スウェーデンに旗を掲げて【前半/全2回】

November 15, 2013

スウェーデンは常にウイスキーと真剣に取り組んでいる。そして今は、真に誇れる自国の蒸溜所がある。マクミラ蒸溜所を訪問した。

Report:ドミニク・ラスクロウ

まるでジェームズ・ボンドの映画を見ているようだ。断続的に光が差し込むまっすぐに続くモミの木の並木道を通る。ストックホルムの北への旅は夢のようにすばらしかった。
早朝のフライトによるけだるさと薄明かりがあいまって、光景は夢うつつで極楽のように見えた。

我々は北への長い道のりを進み、それから蒸溜所へと向かうメインロードと呼ばれる道に入り、その後坑道のような小道を辿った。それは実際、鉱山の坑道そのものだったのだ。
我々が進んだ道は山の中腹を切り開いたもので、鉱坑への入り口を覆う巨大な金属製の扉へ付いた頃には、もやは道とは言えない状態になり車を止めた。大型トラックが充分に通れるほど大きな扉だ。

岩を通って絶え間なく流れ出る水を汲み上げるポンプが備えつけられていた。ひんやりと湿気を帯び、人工的な明かりに照らされた地下は、あたかも地下活動のスパイ基地、または地下研究所のようだった。

もし、アメリカ人がブルイックラディ(“Single Malt Odyssey” ブルックラディ ジム・マッキュワン氏インタビューを参照)とうまくいっていなかったとしたら、このような蒸溜所を作ったに違いない。なんとすばらしいことだ。

マクミラ蒸溜所にようこそ! 世界でも最も珍しいと言える熟成庫を所有し、資源を無駄にしない好例でもある場所だ。今にわかるだろうが資源の豊富さだけが、奇妙で風変わりなスウェーデンスタイルのウイスキーづくりに貢献しているわけではない。廃坑に設置したことが大きな意味を成す。涼しい気温は一年中通して常に保たれ、数多くの通路はカスクを貯蔵するための型にはまらない自由なスペースを提供してくれる。そして安全性も高い。ビジターへのもてなしも含め、訪れる価値のあるところだと思う。

マクミラ蒸溜所を陰で支えているスタッフにとって、ビジターは重要だ。個人の顧客にスモールカスクを数多く販売しているため、定期的に顧客が立ち寄ってくれる。

廃坑が、ウイスキーに何らかの影響を与えている。湿った鉱山がもたらす味わいがお好みでなくても落胆しないでいただきたい。スウェーデン南部や、海岸地方、ストックホルムの中心地にある島でカスクを保管することだって可能だ。

すべては十数年前、休暇中の深夜にウイスキーを飲みながら交わされた会話から始まった。結果的に、偉大なるスウェーデンのサクセスストーリー(全世界で話題となり始めている数百万クローネのビジネス)をもたらした。

特筆すべきは、第1にスウェーデンウイスキーとスコッチウイスキーを比べることは無意味ということである。マクミラは他とは異なり、「こういうもの」として正しく評価されるべきである。第2に蒸溜所の歴史は浅く、そのウイスキーも然り第3に生産高は未定で行き当たりばったりの状態である。

しかし若いオリーブや熟しきっていないブドウの味をテイスティングしているようなものだと考えれば、マクミラがしていることは多くの賛同を得られるだろう。マクミラは過去に発売した2種の“プレリューディアム”によって、足がかりを見つけたことを示唆している。実際、マクミラが初めて正しく評価されたボトル“ザ・ファースト・エディション”は優れた逸品だ。文字通り蒸溜所の新しい時代の到来を目の当たりにすることができるなんて、なんとすばらしいことだろう。

マクミラは、ストックホルムから北へ90分ほど行った同名の古い工業都市を本拠地とし、現在30名ほどの従業員を抱えている。売上高は3,000万クローネを越え、1998年3月、休暇でサレンにスキー旅行で訪れたスウェーデン人のエンジニア8名で興した会社としては、まずまずの成績だろう。

「各人がバーに酒を持ち寄ることが習慣だった」
マクミラ社の社長であり、創業者のひとりであるマグナス・ダンダネルが言う。「あの年、我々8人すべてがモルトウイスキーを持ち寄ったのだ。そこで、なぜスウェーデンウイスキーがないのか、ウイスキー製造を我々に踏みとどまらせるものは何かという話になっていった」

我々の多くは1、2杯のお酒で人生を変えることができたらとか、夢を追い求める空想に耽る。しかし、実際に何人が実行に移すだろう。グループの内のひとりかふたりの根気強さのお陰で、成立したというわけではないのだ。ここに新しいビジネスの種が形成された。それから1年以内に8名のウイスキー愛好家が計画を実行に移し、大規模な資金繰りなしにモルトウイスキー製造の準備を整えた。

「銀行やどこか他のところから、資金調達しようとは思わなかったよ。なぜなら、インターネットブームの中にいて我々は皆ローテクな考え方だったので、成功するという根拠はどこにもなかったからね」とマグナスは語る。

「しかし事業を始めてみると、グループには様々な技術を持った人々がいたので、結果として多くの資金を節約することができた。もしうまくいかなくても、各人1樽ずつ持って帰るに充分なウイスキーをつくればいいという想いだったから、このプロジェクトは私たちに十分な利益をもたらすだろうと考えていたんだ

→後編へつづく

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