酵母のアロマが華やぐニッカの限定シングルモルト【後半/全2回】

September 23, 2022

「シングルモルト宮城峡 アロマティックイースト」には、発酵時の工夫から生まれた完熟のフルーツ香が宿っている。ユニークな個性の統合は、「NIKKA DISCOVERYシリーズ」の真骨頂だ。

文:WMJ

 

今年の「NIKKA DISCOVERYシリーズ」は、「アロマティックイースト」がテーマ。だが「宮城峡」には、もともとエレガントで穏やかなアロマのイメージがある。アロマにアロマを重ねた限定品は、いったいどんな味わいなのだろう。テイスティングをガイドしてくれるのは、処方を担当した主席ブレンダーの渡邊健太郎氏だ。

限定品と通年品を比較してみると、どちらにも軽やかなフルーツ香がある。だがその質感は少し異なっているようだ。口に含んでみると、ますます違いは明らかになる。どちらもフルーティだが、限定品には完熟のアプリコット(杏)を思わせる魅惑的な香味が感じられるのだ。

「宮城峡モルトのエレガントな華やかさを活かしつつ、熟したアプリコットのような香りがほのかに重なるウイスキーです。濃厚な果実の甘さがモルトのコクと調和し、柔らかなモルトと程よいピートも感じられます。そんなスピリッツの個性が、バランスの取れた樽香に包まれています」

多くのブレンダーが敬遠するほど個性の強い原酒も使用し、これまでにない豊かな果実香を表現した渡邊健太郎氏(主席ブレンダー)。宮城峡らしいバランスも守るため、処方の構築で試行錯誤を繰り返した。

このアプリコットのような香りこそ、発酵の違いから生まれた特別な個性なのだと渡邊氏は説明する。ある単一の原酒が、このユニークな特徴を生み出した。だがその原酒は、ずっと取り扱い注意の問題児でもあったようだ。

「もう20年以上前に、開発部門の要望で発酵を工夫した変わり種の原酒です。蒸溜直後から甘ったるい香りが突出しており、個性が強すぎてブレンダーに敬遠されていました。酒齢が20年を超えてもその個性は健在で、濃密なフルーツ香も衰えていません。あまりにも個性が尖っているので、今回の処方でも賛否両論があったくらいです」

シングルモルトウイスキーの処方には、高精度の一貫性が求められる。そのため逸脱した個性を持つ少量の原酒は、いつ来るかもわからない出番をじっと貯蔵庫の片隅で待ち続けなければならない。問題の原酒も、長年にわたってそんな境遇にあった。

「熟したアプリコットのような果実香はとても珍しく、今こそ活用するチャンスだと思いました。でも強烈なアロマを出しすぎると、宮城峡らしい華やかさを損ねてしまいます。何十回にも及ぶ試行錯誤の末、やっと香味を統合できるポイントが見つかりました」

アルコール度数47%は、このアプリコット風味がいちばん輝ける度数。樽香がスピリッツの個性を隠さないように、古樽を多めにしてシェリー樽の比率も減らした。ヘビーピート原酒も、果実感を邪魔しない程度に留めているのだという。

おすすめのフードペアリングは、意外なことにビーフジャーキーやサラミ。濃厚なフルーツ香を塩気が引き立てるからだ。特にビーフジャーキーは、牛脂の甘さと果実味が驚くほどマッチする。

「あの個性的な原酒に出会えて本当によかったと思います。取り扱いが難しい原酒でしたが、ブレンダーにとってはありがたい存在。宮城峡らしさを保持しながら、アロマティックイーストの名に相応しい香味が表現できました」

濃厚な果実味が、モルトの柔らかなコクと繊細に調和する。ピート香や樽香とのバランスも楽しみながら、酵母が生み出したマジックを満喫できる特別なウイスキーだ。
 

ウイスキーの個性を広げる酵母のバリエーション

 
酵母は不思議な微生物である。その働きは目に見えないが、ウイスキーの香味に決定的な影響を及ぼす。造り酒屋で育った竹鶴政孝は、そんな酵母の重要性を知り抜いていた。さまざまな酵母株を独自に収集し、培養しながら原酒づくりに生かす。約90年に及ぶ試行錯誤が、ニッカの底力になってきた。

熟成以前のスピリッツづくりに焦点を当てた「NIKKA DISCOVERYシリーズ」は、2024年のニッカ創業90年に向けたカウントダウンでもある。多彩な原酒のつくり分けを通して、ウイスキーづくりの奥深さに触れられるチャンスだ。

余市蒸溜所にも、宮城峡蒸溜所にも、限定品「アロマティックイースト」に使用されたような個性の強い原酒がある。ブレンダーはそんな樽の存在を密かに意識しながら、切り札として活かすチャンスを待っているのだという。「余市」の限定品を処方した主席ブレンダーの綿貫政志氏は語る。

「ひそかに狙っている樽はまだたくさんあります。NIKKA DISCOVERYシリーズは、普段ならできないクリエイティブな処方が堂々とできるチャンスですね」

まだ未知の部分も多い酵母の作用を解き明かすため、ニッカの開発部門はさまざまな実験を蒸溜所に提案してくる。このような発酵時の実験が、長い時間を経て実を結ぶ奇跡。そんな喜びを分かち合えるのも、「NIKKA DISCOVERYシリーズ」の醍醐味である。

今年もパッケージが美しい。ラベルを彩るのは、「余市」と「宮城峡」それぞれの香りをイメージしたカラー。色調が変化するグラデーションは、酵母のアロマが香り立つイメージを表現している。

「NIKKA DISCOVERYシリーズ」の第2弾は、9月27日(火)に発売される。国内の販売数量は各10,000本だ。店頭やバーで見つけたら、酵母の天使が采配するウイスキーの神秘を楽しんでみよう。

 

シングルモルト余市
アロマティックイースト

アルコール分:48%

シングルモルト宮城峡
アロマティックイースト

アルコール分:47%
容量:瓶700ml
発売日:2022年9月27日(火)
価格:各20,000円(税抜)
販売数量:国内各10,000本(海外各10,000本)

 

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