ウイスキーの新天地、タスマニア【後半/全2回】

March 18, 2017

九州よりも大きく、北海道よりは小さな面積に、52万人が暮らすタスマニア。この静かな島で産出されるウイスキーには、世界のウイスキーを少しずつ変えていく潜在力がある。主要蒸溜所、ボトラー、新進のマイクロディスティラリーの現況をフィリップ・モーリスがガイド。


文:フィリップ・モーリス

 

現在、タスマニアでは9つの蒸溜所がウイスキーの生産とボトリングに従事している。それに加えて、新しい4つの蒸溜所(コーラ・リン、ファニーズ・ベイ、ローンセストン、スプリング・ベイ)で、樽詰めされたスピリッツが熟成完了のときを待っている。さらにはブルニー島やキング島など、さまざまな場所で開業準備中の蒸溜所もある。すべて含めると、全部で17軒の蒸溜所がタスマニア州で活動中だ。事業がもれなく成功する保証はないが、タスマニアンウイスキーの未来は極めて明るいと見ていいだろう。

蒸溜所に加えて、独立系のボトラーも2社ある(ハートウッド、トラッパーズ・ハット)。古株の蒸溜所からカスクを購入する業態だが、現在は入手が困難になったクレイドル・マウンテンのウイスキーを復活させているのは興味深い。オリジナルの風味を再現するため、最新技術やコーラ・リン蒸溜所との戦略的な協働も役立っている。

市場におけるタスマニアンウイスキーは、まだまだ成長の途上にある。実際にテイスティングしたい方は、やはり現地を訪れるのがいちばんだ。一度にほぼすべてのバリエーションを楽しく味わえる便利な店を2つ紹介しよう。ひとつはブルニー島(ホバートからフェリー込みで1時間ほど)にある「ハウス・オブ・ウイスキー」。もうひとつはタスマニア北西岸の美しい町スタンリーにある「エンジェルズ・シェア」である。

有名なタスマニア産のウイスキーといえば、ラーク、オーフレイム、サリヴァンズ・コーヴあたりが有名だ。だが新風を巻き起こしそうな蒸溜所は他にもある。北部のバーニーの町にあるヘリヤーズ・ロードは、生産量と流通範囲においてタスマニア最大のメーカーだ。またタスマニアのハイランドと呼ばれるボスウェル近郊にはナント蒸溜所がある。ジム・マレーの「ウイスキーバイブル」で「リキッドゴールド」に認定された注目すべきタスマニアンウイスキーのひとつだ。

 

注目すべき小規模蒸溜所

 

ケイシー・オーフレイムが設立したオールド・ホバート蒸溜所の貯蔵庫では、「オーフレイム」の原酒がボトリングを待っている。ジム・マレーも高く評価したタスマニアを代表するモルトウイスキーのひとつだ。

小規模ながら魅力的な蒸溜所もたくさんある。なかでも注目したいのは、ピーター・ビッグネルが設立したベルグローブ蒸溜所だ。蒸溜所併設の農場で大麦とライ麦を栽培しており、収穫、製麦、蒸溜、樽熟成、ボトリングをすべて現地の手作業でおこなっている。農場や蒸溜所で使用されている燃料は、近隣にあるフィッシュ&チップスの工場から出る使用済み調理油だというから驚きだ。ウイスキーづくりに使用される水は、農場や蒸溜所の屋根に溜まった雨水である。さらに蒸溜工程で生じる残り滓などは、ピーターの農場で家畜の餌になる。その餌を食べた家畜の糞は、来年のライ麦の肥料になるという。地球にやさしいウイスキーづくりの模範例である。

また2013年に設立されたレッドランズ蒸溜所は、2016年に新拠点へと移転した。現在はケンプトンの町にある美しい建築物、ダイサートハウスの中にある。初めてのボトリングは、好評を持って迎えられた。新しい場所からリリースされる第2弾が、ファンの期待を超えられるものとなるかどうか注目である。

マクヘンリーズ蒸溜所は、ポートアーサーの町にある。町は1996年の不名誉な事件で有名になってしまったが、近くにはアーサー山の泉があり、汚れのない湧き水が自然にスチルハウスまで流れ着く恵まれた環境だ。銅製のポットスチルはわずか容量500L。ウォータージャケットを被せてあるが、これはマクヘンリー特有の軽やかなスピリッツを生み出すためだと生産者は力説する。最初のボトリングは、発売後すぐに大好評を博した。

シーン蒸溜所(旧マッキー蒸溜所)は、ここタスマニアでは珍しいアイルランド流の3回蒸溜を採用している。最近移転したばかりで、見事に修復された歴史的建造物「シーン・エステート」が新たな本拠地だ。第2弾のリリースの行方が楽しみである。

さらにタスマニアでは4つの新しい蒸溜所が操業中であり、この先2~3年のうちにウイスキーが発売されることになるだろう。そのひとつがローンセストン近郊にあるコーラ・リン蒸溜所だ。創設者はジョン・ウィールストラで、偉大なウイスキーメーカーにしてコンサルタントでもあるブライアン・ポークも技術面での支援を提供している。ブライアン・ポークは、タスマニアにおけるウイスキー復活の初期に重要な役割を果たした人物だ。

コーラ・リンに期待が集まっている理由のひとつは、過去10年にわたる研究の成果から生まれた新種の大麦「マッコリー」を使用していること。2015年12月に導入されたスチルは、汎用性の高い還流性のコラムスチルで、オーナー自身の監督によって中国で設計と製造がおこなわれた。

他にも周囲の環境に恵まれたファニーズ・ベイ蒸溜所、空港内の便利な場所にあるローンセストン蒸溜所、東海岸にあるスプリング・ベイ蒸溜所など、注目に値するメーカーはまだまだある。

タスマニアンウイスキーの未来は明るい。地元の関心や期待はかつてないほどに高まり、ヨーロッパの専門家たちも高く評価している。さらなる躍進がこれからも楽しみだ。

 

 

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