樽が足りない? 【前半/全2回】

January 5, 2015

昨今のウイスキー需要はかつてないほどのブームをもたらしている。だがそれも、世界的な樽不足のために唐突な終焉を迎えるのだろうか?

世界でウイスキーがどれほど値上がりしつつあるか、そしてそれがどれほど急速に進んでいるか、お気付きだろうか?
あるいは、かなりの数の新リリースにもう熟成年数の表記がないこと、そして常に熟成年数と品質を謳い文句にしてきた業界が、180度方向転換していることに?
では、覚悟していただこう。
バックマン・ターナー・オーバードライブの歌詞にあるように、「You Ain’t Seen Nothing Yet」…まだまだ序の口なのだから。

この事態は、2008年にアメリカで発生した不況に端を発する。その影響がミズーリ州の森林に及んだ挙げ句に、今では世界のウイスキー産業の隅々まで響いているのだ。
アメリカがちょっとくしゃみをして、ウイスキー業界は4年後に風邪をひいた。分かりやすく言うと、不況の際に樽の製造を中止したためにバーボン樽がほぼ尽きかけていて、供給が需要に追い付いていないということだ。

「2013年の状況は悲惨でした。今年も同様で、来年もたいして良くなりそうにありません」と世界的なウイスキーの専門家、ジム・スワン博士は言う。
2014年の不足分はおよそ13万樽ですから、ウイスキーブームが終わってしまうほどではないかもしれませんが、相当にペースダウンすることは確かです」アメリカの不況…つまり、その時期にバーボンの需要が減ったのだ。

そこでケンタッキーの巨大な蒸溜所が幾つも減産体制に入り、あおりを受けて二大クーパレッジのインディペンデント・ステイヴ社ブルーグラス社が樽材の買い入れを止めた。
そして、概ね自営業である木こりたちが、仕事を求めてよそに行ってしまった。バーボン産業が復活したからと慌てて彼らを捜しても、見つからなかったというわけだ。

「木材は沢山あります、業界がそのように計画していますから」とスワン博士。「ただそれがアメリカのウイスキー樽用ではなかったのです」
この状況は、夏と冬にひどい悪天候だったことでさらに悪化した。伐木機材が森の中に入れず、木を持ち出すことができなかったからだ。
つまり、たった今、どこかの誰かが世界中を漁り回って木材取引を仲介しようとしているわけだ。手に入る樽は先を争って買われ、映画「マッドマックス」木材版のような「供給を確保するための争い」が起きている。それも相当な、しかも値上がりしつつある値段で。

ケンタッキーの蒸溜所は目下フル稼働していて、クーパレッジは拡張しつつある。木材の供給が問題なくなったため、インディペンデント・ステイヴ社は既に2ヵ所も所有している巨大クーパレッジを新たに1ヵ所増やしている

しかし当然ながら、大きな遅れが生じる。新しい樽にバーボンを詰めたら、その大部分は、アメリカの法律に従って廃棄または再利用される前に4年間熟成されるのだ。
樽を1回しか使用できないという法律はバーボンとテネシーウイスキー全ての製造に共通していて、リフィルカスクからテネシーウイスキーをつくる認可を求める訴訟があったのもそのためかもしれない。まぁ、他にも複雑な事情は多々あるが。

【後半に続く】

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