「NIKKA DISCOVERYシリーズ」第1弾が発売【後半/全2回】

September 21, 2021

前回の「シングルモルト余市 ノンピーテッド」に引き続き、「シングルモルト宮城峡 ピーテッド」をテイスティング。数量限定の「NIKKA DISCOVERYシリーズ」には、確立されたブランドイメージへの先入観を覆すような喜びが満ちている。

文:WMJ

 

前回紹介した「シングルモルト余市 ノンピーテッド」では、ピートの奥に秘められていた余市モルトの個性に驚いた。今回はその正反対。エレガントで穏やかな宮城峡のイメージを覆し、あえてピーテッド原酒だけで処方した「シングルモルト宮城峡 ピーテッド」を味わってみよう。

宮城峡蒸溜所は、バルジ型ポットスチルでスチーム間接加熱蒸溜。スチル内での還流が起こりやすく、蒸気と銅の接触が多い。そのため通年商品の「シングルモルト宮城峡」は、華やかで穏やかな香味が特徴だ。

まずは復習を兼ねて、通年商品からテイスティングしてみる。ガイドしてくれるのは、今回の数量限定商品を処方したニッカウヰスキーチーフブレンダーの尾崎裕美氏である。

「シングルモルト宮城峡の香りには、りんごや洋梨のようにフレッシュなフルーツ香があります。甘く華やかな花の香りや、樽由来の柔らかなバニラ香もあり、おだやかな印象ですね」

華やかな風味は崩さずに、ピーテッド原酒でキリッと引き締めた宮城峡の新境地。かすかなスモーク香は、牡蠣の燻製やナッツ類などと相性がいい。

口に含むと、シェリー樽熟成の影響を感じさせるドライフルーツのような甘味がある。加水するとエステル香がさらに花開き、麦の甘さとほのかなビター感が鼻に抜けてくる。いつもの穏やかで複雑な宮城峡だ。

そして今度は、いよいよ限定商品「シングルモルト宮城峡 ピーテッド」の番だ。グラスから立ち上がる香りには、通年商品と微妙に違うニュアンスが漂っている。尾崎氏が説明する。

「香りには、やはり宮城峡らしい華やかさがあります。そして蜂蜜や熟した果実のように濃厚な甘さ。樽のウッディーな感触もあり、バニラやシナモンがピート香と調和しています。ピートの主張が強いわけではありませんが、全体の輪郭をピリッと引き締めている印象ですね」

ピーテッドという割には、意外にピート感が抑え目なのか。そう思って口に含んでみると、宮城峡らしい甘味とともに明確なピートの風味がじんわりと広がっていく。これは驚きの変化だ。余韻は長く、キリッと引き締まったピート感にビターチョコのようなほろ苦さもある。

「水を少し加えると、アルコールに溶けやすい香味成分が解き放たれていきます。華やかなエステル香と一緒に、ピートの主張がさらに押し出されてくるのを感じてください」

トップから余韻まで、流れるような抑揚がある。だが全体の印象は、あくまで宮城峡らしくエレガント。ピートと調和した宮城峡モルトの芳醇な甘味や、しっかりとしたボディ感を表現している。先入観を覆しながらも、絶妙なバランスを達成した驚くべき宮城峡だ。

「ノンチルフィルターの品質に最適化するため、48%という度数を選択しました。ストレートで味わうときは風味が凝縮されていますが、水を加えることでピート香や宮城峡らしい華やかさが一気に開いて意外な驚きがあるのです。だからストレートで味わった後は、ぜひトワイスアップなどで変化を楽しんでみてください。オンザロックなら、ドライフルーツのような甘さが際立って、ピートの余韻が濃く感じられますよ」
 

30年以上前から始まっていた実験

 

尾崎氏によると、通年商品の「シングルモルト宮城峡」にも、ライトピーテッド原酒が使用されている。だが今回のように、ピーテッド原酒だけで宮城峡のレシピを組むのは初めての試みだった。特にヘビーピーテッド原酒のストックはごく少量だったという。

「宮城峡モルトの知られざる魅力をお届けしたい。そんなテーマにふさわしい原酒として、まずはヘビーピーテッド原酒に注目しました。宮城峡らしさを備えつつ、しっかりピートを主張するこの貴重な原酒を使えば、かつてないシングルモルト宮城峡が表現できると思ったからです」

今年3月からニッカウヰスキーのチーフブレンダーを務める尾崎裕美氏。ピーテッド原酒による意外性を演出しつつも、あくまで宮城峡らしいエレガンスを維持しようと苦心した。

宮城峡がもともと持っているエレガントなキャラクターは残したまま、ピートの特性を付与していこう。そう考えた尾崎氏は、まずライトピーテッド原酒だけで基本のレシピを組み上げ、希少なヘビーピーテッド原酒を追加しながらバランスを模索した。

「あまりピートを強調しすぎると、本来の宮城峡らしさが崩れてしまいます。ピートで味覚がしびれるので、バランスを見つけるまで日を変えて何度も検討を重ねました」

いちばん古い原酒は80年代後半のものだというから、酒齢が30年を超える。当時なぜ宮城峡蒸溜所でヘビーピーテッド原酒をつくり始めたのか、その具体的な意図は尾崎氏にもわからないという。

「ニッカの蒸溜所では、『いつか後世のブレンダーが使ってくれたら』という期待を込めて、さまざまなタイプの原酒を貯蔵しています。このような原酒のバリエーションが、品質の維持や新しい香味の開発に役立つからです。2つの蒸溜所には、先人たちが撒いた試行錯誤の種が眠っています。今回の限定商品は、こうした原酒の存在を念頭に、さまざまなアイデアを練るなかで生まれてきました」

「シングルモルト余市 ノンピーテッド」の処方を担当した主席ブレンダーの綿貫政志氏も語る。

「余市と宮城峡では、同じ原材料でも違う原酒ができます。だから宮城峡で始めた実験は、余市でもやってみたくなるのでしょう。今回の数量限定商品は、そんなニッカらしい資産を生かした成果でもありますね」

「シングルモルト宮城峡 ピーテッド」のボトルデザインは、ラベル帯とキャップシールにアースカラーを採用している。これも通常の爽やかな宮城峡のイメージと一線を画し、ピートをイメージした新境地だ。

先入観を覆すような2つの数量限定商品は、思いがけない「余市らしさ」や「宮城峡らしさ」に気づかせてくれた。だがそれぞれの本質はまったく失われていない。その実験精神とブレンディングの妙には、ただ驚嘆するばかりだ。ここにも2つの蒸溜所を建設し、多様な原酒でウイスキーづくりに生涯を捧げた竹鶴政孝のDNAが生きている。

「NIKKA DISCOVERYシリーズ」の数量限定商品は、9月28日に発売される。店頭やバーで見つけたら、ぜひ通年商品との比較テイスティングを楽しんでみよう。シングルモルトウイスキーの奥深さや、ニッカウヰスキーの精緻なブレンディングを堪能できるのは間違いない。

 

シングルモルト余市
ノンピーテッド

アルコール分:47%

シングルモルト宮城峡
ピーテッド

アルコール分:48%
容量:瓶700ml
発売日:2021年9月28日(火)
価格:20,000円(税抜)
販売数量:各10,000本

 

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