シェリーには長い歴史もあるが、そのバラエティーも豊富だ。ウイスキーとの出会いは、ヨーロッパやアメリカの交易史と密接に関連している。今回はシェリーの定義と熟成について。

文・写真:クリストファー・コーツ

 

前回の記事では、シェリーの歴史をひと通りおさらいした。だが結局のところ「シェリー」とは何物なのだろうか。ウイスキー愛好家の皆さんには、おそらく「スコッチウイスキー」と似たような定義であると説明すればいいのかもしれない。「シェリー」も「スコッチウイスキー」も、共に特定の地域内で厳格な規制に則って生産された飲料のことを指すが、そこに特定のスタイルや風味構成などは規定されていない。

シェリーと呼ばれるには、まず約7,000ヘクタールの特定地域内で栽培されたブドウから造られたワインでなければならない。この特定地域はヘレス・デ・ラ・フロンテラ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリア、サンルーカル・デ・バラメダ、トレブヘナ、チピオナ、ロタ、プエルト・レアル、チクラナ・デ・ラ・フロンテラ、レブリハと各所に点在している。

また原料のブドウは、統制委員会が適切であると認めた土地の上で栽培されなければならない。ブドウの生産地だけでなく、2つ目の地理的限定として「貯蔵および熟成の地域」も規制の対象となる。許されるのは、ヘレス・デ・ラ・フロンテラ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリア、サンルーカル・デ・バラメダを結ぶ有名な「シェリーの三角地帯」の中だけだ。

3つ目の地理的限定は、マンサニージャ・シェリーのみに関する規制である。マンサニージャの熟成は、海沿いのサンルーカル・デ・バラメダのみに限られる。この地域では他のブドウ品種も栽培されているものの、パロミノ、ペドロヒメネス、モスカテルという白ワイン品種のいずれかを使用した酒精強化ワインだけがシェリーと呼ばれる。

バシマ・ボデガでスタッフがシェリーをグラスに注ぐ。その傍らには、イアン・マクロード・ディスティラーズ社のためにシーズニング中の樽が並んでいる。

シェリーは最低でも2年以上熟成しなければならないが、実際にはほとんどのシェリーがもっと長い時間をかけて熟成されている。熟成による変化は酸化や嫌気性微生物の働きによるもので、そんな微生物の代表がシェリーの表面に層をなすフロール酵母である。

酸化や微生物による熟成は、木樽の中で起こる。ここでウイスキー愛好家にとって特筆すべき点は、木樽が純然たる容器として使用されているということだ。ウイスキーメーカーとは異なり、シェリーの生産者は熟成工程中に樽からの影響が加わることを好まない。そのためシェリーを単一の樽で「静的」に熟成する際も、伝統的なソレラシステムで樽を移し替えながら熟成する際も、使用する樽材がワインに活発な影響を及ぼすものであってはならない。

特に避けたいのが、フロール酵母の活動を阻害してしまうタンニンだ。どんな種類のシェリーでも、タンニンを感じさせる風味要素が引き出される事態は避けている。タンニンの多いスパニッシュオークよりも、地元産の松材や栗材などが好まれる傾向が昔からあった。現在シェリーの熟成にもっともよく使用されているのは、アメリカンオーク材で造ったシェリーバットである。何世紀にもわたるスペインと南北アメリカ大陸との交易によって、使用済みの安価なアメリカンオーク材がアンダルシア沿岸まで運び込まれてくるようになったからこそ隆盛した習慣だ。

 

ウイスキーにはあまり使用されないソレラ樽

 

シェリーの生産に用いられる有名なソレラシステムは、徐々にフレーバーを集中させていくことを目的としてブレンディングを分割する工程である。一番下の列に配置された平均熟成年の長いワインが「ソレラ」と呼ばれ、そこから定期的にワインが樽出しされてボトルに詰められる。

樽は幾層にも重ねられるが、この層をクリアデラ(養成所)と呼び、各層の平均熟成年は均一になっている。年に何度か決められた時期に一番下のソレラ樽からボトリングのためにワインが取り出されると、すぐ上の樽からソレラ樽にワインが注ぎ足される。これを一番上の段になるまで順番に繰り返し、一番上の樽には最近収穫されたブドウを醸造した新しいワイン(ソブレタブラ)が加えられる。一度に移動させるワインの量は、樽内のワインの3分の1を超えてはならないというルールが一般的だ。この工程は年に何度も繰り返されることが多いものの、厳密な工程についてはメーカーごとに異なり、生産するシェリーのスタイルによっても違いがある。

「ボデガス・バロン」にある古いソレラ樽。いかにもシェリー樽熟成のイメージをかきたてる存在だが、このような希少な樽が実際にウイスキーの熟成に使用されることは稀である。

シェリーのボデガに新樽を導入する際は、樽の影響が出すぎないように効力を中和させて、シェリーの熟成に順応できるようにするための工程がある。この工程はとても時間がかかるので、どうしても必要な時以外は新樽の使用が避けられている。そのため樽は実際に割れてしまうまで使い込まれ、樽全体の寿命を伸ばすために樽板1枚単位で交換が繰り返される。

ボデガの樽が長寿であることを示すエピソードを紹介しよう。今回の取材で立ち寄ったサンルーカル・デ・バラメダの「ボデガ・バロン」は、約400年にわたってワインを造ってきた歴史がある。ビジターは現役で使われている古樽を目にすることになるが、オーナーいわく150年以上も使用されている樽があった。この樽の樽板は、1本の栗の木から造られたものだという。

以上の事実から推測できるように、ボデガが貴重なソレラ樽を手放すのは極めて稀なことである。したがって、スコッチウイスキーのメーカーが自社製品を熟成するために伝統的なシェリー樽を調達するのは、歴史的にみて一般的な方法ではなかった。

何年にもわたって、多くのスコッチウイスキーメーカーがソレラ樽の写真をマーケティングに使用してきた。だがソレラ樽は、疲れ果てて木の香も授けられず、産地にも一貫性がなく、しかも数が限られている。いわゆるシェリー樽熟成として多くの人に愛されているウイスキーに、このようなソレラ樽はまず使用されていないという事実を認識しておこう。
(つづく)