとは異なる。アランビック型のヘッドを備え、伝統的にカルバドス、コニャック、ピスコの蒸溜に使用されてきたタイプだ。ポルトガルのホーガ社が製造したスチルで、アメリカをはじめとする小規模な蒸溜所が好んで導入している。伝統的なポットスチルよりも安価で、注文からの納期も早い。

日本一新しく、日本一小さな蒸溜所。ミズナラ樽による熟成など、独自のこだわりは随所に見られる。

コットランドを代表するポットスチルメーカーのフォーサイス社は、予約リストに登録されてから3年間もの待ち時間がかかる。その点、ホーガ社なら注文のスチルを数カ月で納品してくれる。ストラスアーンのアプローチと設備に感銘を受け、自前のビール醸造所を拡張して蒸溜所を設立したのがエデンミルである。エデンミルも同様のアランビックのスチルをホーガ社に注文し、2014年11月にウイスキーづくりを開始している。エデンミルは、スコットランドで初めてビール醸造所とウイスキー蒸溜所を複合化したメーカーだ。

以上の事実を踏まえると、長濱浪漫ビールのチームがこれらの2つの蒸溜所を見学して影響を受けた理由は想像に難くない。国内外はジャパニーズウイスキーへのニーズが急速に高まっており、すでに長浜にはビール醸造所がある。それを拡張することで、ウイスキーの世界へも足を踏み出せるのである。

2016年6月、長濱浪漫ビールの醸造施設内にウイスキー蒸溜所を設置する作業が本格的に始まった。ストラスアーンとタイプもサイズも同じポットスチルのセットをホーガ社に注文。同時期に日本で進行中だった他の蒸溜所プロジェクトとは異なり、プロジェクト全体が内密に進められた。そのため11月1日にソーシャルメディアで流れてきた公式発表は、大きな驚きとともに迎えられたのである。そしてホーガ社のスチルは、11月10日に長浜に到着。最初の蒸溜は、その1週間後の11月16~17日におこなわれた。

(つづく)

 

 

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