Italian Legend ― 進化するサマローリ【前半/全2回】
イタリアでユニークなボトルを輩出し続ける独立系ボトラーズ、サマローリ。先月創業45年を迎え、記念イベントを開催した。同社のボトリング方針に迫る。
9月中旬、アメリカからアジアを回る長いツアーの間に来日したサマローリ社 セールスマネージャー フランチェスコ・サヴェリオ氏と、マスターブレンダー アントニオ・ブレーヴェ氏にお話を伺った。
――本日はお忙しい中お時間いただきましてありがとうございます。
日本にもサマローリファンは大勢いらっしゃいますが、製品以外の情報には詳しく触れることはなかなかありませんので、まず貴社の歴史についてお聞かせください。
フランチェスコ氏 サマローリ社は1968年、シルヴァーノ・サマローリ氏が創業しました。同じように古くからあるボトラーズではゴードン&マクファイルやケイデンヘッドが知られていますが、スコットランド以外の国では最古のボトラーズです。当時イタリア人がウイスキーのビジネスを始めるというのは少し変わっていると思われたようですね。しかしサマローリ氏はスピリッツが熟成して良いウイスキーになる、その過程を待つことを厭わない性格でしたし、その頃シングルモルトはまだ世界的にはそれほど出回っていませんでしたから、徐々にユニークなボトラーとして認知されてきました。
サマローリ氏は創業以来全て一人でやっていましたが、2001年頃から販売等の業務を他のスタッフに任せて製品開発に専念し始め、2005年には後継者を育てることを思い立ちました。アントニオと彼の父はサマローリ氏と親交が厚くビジネスでも良好な関係を築いていたので、アントニオはサマローリの一員として製造に携わることになりました。そして私はマーケティングやセールスを担当しています。社員4人の小さな会社ですが、うまく機能していると思っていますよ。
――4人ですか! ここまで有名なボトラーズとしては本当に少人数ですね。年間どのくらいのボトルをリリースされているのでしょう?
フランチェスコ氏 年間のリリースはだいたいウイスキーが15,000本、ラムも同量程度です。
――樽はどこに貯蔵しているのですか?
フランチェスコ氏 スコットランドのあちこちですね。蒸溜所から出せない樽はその蒸溜所の貯蔵庫で、他に自社の貯蔵庫で熟成しているものもありますし。現在は200~300ほどの樽を保有しています。ラムもスコットランドで熟成していますよ。
――ラムも!? それはなぜでしょう?
フランチェスコ氏 スコットランドは熟成に適した環境だと思っていますので。「カリブ海のエリアで6年熟成したものはスコットランドで20年熟成したものに相当する」と言われるほど暖かい土地のほうが熟成は早いですし、時間をかければかけるほどコストもかかりますから、早く熟成したほうが都合はいい(笑)。それでも原酒の品質が一番ですからね。
カリブで熟成したものとスコットランドで熟成したものは、見た目には同じですが味や香りは全く違います。カリブのものは少し苦味や塩気があり、シャープです。スコットランドのものはスムースでシルキー、ふっくらとしたボディが感じられます。これは好みの問題で、どちらが優れているというものではありません。ただ、私たちはこのスタイルをとっているというだけです。
――それが「サマローリのラム」ということですね。ではボトリングもスコットランドで行うのですか?
フランチェスコ氏 そうですね、ラベリングも全てです。デザインはこちらで行ったものを、現地で貼っています。洋服と同じですね…スコットランド製の生地を使って、イタリアでデザインして縫製すると最高の洋服ができるでしょう?原酒は100%スコティッシュですが、それ以外にはイタリア風のアレンジをしています。
――なるほど!それは面白い例えですね。
ボトラーズの重要なポイントとして「ボトリング時期の見極め」があると思いますが、どのような基準で選ぶのでしょう。シングルカスクでもブレンドでも、それぞれ非常に難しいと思いますが。
フランチェスコ氏 その質問はアントニオの方が適任かな?彼はプロダクション側の人間ですから。
アントニオ氏 そうですね、まず私が教えられたことはそれぞれの原酒の「寿命」を知り、いつその原酒が最高の時期を迎えるかを見極めることです。これはサマローリ氏の長い経験から知り得たもので、私はそれを学んでいる最中です。またブレンディングには若い原酒の持つパワーも必要ですから、熟成年数の短い樽でも今がベストと思うものを選び出すこと、あるいは10年後20年後にどうなるかを予測してもっと熟成させるという選択をすることも重要です。
フランチェスコ氏 サマローリ氏はよく「ウイスキーは天気みたいなものだ」と言います。予報通りにはなりませんし、非常に変わりやすい。ある人は晴れだと思っても、ある人は曇りだと思う…そのなかで、自分の経験を生かしてベストの時を見極める。感覚を研ぎ澄ませることがとても大事ですね。
【後半に続く】