樽が足りない? 【後半/全2回】

January 12, 2015

 2008年のアメリカの不況を受けて、バーボン樽の不足という問題が起こっている。樽不足がウイスキーブームに歯止めをかけてしまうのか? レポートの後半をお届けする。

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しかし、本当にその問題は深刻なのだろうか? スコットランドでは正反対のことが起きているのだ。ウイスキー産業はやはり拡大している…それも大幅に。
それほど悪い状況なのであれば、ウイスキー生産者はどうやって対応しようとしているのだろう? グレンリヴェット蒸溜所など、4年前の拡張に続いて今度は2,000万リットルという途方もない生産量になる拡張を行うことになっている。

その答えは、大手メーカーは問題が起こりそうだと察知した際に予防措置を講じているし、今ではアメリカの蒸溜業者が生産を強化しているので、バーボン樽の供給不足は5年ほどで解消するだろうということだ。

「スコッチの需要は急増していますし、新たな蒸溜業への投資も巨大ですから、スピリッツを熟成する規模も当然それに比例して増やす必要があります」とベリーブラザーズ&ラッド社のブランドマーケティングディレクター、リーク・テグナーは言う。
「業界は何年も前からこの事態に気付いています。熟成プロセスの理解だけでなく、“最高のウイスキーを熟成するための最高の樽をつくる最高の木を調達する”ことにかけても、エドリントン社が最先端です。グレンロセス蒸溜所はその恩恵を受けていて、同蒸溜所の需要の伸びに応えるために必要なタイプと品質のカスクを確保できる明確な計画と契約を確保しています」

それはディアジオ社にも言える。莫大な購買力に加えて、長期的な関係も持っている。
ペルノ・リカール社も、ケンタッキーの蒸溜所をカンパリ社に売却し、このイタリアの飲料メーカーを通じてワイルドターキーの樽を受け取る10年契約を結んでいる。だが、大手でさえ、手に入るもので賄うことになるだろう。

「ある会社は、自分のところのスピリッツにはどんな木材が適しているかについて意見を述べていますが、最悪の場合、手に入るもので間に合わせるしかなくなるでしょう」とジム・スワン博士は言う。
「蒸溜所を開こうと計画している人はさらに気をつけなければなりません。樽の入手について考えるのは大抵、一番後回しになりがちです。他の原料や資材と同じように業者に注文するつもりでいるでしょうが、業者だって在庫がないのですから」

見通しは暗いが、真っ暗という訳ではない。オークの規則に縛られていない諸国では、実験と革新が生まれそうだ。
オーストラリアはポートワイン産業が盛んなので、ポートワインを入れていたオーク樽を沢山使っている。バーボン樽を使用するというほかに、様々な種類の樽を使用することで、新しい風味を持ったウイスキーが登場する可能性も高い。また、世界中の多くのウイスキーメーカーは小規模なので、前もって供給を確保している蒸溜所も多い。
だが注意しなければならないことは、樽の値上がりが価格に不当に反映する場合と、不適切な樽を使ったウイスキーや適正回数を超えて使用された樽で熟成したものなどが出回る可能性もないわけではない。

「需要が多すぎると、品質は下がります。熟成期間だけでなく、生産量を最大限にするために発酵時間や蒸溜時間までも短縮し、全てを急ぐからです」とスワン博士。
もちろん、どのメーカーも品質には最大限の注意を払っている。しかし、通常ならありがたい需要の声も、高まり過ぎてしまうと「何とかして生産しなければ」という苦肉の策を選択せざるを得ない理由になってしまう。結果、良くないウイスキーが世に出回ることをスワン博士は危惧している。

つくり手は使用する原料も樽も十分に吟味して選び、決してそこに嘘があってはならない。そして愛好家も、ウイスキーは年月が育む酒であることを十分に理解することが必要だ。
事態をただ嘆くだけでなく、市場にあるものの中から、自分にぴったりのブランドやボトルを探し出すことも楽しもう。幸い、世界中には飲みきれないほどのウイスキーがあるのだから!

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