ウイスキー初心者でも、名前とラベルくらいは知っているはず。シングルモルトを愛する著者が、スコッチ入門に最適なブレンデッドウイスキーを紹介する2回シリーズ。

文:ティス・クラバースティン

ウイスキー関連メディアが、日々発信する話題はシングルモルトが中心だ。その割合を分析すると、実に約90%もの情報がシングルモルトウイスキーに関するもの。ウイスキーファンの受信箱には、マッカラン、タリスカー、アバフェルディなどの新しいシングルモルト情報が山のように届ていることだろう。テイスティングイベントやウイスキーフェスティバルでも、賞賛の対象になっているのはシングルモルトウイスキーだ。

シングルモルトの魅力を称賛する個人アカウントは、SNSにも溢れかえっている。だがそれに比べて、ブレンデッドウイスキーの話題はあまり見かけることがない。あまりウイスキーに詳しくない人が、「シングルモルトはブレンデッドよりも美味しい」と自信たっぷりに言うのを何度も聞いたことがある。

スコッチウイスキー業界の売り上げは、今でも約9割がブレンデッドウイスキーによって支えられている。お手頃で飲みやすいウイスキーは、スコッチの魅力を知るゲートウェイとしても最適だ。

だがスコッチウイスキー業界の実態を分析すると、全体の売上に占めるシングルモルトウイスキーの割合はわずか10〜11%である。これでも以前よりはずいぶん増えたのだが、いまだ相対的に小さいことに変わりはない。この現実を踏まえて考えると、シングルモルトの偏重とブレンデッドウイスキーの軽視はいびつなくらいアンバランスだ。ウイスキー業界の歴史やメーカーの経営戦略を考えても、ブレンデッドウイスキーは軽視されすぎである。

そもそも大半のウイスキーファンは、ブレンデッドウイスキーを楽しんできた時期もあるはずだ。私自身も、まだ知識がない時代に買ったウイスキー銘柄といえばジョニ黒やバランタインだった。ディンプル15年を初めて口にしたときのうっとりするような耽溺は忘れられない。初めて自分で買った高額なウイスキーは、シーバスリーガル18年だった。近所の酒屋で、棚の一番上に置かれていたのを鮮明に憶えている。たった1本のお酒のために、こんな大金を使っていいのだろうか。そんな不安にドキドキしたが、家で開栓した瞬間から報われた思いがした。

ブレンデッドウイスキーは、スコッチウイスキー業界の屋台骨である。スコッチウイスキーの世界的な名声は、アレクサンダー・ウォーカー、トミー・デュワー、マシュー・グローグ、ウィリアム・ティーチャーらによって土台を築かれたといってもいい。歴史あるブレンデッドウイスキーのブランドは、今日に至るまでウイスキー業界の屋台骨だ。古くからあるブレンデッドウイスキーは、ウイスキー事業を根底から支え、世界的な販路拡大への道を切り開いた巨人たちである。

シングルモルトウイスキーの名声は、有名なブレンデッドウイスキー銘柄が築いた土台の上に成り立っている。正直に言えば、私のキャビネットに並んでいるウイスキーの大半がシングルモルトだ。だが振り返ってみると、ブレンデッドウイスキーはウイスキー天国への入り口だったといえる。

この2回特集で紹介するのは、今さら紹介の必要がないほど有名な銘柄ばかりだ。だがブレンデッドウイスキーの巨人たちに、ここであらためて敬意を表したいと思う。
 
 

ホワイトホース

 

ホワイトホース

ピーター・ジェフリー・マッキーは、同僚たちに「レストレス・ピーター」と呼ばれていた。休みなく働き続ける男として驚嘆され、ロバート・ブルース・ロックハート卿は「3分の1の天才、3分の1の誇大妄想狂、3分の1の奇人」と表現している。マッキーがホワイトホースを商標登録したのは1891年のこと。このブランド名は、マッキー家が17世紀にエディンバラで創業した「ホワイト・ホース・セラー・イン」にちなんでいる。マッキー家は当時からモルトウイスキーの製造にも携わっており、それがアイラ島のラガヴーリン蒸溜所だった。

創設から1世紀以上経った今でも、ホワイトホースはブレンデッドウイスキーのブランドとして高い認知度を保っている。誰でも知っている巨人ブランドではないかもしれないが、それでも世界中の国や地域で購入可能だ。モルト比率が比較的高く、ラガヴーリンらしいピート香がある。近年になって、20世紀半ばのオールドボトルがオークションで高値を付けるようになった。この時期のホワイトホースには、ラガヴーリンだけでなくクライゲラヒ、クラガンモア、モルトミルなどの原酒が含まれている可能性が高い。ちなみにモルトミルは、マッキーがラフロイグに挑戦すべく設立した蒸溜所。だがアイラ島内での競争は激しく、ラガヴーリンに吸収される形で幕を下ろしている。
 
 

ティーチャーズ

 

ティーチャーズ

ウィリアム・ティーチャーは、重厚壮大なタイプの事業経営者だった。スコッチウイスキー業界の創業者には、珍しいタイプかもしれない。一時はグラスゴーで最大の酒類販売業社となり、労働者向けのパブを18軒も所有していた。かなり時代を先取りしたブランディングのバーで、バーテンダーたちは詳細なマニュアルを忠実に守ってドリンクを提供した。当時としては画期的な禁煙の店であり、何杯もお酒をおかわりするのは禁止。マナーの悪い酔客には容赦がなかった。徹底して原則を守るポリシーは、ブランドの運営について時代を先取りしていたといえるだろう。

現在はビームサントリーの傘下となり、元祖スコッチウイスキーのようなイメージは後退している。しかしその品質はあくまで堅実だ。ベストセラー「ティーチャーズ ハイランドクリーム」のモルト比率は45%で、一般的なブレンデッドウイスキーよりもかなり高い。スモーキーな香りは、ウィリアム・ティーチャー&サンズがハイランドで1898年に設立したアードモア蒸溜所のおかげである。ピートの効いたモルトウイスキーの個性を体験するには、初心者にとっても格好のブレンデッドウイスキーなのだ。

次回は残りの5銘柄をご紹介。