直火と蒸気 【前半/全2回】
蒸溜に際して加熱方法はどれほど重要なのか? イアン・ウィスニュースキーが聞く。
本誌読者のみなさんならご存知かと思うが、ポットスチルの加熱には2通りの方法がある。
ガスまたは石炭を燃やした炎で外側(すなわちスチルの底部)を熱する直火加熱と、ポットの中に設置したチューブ(管)に蒸気を通して加熱する間接加熱だ。
どちらを選ぶかにはメンテナンス費用の違いなどの実際的な問題が関係するが、加熱方法はニューメイクスピリッツの性質に影響を及ぼすこともある。
従来、直火加熱が伝統的な方法だったが、スコットランドのほとんどのモルトウイスキー蒸溜所は1960年代初期から1980年代中頃の間に間接加熱方式に切り替えた。
この間接加熱方式では、石油かガスを燃料とするボイラーで生成した蒸気を、ポットスチル内の銅またはステンレススチル製のチューブ型コイルに通して加熱する。一般的には4〜5個のコイルを、スチル内側からおよそ30cmのところに固定するが、コイルをスチルの形に合わせることもできる。
コイルの代わりに、「ケトル」(「パン」や「パーコレータ」とも呼ばれる)として知られるステンレススチル製シリンダーを入れる方法もある。加熱には通常4〜5個のケトルを使用し、中央のコイルから小型パイプを分岐させて各ケトルに蒸気を送る。
どちらの方法でも、加熱する装置は蒸溜中の液体の表面より下に「沈んで」いなければならない。
蒸気を使うほうが穏やかに、ムラなく加熱される上、調節も(制御盤から手軽に)バルブの開閉だけで済む。従って、間接加熱はコントロールしやすく、直火加熱よりも手早く希望の温度に変更することができる。
一方、直火加熱では、
「ガスのコントロールはダイヤルを使って調節し、スチルの下の円形リングから出る火力の強さを変えます」とグレンファークラス蒸溜所の元アシスタントマネージャーで、現マーケティングエグゼクティブのイアン・マクウィリアムは言う。
「スチルは外側の表面に沿って底部を囲んでいる円形のレンガ壁に『鎮座』しています。このレンガ壁にはとても目の詰んだ『耐火レンガ』の内層があり、これが熱くなってスチルの下部に熱を反射し、炎の効果を強化しています。その結果、ガスを弱めても耐火レンガが余熱を与え続けることになります」
では、温度を下げたい場合にはどうするのだろう?
「急速に温度を下げるには、『冷風』を送る扇風機を使ってレンガ壁の外側から冷たい風を吹き付ける場合もあります」
石炭はガスよりさらにコントロールが難しいとされている。温度を調整しようとする場合、石炭を炉にくべるペースを増減するか、あるいは炉の扉を開けて空気を取り込み、炎を鎮める必要があるのだ。なんという職人技だろうか!
<後半に続く>